【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
麻酔科医の赤さん
小児科の看護師水さん
のお話です
赤視点→桃視点
「あれ、ないくんじゃん」
院内の講堂の入口で、見慣れたピンク色の髪を見つけた。
今日は職員向けにインフルエンザの集団予防接種が行われている日で、各自仕事の手が空いた時間に接種しに行くことになっている。
列の最後尾にいたないくんに後ろから声をかけると、そのピンク色がゆっくりとこちらを振り返った。
「…え、どうしたの…?」
目が合ったないくんは、完全に生気を失っていた。
顔は青白く、その眼差しからは力が全く感じられない。
午前中に会ったときは精力的にきりきりと働いてた…よね?
どうしたんだろうと思ったけれど、答えが返ってくるよりも早く何となく一つの考えが頭に浮かんでしまった。
「え、まさかだけど…注射怖いとかじゃないよね?」
そんなわけないだろう、と思いながらも冗談まじりに口にする。
言った瞬間、ないくんがビクリと肩を強張らせた。
「そんなわけないじゃん」とか何とか言おうとしたけれどうまく声にならなかったのか、口をパクパクさせてそのまま言葉を呑み込んでしまう。
「…まじ?」
若い天才外科医なんて院内でも評されてる、あのないくんが…?
麻酔科医の俺は手術やら何やらでないくんと一緒になることが多く、その仕事っぷりは普段からすぐ近くで見ている。
今朝、腹腔鏡下で胃切除を鮮やかにこなした人間と同一人物とはとても思えない。
「他人の体は嬉々として切りまくれるのに、自分に向けられるのは細い注射針でもダメなの?」
何それおもしろいじゃん、思わず笑うとないくんは不機嫌そうに「言い方…」と呟いて唇を尖らせた。
「前さ、何の時だったかな…採血でほとけっちが担当になったんだけど、失敗されて3回くらい刺されて最悪だった…」
学校の体育館のように広い講堂の中は、もう既に接種待ちの職員で行列ができていた。
ゆるりと列が進んで行く中、ないくんは重そうな足取りでそんな話をする。
その時のことを思い出したのか眉を顰め、震え出しそうに身構えていた。
「それは最悪。ほとけっち下手そうだもんねー」
「うちの小児科、看護師はあんまり採血とか注射とかしないじゃん。小さな子供相手だから医師がやることが多いし。だから多分他科の看護師より不慣れだと思う」
「そこに当たっちゃったわけね、ないくん」
ないくんは体の線が細いし血管も浮き出て見つけやすそうなのにね。失敗を繰り返して「血管どこ!?」なんてパニックになりそうなほとけっちの姿が目に浮かぶようだ。
そんな話をしていると少しくらいは気が紛れたのか、顔色がマシになったようにも見えた。
だけど接種予診票の確認や医師からの軽い診察を終える頃には、またないくんの足は床に縫い付けられたように動きが鈍くなった。
体を引きずるようにして、嫌そうににじりにじりと前進する。
「ないくん、ほらさっさと進んでよ。後ろ混んじゃうから」
ぐいとその背中を押すと、「りうら押すなよ…!」と往生際の悪い声が返ってきた。
そんなこちらの様子に呆れたのか、列の誘導をしていた看護師長が「ないこ先生!」と叱咤するような声で呼ぶ。
「医師がそんなんでどうするんです、ほら一番奥空いたので行ってください」
接種用に用意されている椅子は5人分ほど横に並んでいて、師長はないくんに一番奥を指さした。
「どうもー」と笑顔で会釈をして、俺は未だ嫌がるないくんの肩を後ろからぐいぐいと押す。
そうして辿り着いた椅子の向こう側で、待っていた医師がないくんに向けて手を差し出した。
「予診票預かります」
聞き慣れた声に、ないくんと俺は同時に顔を上げる。黒い眼鏡の奥の目を細め、青い瞳が笑っていた。
「ま、ろ…」
「良かったじゃんないくん、まろならうまそう」
そっか、今日の担当は小児科だったのか。
職員接種は1週間毎日行われるのだけど、実際に注射する担当は日替わりで受け持つ科が変わる。
