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 こんなに月が綺麗な夜があるなんて思わなかった。

「綺麗だね」

 そう言うと彼女はこう返してきた。

「ふふっ。なんでだと思う?」

「君と一緒に見ているからかな」

「うーん、まあ、合格としましょうか」

「何が答えだったの?」

「それはね――」

 その瞬間、僕らは宙に浮かんでいた。

「私が魔法でそうしているからよ」

「へぇ、そんな魔法もあるんだ」

「あまり驚かないのね」

「だって君と今夜の月が綺麗なことに変わりはないから」

「……私も?」

「そうだよ」

 月明かりに照らされている彼女は本当に綺麗だ。このままずっと見つめ合っていたい。けれども彼女は何故か僕から目を逸らしてしまった。直後、身体が徐々に下降していくのを感じる。これも彼女の魔法によるものだろうか。

「どうしたの?」

「そのっ、言われ慣れてないから」

「とても綺麗なのに?」

「普段は隠してるのよ。でも今回は夜だったからまだ良いかなって」

 成程。だから容姿を褒められ慣れていないのか。

「自信持っていいよ。でも、普段から素顔を晒すのは許可しない」

「どど、どうして?」

「他の人に取られたくないからに決まってるじゃない」

「よくそんなことを恥ずかしげもなく言えるわね」

「当たり前じゃない。言葉は気持ちを伝えるためにあるんだから」

 正直に答えると、彼女は俯き黙り込んでしまった。マイナスな気持ちを抱かせてしまっただろうか。

「大丈夫?」

 心配になり声をかけると、微かに言葉が聞こえた。

「あなたのことだけは、信じてあげるわ」

「嬉しいよ。ありがとう」

「どっ、どういたしまして……」

 二人きりの夜は、まだ終わらない。

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