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時は流れ──849年
所属兵団を決める日がやってきた。
空は、嫌になるほど高かった。
整列した新兵たちの前に立つ、黒い影。
圧倒的な存在感。無駄のない姿勢。
──リヴァイ兵士長。
レイ・ヴァイスは、息を整えながら前を見据えていた。
胸の奥が、静かに熱を持つ。
(……やっと、ここまで来た)
地下街で見た背中。
何年も追い続けた場所。
「調査兵団入団希望者は 一歩前へ出ろ」
エルヴィン団長の声。
迷いはなかった。
足を踏み出した瞬間、
背後で何人かが躊躇する気配を感じる。
隣にいるペトラは、躊躇はないものの、その手は震えている。
それでも、私は止まらない。
(ここに来るために生きてきたのだから)
⸻
兵舎へ移動後、班編成が告げられる。
「……次。レイ・ヴァイス」
その声に、身体が強張った。
兵長が――
彼女の名前を呼んだ。
一歩前へ出る
「はい」
視線が交わる。
あの日と同じ、冷たい目。
けれど今は、地下街の闇ではなく、光の中にいる。
「お前だな。白いの」
兵長は一瞬、目を細めた。
まるで何かを思い出そうとするように。
「……地下街育ちか」
「……え?」
驚いたように目を見開く
「違ぇのか」
「……いえ、合っています」
「そうか」
短いやり取り。
だが、胸の奥が震える。
「俺の班に入れ」
周囲がざわつく。
新兵が兵士長の班に抜擢されるのは、
極めて異例だからだ。
レイは、静かに敬礼した。
「了解」
冷静に見えた彼女の手は、微かに震えていた
⸻
初任務前の準備。
装備の点検。
刃の手入れ。
レイが黙々と作業していると、
足音が近づく。
「……手は止めるな」
低い声。
「はい、兵長」
隣に立つリヴァイは、装備を一瞥した。
「多少粗は目立つが、悪くねぇ」
「……ありがとうございます」
一瞬、兵長の視線が落ちる。
「……昔、地下街で会ったな」
心臓が、強く脈を打つ
「覚えていてくださったんですか」
「忘れるほど印象は薄くねぇ」
「……あん時のガキが、こんな所までよく来たもんだ。」
淡々とした声。
だが、それ以上兵長が語る事はなかった。
(……これで、十分)
レイは、気持ちをかみ締めながら
装備の点検を続けた ──
⸻
初陣。
門が開き、馬が駆け出す。
日差しが眩しい。
風が頬を打つ。
どこまでも澄んだ青空と、地平線まで続く大地。
青々と茂る木々と平原の中を、
鳥は自由に舞い、
鹿は風を切って駆けていく。
あの地下街では想像すら出来なかった光景が、
今、彼女の目の前には広がっている───
しばらく馬を走らせていると、
ふと、巨人の影がかかる
同時に 血の匂い。
「来るぞ」
兵長の合図。
レイは、迷いなく動き、
最短距離で間合いに入る。
「――今だ」
声が、重なる。
同時に刃が閃き、
巨人が倒れる。
「……ふっ、上出来だ」
短い言葉。
だが、それは兵長からの確かな評価だった。
⸻
任務後。
夕暮れの中、馬を下りる。
「……レイ・ヴァイス」
再び、名前を呼ばれる。
「はい」
「次も、俺に合わせろ」
「当然です」
即答。
レイは表情を変えない
「……ただし、絶対に死ぬな」
少し間を置いて、兵長は言葉を言い残した──
その言葉に、レイは目を見開いた。
兵長はもう背を向けている。
(……生きろ、じゃない)
ーー死ぬな
それは、何よりも重く優しい言葉に聞こえた
レイは少し息を吐き、
静かに応えた
「……はい。兵長」
地下街の白い影は、
今──正式に、調査兵団の一員となった。
そしてその名は、
確かにその日、兵長の中に刻まれた。