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「――はい、どうぞ。
Sランク昇格、おめでとう♪」
「ありがとうございます!」
ジェラードからお祝いの言葉と共に受け取った箱は、何だか少し重かった。
うーん? 何だろう、これ……。
「いろいろと考えてみたんだけど、僕はここら辺を贈るのが良いかな~、ってね。
ささ、開けてみてよ」
「それでは失礼して……」
少し緊張をしながら箱を開けてみると、中には紙に包まれた塊が入っていた。
それを取り上げて、紙を剥いでいくと――
カラン♪
……何だか、綺麗な音がした。
「おぉ……。これは、鐘ですか?」
そう言いながら軽く振ってみると、先ほどよりも澄んだ音が食堂に響く。
「うん、そうそう。ほら、お店に入るときに鳴るやつね!
アイナちゃんのお店を開くときにどうかなって思って、できるだけ綺麗な音がするものを選んできたんだ♪」
「なるほど……。
確かに今まで聞いたことのある鐘よりも、一番綺麗な感じがしますね!」
カランカラン♪
――うん、音も良いし、見た目もアンティーク調で好きな感じだし、これは嬉しいな。
「それではアイナさん、お店もさっさと開けないとね♪」
「うっ、そうですね……」
にっこりと微笑むレオノーラさんの言葉に、私は途端に詰まってしまった。
「わたしも、お店の方までは気が回らなかったですね……。さすがジェラードさん!」
エミリアさんはジェラートのチョイスに、納得するかのようにうんうんと頷いていた。
逆に言えば、ベッドサイドに気が回ったエミリアさんも、エミリアさんらしいんだけどね。
「それでは、この鐘はお店で使わせて頂きますね!
一応もう付いてはいるんですけど、少し鈍い音でしたし――
断然こっちの方が好みなんで、ささっと付け替えておきます」
「うん、そうしてくれると嬉しいな♪」
みんなからもらったものはメイドさんたちにお願いして、食堂の端に置いてもらうことにした。
アイテムボックスに入れちゃっても良かったんだけど、折角だからもう少し出しておこうかな……ってね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――みなさん、贈り物を色々とありがとうございました!
お礼と言ってはなんですが、私からも何か差し上げようと思って、こんなものを用意しました」
そう言いながら、アクセサリ屋さんで買ってきたガラス瓶を全員に見せる。
「あら、素敵ね。アリムタイト王国のものかしら」
……アリムタイト、王国……?
それは初めて聞く国の名前だけど――
「えーっと、そうですね。輸入してきたものらしいです。
それでこのまま差し上げても良いのですが、ご希望の方には、私が作った薬を入れてお渡ししようかなと」
「おぉ……。それは凄いな。
アイナさんならではと言うか……。それに品質も最高だしな……、なかなか手に入るものじゃないぞ……!」
最初に関心を示したのはダグラスさんだった。
私の作ったものをたくさん見てきたし、錬金術師ギルドの主任だしね。
「アイナさんからの贈り物……これはしっかり決めないと!
ところで、どんな薬があるんですか?」
実はまだ作っていないなんて言えない。
聞いてから作る予定だからね……!
「えーっと……とりあえずご希望を伺ってから、アイテムボックスの中を探してみますね。
テレーゼさんだったら……風邪薬とか?」
「それ、テレーゼには要るか?」
「むっ!? 主任、私のことをバカとでも――」
「いや、お前は病欠したことが無いだろ? いつも健康だから、必要なのかなって」
「確かに!
でもそれなら、主任は二日酔いの薬になりますよね!?」
「え? ダグラスさん、二日酔いで仕事に出るんですか……?」
それはちょっと、イメージが違うかも。
何だかんだで生活はしっかりしていそうなんだけどなぁ。
「そうなんですよ、アイナさん!
