テラーノベル
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食事会は滞りなく進み、参加者たちは楽しく話しながら過ごしている。
こういうイベントを開いたのは初めてだけど、気心知れた人同士なら素直に楽しいよね。
もしも向かいにお偉いさんなんて座っていたら、緊張してそれどころでは無さそうだけど……。
そう考えると、大司祭様とかは招待しなくて正解だったかな。
良い人ではあるんだけど、さすがにみんな、緊張しちゃいそうだからね。
「……最後のケーキも、美味しかったわね」
デザートのケーキを食べ終わると、レオノーラさんが感想を言った。
確かに、予想に反して何だかやたらと美味しかった。
「これも、うちで作ったの?」
近くにいたクラリスさんに聞いてみる。
「はい。こちらのケーキはルーシーが作りました」
「そうなんだ。ルーシーさん、凄いね」
言われてみればルーシーさん、お菓子作りが得意そうにも見えるもんね。
しっかり計量して、しっかり厳密に作る……っていうのが似合うというか。
いつもの食事ではデザートは出てこないから、こういうものが作れるなんて私も初めて知ったんだけど――
……でも、お茶を入れるときだけ、あんなに甘党になるのは何故なんだろう。
「はぁあ……。私も堪能しました!
それにしても可愛くてケーキ作りも上手いとか、反則ですよ!」
テレーゼさんは相変わらずである。
「テレーゼさんも可愛いから、受付のスペシャリストになれば反則になれますよ」
「えぇー? 私、仕事はちゃんと頑張ってますよ!?」
「まだ、頑張る余地はあると思いますけど……?」
例えば大声で呼ばないとか、仕事中に食堂に誘わないとか……。
「そうだよなぁ。
テレーゼがもう少し仕事ができるようになれば、アイナさんの担当を任せても良いんだけどなぁ……」
「え、本当ですか!? それじゃ私、頑張ります!」
「ちゃんと頑張ってるって、さっき言ってなかったか……?」
でも、仕事のできるようになったテレーゼさんに担当してもらうと、ダグラスさんとの接点が無くなってしまうのかな?
今までお世話になっていることだし、それはそれで何だか寂しい気がする。
「うん、そうですね。
ゆっくり頑張っていけば良いと思いますよ」
私はとりあえず、そんな言葉で濁しておくことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――そうそう、アイナさん。お祝いの贈り物があるの」
ふとしたタイミングで切り出してきたのは、レオノーラさんだった。
「そうなんですか? ありがとうございます。
デザートも頂いているのに、何だかすいません」
「あれはお屋敷のみなさん宛てだから、気にしないで。
それでね、これ……ちょっとしたネックレスなんだけど」
そう言いながら、綺麗に包装された包みを手渡してくれた。
包みを開けてみると、そこには『ちょっとした』どころではない、綺麗なネックレスが入っている。
「わぁ、凄いですね……!」
「本当ですね、さすがレオノーラ様の見立て……」
「私とは縁の無さそうな……」
女性陣が3人、それぞれ言葉を漏らす。
「普段使いはさすがにできないけど、Sランクの錬金術師ともなれば、フォーマルな場にも行くことが増えるでしょう?
そんなときにでも、使ってもらえると嬉しいわ」
「そ、そうですね……。
そういう場はあまり、考えたことが無かったですけど……」
何となく偉い人が主催した食事会とか、舞踏会とかを頭の中でイメージしてみる。
うーん。そんなに改まった場には行きたくないけど、行かなきゃいけないときも出てくるんだろうなぁ……。
「あともうひとつあるんだけど……これも差し上げるわ」
「え?」
レオノーラさんはそう言いながら、もうひとつ小さな箱を手渡してくれた。
それを開けてみると、不思議な輝きをした石が入っている。
んん……?
これ、何だか見覚えがあるような――
「それは『火の封晶石』って言うんですって。
アイナさん、アクセサリよりも錬金術の素材の方が嬉しいかなって」
「え、えー? どっちも嬉しいですよ!