まろに当たったのはラッキーだと思う。
新人医師や新人看護師に当たった方がないくんも辛かっただろう。
そう言えば、去年内科の若い医師のところに副院長が接種に来てたっけ。
あの時緊張でぶるぶる震えていた可哀想な医師の顔を思い出し、思わず苦笑いが漏れた。
そう、そんな新人医師に比べたらよっぽどマシじゃん。
「めっちゃ顔色悪いやん、ないこ」
予診票に最終チェックで目を通してから、まろは近くに用意されているアルコール綿に手を伸ばす。
そのままないくんの腕に塗ろうとしたところで、「いや、待ってまろ!」といつもより高めで掠れた声が制止した。
「普通聞くじゃん、『アルコールかぶれないですか?』って!手順飛ばすなよ」
「アルコールアレルギーないん知っとるもん」
「いやでもそういう手順は形式としてちゃんとしないと医療安全的にさぁ…!」
「はいはい時間稼ぎおつー。ぎゃーぎゃーわめいた方が痛く感じるで、こういうんって」
一旦座ったはずの椅子からまた腰を浮かしかけたないくんの腕を、まろが引っ張る。
すとんと再び椅子に座らせるものだから、周りの事務員や看護師たちがくすくす笑ってこちらを見ていた。
アルコール綿でないくんの右腕を消毒し、まろはにっこりと笑ってみせる。
「だいじょうぶだいじょうぶ。はい腰に手当ててー、三角形作るみたいに『えっへん』って感じのポーズしとってな」
子供をなだめるみたいなその言い方は小児科でのクセかと思ったけど、ないくんが顔を真っ赤にして「バカにしてんだろ!」なんて言うからどうやらまろは本当にからかっているだけらしい。
んはは、なんて笑いながらもないくんの右腕をしっかり掴み、もう片方の手で薬剤が充填された注射器を構えた。
それを笑いながら見守っていた時、俺の方はというと近くにいた誘導係の看護師長に声をかけられた。
「りうら先生、こっちも空いてるのでどうぞ」
隣の椅子を示されて視線を移すと、そこに目をきらきらと輝かせて待っている水色に気づく。
…いや、気づいてしまった。
「あ、僕こっちで待つので大丈夫です」
手を左右に振ってそう断り、更に後ろに並んでいる事務員らしい女の子に「お先にどうぞ」と笑顔で譲る。
途端に隣からプテボが響いた。
「ちょっとりうちゃん!? おいでよこっち! 僕が打ってあげるから!」
「やだよ。りうら、ほとけっちよりまろの方がいいもん」
そっか、盲点だった。
小児科が今日の接種を担当しているなら看護師のほとけっちがいてもおかしくない。
さっき聞いたないくんの採血の時の話を思い出してそう言うと、後ろの事務員の子も「え、この人下手なの…?」みたいな戸惑った目で見ている。
それがおかしくなって笑ってしまいながら、俺はもう一度目の前の2人に視線を戻した。
「ないこ、怖かったら俺の白衣の裾持っとってもえぇよ」
自分の白衣を指さしながら、甘めの声で言ってまろは笑う。
あぁこれもきっとおちょくってるんだろうな。
「子供扱いすんな…っ」なんて抗議をしながらも、ないくんは覚悟を決めようとしているのか大きく深呼吸を繰り返している。
「あのー、早くしてもらえます? 後ろ待ってるんですけど」
揶揄するように2人の間に割り込んで声をかけた。
すると隣からほとけっちが「りうちゃん! だからこっち空いてるって…!」と再度声をかけてくる。
「いや、大丈夫です、間に合ってます」
営業的な笑顔を浮かべてそちらは丁寧に完全拒否しておく。
ないくんの方に向き直ると、怒ったり怖がったりして忙しそうだった彼の手は、それでもまろの白衣をぎゅっと掴んでいるのが見えてしまった。
「ゆっくりみっつ数えてみ、3で刺すから。いーち、にー…」
さん、と言うより早く、まろが「はい終わった」と声をかけた。
固く目を瞑っていたないくんは、覚悟を決めるよりも早くにあっさりと終わってしまったことに驚いている。
目を白黒させ、瞬きを繰り返した。
「ないくん、終わったんなら代わって」
丸い絆創膏を貼ってもらったないくんの背中を押し出すようにして、俺は代わりにその椅子に陣取る。
