「弱ーヤツってのは、誰彼構わず取り込んで身を護るんだ。」
ボスの個性は人、モノ何でも自分に纏わせて固めて、防御や攻撃を行う個性だった。やっとのこと倒した爆豪は、小夜の元へ急ぐ。マントラから皆を守るこの歌。爆豪にだけ聞こえた危険を知らせる声。
「(この歌は謳ったらダメなんだ!!アイツはオレらを庇って人で無くなろうとしてる!!)」
頭の中で流れる歌声が大きく鮮明になってくる。
「アルテミス!!…っ!?」
モニタールームのドアを勢いよく開けて飛び込んだ光景に目を疑うが、無我夢中で小夜の羽を砕く。恐ろしい顔でこちらを睨む小夜に爆豪は思わずたじろいだ。鍾波が短いマントラを唱えると風圧で2人は壁に打ち付けられる。
「人の心が残ってたようだ。君の声に反応した。」
「てめっ、まだやんのか…!!」
「争うつもりはない。ボスの応答がないからな。かといって、捕まるわけでもない。」
「待ちやがれ!!」
そこの女神、しっかり介抱してやるんだな。
apショットは空を割き、鍾波が羽織っていたジャケットだけが残った。
「余計なことしやがって!!」
舌打ちして言って、一糸纏わぬ小夜にジャケットをかける。夜が明ける前に急いで小夜を病院へ運んだ。
「起きてていいんか。」
しばらくして目を覚ましたと聞き病院へ。小夜の部屋は完全に太陽が遮られている。
「天井見るのも飽きたから。」
「差し入れ。食うか。」
「うん。食べる。」
と言われ林檎を剥く。
「あの歌、二度と歌うなよ。」
3個目に手を伸ばそうとした小夜の手が止まる。
「止めてくれてありがとう。でも本物の呪いの言葉に対向するにはああするしかなかった…。」
爆豪の、眉をしかめたその顔は怒ってはいなくて。
「怖い思いさせた??」
「あんな姿見せられるとさすがにな。」
「ごめん。」
「謝んな。薄々ヤバいことになるって思ってた。声が聞こえたから。」
「声??」
「あんたが一肌脱ぐって言った時に“ダメだ”って声が。」
「私そんなこと言ったかしら。」
「あんたの無意識の中の無意識がそう言わせたんだろ。」
「壊れても良いって覚悟決めてたはずなのに。あの時君の声がして羽を壊してるの見て…鍾波がマントラを唱えてくれてなかったら私、君を壊してたかもしれない。」
「俺の精神力ナメんな。たかが天使に壊されるほど弱かねーよ。」
笑う爆豪に小夜は涙を浮かべて頷いた。
それから退院の日。
「こんな夜更けにありがとね。」
外に出たら爆豪がいた。
「あんたの退院と俺の休みがかぶっただけだ。」
「寒かったでしょ。コーヒーごちそうするわ。」
断る間もなくカフェに入る小夜にため息ついてあとを追う。
「んー、幸せ。」
小夜は飲み物と一緒に頼んだスイーツを頬張る。それをつまみ爆豪はコーヒーをすする。
「(ホント幸せそうな顔。)」
「私のいない夜勤はどうだった??」
「起きた事件は対処できるけど、未然に防ぐのは難しい。あんたがいて初めて被害者の声なき声が俺らに届くんだ。改めてアルテミスの凄さを痛感したよ。」
得意げに微笑む小夜に思わず。
「って皆が言ってるのを聞いただけだ。」
照れ隠しにひと蹴り入れた。かれこれ1時間は話したか。
「家に帰ったらやることいっぱいだぁ。」
「病み上がりなんだからちょっとずつやれよな。」
「はーい。送ってくれてありがとね。」
小夜はマンションのエントランスに入っていった。
小夜の現場復帰は3日後だ。その前にラジオが再開した。
「(この人と一緒にいれるなら壊されてもいい…。)」
ぼんやりとカバーさせてもらったという曲に耳を傾ける。
例えば誰かのためじゃなくあなたのために
歌いたいこの歌を
まさしく自分のために歌ってくれているような錯覚を覚える。
「(もう壊されちまってるのかもな。)」
次第に重くなる瞼。彼女の歌声に包まれるように眠りに落ちた。