主任ったら年に1回くらい、やたら飲んで来るときがあるんですよー!」
「おいおい、そこまでは酷くないだろ……?」
「ま、まぁ……。
でもたまにあるなら、それでも良いんじゃないですか?」
「ふぅむ……。そうだなぁ、他にはすぐに浮かばないし、そうしておこうかな。
……何だかもったいない気もするけど」
それじゃダグラスさんは二日酔いの薬、ということで。
えーっと……せっかく贈るものだし、ちょっとアレンジして――
バチッ
……はい、完成。
「それではこちらになりまーす」
「ほう……。どんな効果か、鑑定しても良いかな?」
「はい、どうぞどうぞ」
ダグラスさんが鑑定スキルを使うと、宙にウィンドウが現れた。
──────────────────
【抗劣化・二日酔いの薬(S+級)】
二日酔い回復(大)
※追加効果:二日酔い回復×2.0、抗劣化×2.0
──────────────────
「……は?」
鑑定結果を見ると、ダグラスさんは変な声を出して驚いた。
「年1回くらいということなので、劣化しにくいものにしてみました!
一気に飲まなくても、少しで効果はあると思いますよ。何回かに分けて使ってみてください」
「お、おう……。こんな薬もあるんだな……。
さすがファーマシー錬金が得意なだけはあるというか……」
「はぁ、凄いですね……。これが世界トップクラスの錬金術師……!」
テレーゼさんも、ひたすら感心してくれている。
ふふふ、スキル頼みなんだけどね!
「それにしても、アイナさんはアイテムボックスの中で薬を入れているの?」
そんな冷静な指摘をしてきたのはレオノーラさんだった。
くっ、さすがに目の付け所が鋭い。
「はい、ちょっとした裏技があるんですよ。私以外は難しいでしょうけど」
「そうなんだよねー♪
アイナちゃんって、めちゃくちゃ器用なんだよね!」
私の苦し紛れの言い訳に、ジェラードが乗っかってきてくれる。
ジェラードは私のスキル構成を知っているから、誤魔化すのに協力してくれているのだ。
「ふぅん、さすが高レベルの職人……って感じね。私の専属にしたいくらいだわ」
「レオノーラさんの依頼なら最優先にするので、お気軽に!」
そのあとも、希望を聞きながら順番に薬を作っていった。
テレーゼさんはたまに寝付けないときがあるということなので、睡眠薬を。
エミリアさんは風邪薬を希望していたんだけど、折角なので万能薬を。
ジェラードは仕事中に何かあったときのために、HP回復と状態異常回復を兼ねた薬を作ってあげた。
……そして、最後に残ったのはレオノーラさん。
「レオノーラさんは決まりましたか?」
「うぅん、そうね……。
もしかして、身体の悪い部分に効くような薬はあるのかしら」
「はい。脚や腕、腰を治す薬とかはありますよ。
他のものは相談して頂けると」
「レオノーラさん。僕の右腕も以前は動かすことができなかったんだけど、アイナちゃんに助けてもらったんだよ。
ほら、この通り……ね!」
ジェラードは自身の右腕を動かして、私の実績をアピールしてくれた。
「そういえばそうだったわね。エミリア様から聞いてはいたけど、動きが自然すぎて気が付かなかったわ。
……もしかして、心臓病の薬なんてあるのかしら」
「心臓病ですか? えーっと、ちょっと調べてみますね」
そう言いながら『創造才覚<錬金術>』を使って、素材に当たりをつけて調べてみる。
1分くらいしたところで、ようやくそれっぽいものを見つけることができた。
それじゃ早速、れんきーんっ。
バチッ
「……ひとまず、こんなのはありました!」
かんてーっ。
──────────────────
【心臓病治癒ポーション(S+級)】
心臓病を永続的に治癒するポーション
※追加効果:体力回復(中)
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「……えっ?」
「だから、何でこういうのを持ってるんだよ……」
「わー、さすがアイナさんっ! すごーいっ!!」
レオノーラさん、ダグラスさん、テレーゼさんからは懐かしい反応をもらうことができた。
それに引き換え、エミリアさんとジェラードなんて、もう何の反応もしてくれないからね……!