「痛くしないでね、いふせんせー」
にやっと笑って言うと、まろは俺の手から予診票を受け取りながら「ふん」と鼻であしらった。
「ほとけよりは絶対マシやわ」
「ちょっといふくん!? ひどくない!?」
隣から響いてきたそんな甲高い声に、思わず俺は声を上げて笑う。
…それよりも、看護師長が必死に誘導しているにも関わらず誰もほとけっちの列に並ばなくなってしまった。
それを見て、俺のせいかなぁ?なんて心の片隅でちらりとだけ思った。
「…めっちゃ痛いんですけど」
家に帰り夜風呂に入る頃になって、接種部位が腫れていることに気づいた。
500円玉より少し大きいくらいに円形に赤くなっている。正確に言うと痛いというよりは、熱を持って痛痒い。
「下手くそだったんじゃないの、まろ」
広めの湯舟で顎の辺りまで湯に沈みながら、俺は唇を尖らせて腫れた腕を突きつける。向かい合わせに座っているまろはそれをちらりとだけ一瞥した。
「接種従事者の技量は関係ありませんー、知っとるくせに。どっちかっていうとないこの体質やろ」
知ってるよ。
だけどたとえ八つ当たりでも一言何か言ってやらないと気が済まないくらいには、注射が嫌なんだよ。
もうこればっかりは幼い頃からだから克服できる気がしないし、どうしようもない。
「毎年そんな大騒ぎで注射受けるん? 大変やん」
打つ医師の方が、と付け足してまろは楽しそうに笑う。
「去年は内科の先生が担当だったけど、しまいには『うるせぇ!』って怒られた」
「まぁそうなるよな」
はは、といつもより高めの笑い声が浴室内に反響する。
「でもそんなに痛くなかったやろ?」
重ねて尋ねられ、俺はまた唇を歪めた。
…確かに、今日は打たれたことにも一瞬気づいていなかった。
そう言えばチクっとしたかも、くらいで痛いと思う間もなかった気がする。
「注射が怖いって…小児科に来る患者さんより子供やん」
それでも医師か、とからかう声が続いた。
そんなこと言われても、医師でも嫌なものは嫌なのだ。
「昔から痛みに弱いんだよな。転んだらすぐ泣いてた覚えある」
「『痛みに弱い』…ねぇ」
意味ありげに俺の言葉を復唱するそのまろの低い声に嫌な予感がして、思わず退路などないのに身を引こうとしてしまった。
それを逃さないかのように、入浴剤で薄ピンクに濁った湯の中、まろの大きな手が俺の手首の辺りを掴んでくる。
「今からすることの方が注射なんかよりよっぽど痛いと思うんやけど、不思議やな」
「…っ、その下ネタ好きなエロ親父みたいな発言やめろ…!」
いやそれは痛いって言うよりも…なんて言いかけた言葉を慌てて罵声に変えた。
勢いよく手を振りほどこうとしたけれど、まろはくるりと難なく翻す。
そのままぐいと無理矢理手を合わせると、指を絡めるようにして握られた。
「あがってベッド行こうか、ないこ」
ストレートな誘いに、一瞬で脳内に明日のスケジュールを広げてしまうバカ正直な自分が嫌だ。
確か手術は入ってない。
だけど、だからと言ってノリノリで応じるのも何かが違うじゃん。
「予防接種した日って確か激しい運動禁止じゃなかったっけ」
雄要素を全面的に出してきたときのまろは本当に手に負えない。
睡眠時間も削られてしまうほど求められて、明日の業務に差し支えるに決まってる。
体力自体は自分の方があるはずなのに、こういうときのこいつのスタミナは測り知れない。
「えーどんだけ激しく動く気なん」
ないこたんのえっちーと付け足したその顔に、舌打ち混じりに空いた方の手でばしゃりと湯をかけてやった。
「うわ」と楽しそうに笑ったまろは、濡れた犬か猫のようにぶるりと頭を振って雫を落とす。
それでも俺を逃がさないかのように、握った指先に更に強く強く力をこめた。
コメント
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制作者さんマジで神続きお待ちしてます神作品
天才やね! あんまない部類をありがとうございます!! フォロー失礼します! 続き待ってます!!