でもこんなに高いもの、良いんですか?」
「まぁ、良いんじゃないかしら」
戸惑う私に、レオノーラさんは|飄々《ひょうひょう》と返事をした。
「ふむ……封晶石か……。
錬金術師ギルドでもたまに取引されているが、贈り物にするだなんて……レオノーラさんは凄いな」
感心しながら言うのはダグラスさん。
さすが男性というか、さっきのネックレスよりもこちらに反応している。
「お祝いごとですから、これくらいはね?」
レオノーラさんがダグラスさんに微笑むと、ダグラスさんは少し照れたのか、しどろもどろになってしまった。
これは凄い。これが王族スマイルか……!
「両方とも、ありがとうございます!
封晶石は……出来るだけ自分で使うものの素材にしますね」
「そうしてくれると嬉しいわ。さすがに売られたら、ちょっとショックだし」
悪戯っぽく微笑むレオノーラさんに、心がときめく。
うーん、やっぱり可愛い人だなぁ……。
「――贈り物なんですけど、私たちからもあるんですよ!」
「そうそう、俺とテレーゼで用意したんだ」
テレーゼさんは椅子の横に置いていた鞄から、包みを出して手渡してくれた。
中を開けてみると――
「むむ? これは、本ですか?」
少し重量感のある、どっしりとした本。
鍵も掛けられるようで、錠には綺麗な細工が施されていた。
「本というか、分厚いノートだな」
「錬金術師の中には、作ったアイテムを1冊の本にまとめる人もいるじゃないですか。
そんなふうにとか、あとは日記とか他の用途にも使えますし、自由に使って欲しいなって」
「これは熟練の本職人が作った逸品でな……。
あとついでに、錠のところにテレーゼが装飾を入れていたぞ」
「えー、『ついで』って何ですかー。だって最初は柄がなかったんですよ?
渋いオジサンが使うならともかく、使うのはアイナさんなんですから! これくらいは飾らないと!」
「む。今さりげなく、俺のセンスをオジサンと言ったな!」
「むぎゅぅ!」
「……でもそれ、素敵な彫金ね。
テレーゼさん、良い仕事をするわ」
「えへへー♪」
テレーゼさんは、レオノーラさんに褒められて嬉しそうにしていた。
その一言で場を収めるレオノーラさんも、何だか凄い。
「ありがとうございます、大切にしますね!」
それにしても、手にしてみると結構ぶ厚い。
確かに錬金術で作ったアイテムを書いていくのも良さそうだけど……でも私、他の錬金術師とは違って作るものがまちまちだからなぁ。
作りたいものだけ作っているから、何というかこう……徐々にレベルアップしている感が無いというか。
それなら、日記にしちゃった方が良さそうかな?
分厚くてたくさん書けそうだけど、それ以上には生きていくだろうし。
そんな結論を出してから顔を上げると、左右の両方から視線を感じた。
さり気なく左右を見てみれば、エミリアさんとジェラードが、視線で何かを語り合っているところだった。
私が感じた視線は、これの余波か。
「――では次は私の番ですね!」
「……ああ、順番を決めていたんですね」
「ちょっと取ってきます!」
そう言うとエミリアさんは、一回食堂を出て、すぐに戻ってきた。
入口のところに置いておいたのかな?
「じゃじゃーん!
ガルルンのぬいぐるみ、ちいさいバージョン!!」
「ぶっ!?」
エミリアさんは紙袋から、30センチくらいのガルルンのぬいぐるみを勢いよく取り出した。
色は真っ白で、普通のガルルンより可愛い気がする。
「……ねぇ。それ、流行ってるの……?」
若干冷めた目で見たのは、レオノーラさんだった。
夕方、2メートルのガルルンを見たばかりだしね……。
「可愛いじゃないですか!?
これは白兎堂のバーバラさんに作ってもらったんですよ。
それで、わたしの用意した『白癒石』っていうのを中に入れたので、ぐっすり眠れること間違い無しです!」
「なるほど、枕元に置いておく感じなんですね」
「そうですそうです!
2メートルのぬいぐるみは、さすがに置けませんからね!」
受け取って感触を確かめてみると、ふわふわととても触り心地が良い。
『白癒石』っていうのは固そうだけど、中の方に入っているのかな? 特に固い感触は伝わってこなかった。
「ありがとうございます、それではベッドの上に飾ることにしますね!」
「はい!」
「――それじゃ最後は僕の番だね♪」
そう言いながら、ジェラードは彼のアイテムボックスから箱を1つ取り出した。
あれは――
……うーん? 一体何だろう……。