テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
大好きな君が死にますように
水×白、Rなし、学パロ
高校二年の春、僕、水は初めて「死ね」と願った。
願った相手は、白ちゃん。同じクラスの、関西弁を話す、あまりにもまっすぐで、うるさくて、笑うとこっちまでつられてしまうようなやつ。
「なあ水君、今日も帰り一緒に帰ろか?」
「……うるさい」
春風に紛れて白ちゃんの声が耳に刺さる。気づけば毎日、彼は僕の隣にいた。教室でも、帰り道でも。やめてくれ。離れてくれ。僕の心の中を、そんなに簡単に踏み込まないでくれ。
だけど、白ちゃんはまるで悪びれず、笑って言う。
「なんや照れてんの? そんなん、かわええとこやなぁ水君は」
うるさい。やめろ。僕は君のことが、ほんとうに、ほんとうに――
大好きなんだ。
だけど、白ちゃんは僕を友達としか見ていない。いや、たぶんそれすらも超えて、家族みたいに思ってるのかもしれない。何も知らずに、無邪気に、残酷に、僕に近づいてくる。
だから、願ったんだ。
「……白ちゃんが、死ねばいいのに」
心の中でだけ、何度も繰り返した。でも白ちゃんは、僕がどんな顔でその言葉を呑み込んでいるかなんて気づきもしない。今日も隣で笑っている。
「なあ水君、お前ってさ、オレのこと嫌いやないんやろ?」
ある日の放課後、屋上で白ちゃんが突然、真面目な顔で聞いてきた。
「なんで、そう思う?」
「そらまぁ、毎日一緒に帰ってくれるし、なんやかんやで目ぇ合うし……てか、オレのこと見すぎやねん、お前」
ドクンと心臓が跳ねた。
「……じゃあ、逆に聞く。白ちゃんは、俺のこと、どう思ってる?」
白ちゃんは少し黙ってから、空を見上げた。
「……すきやで」
心臓が止まりかけた。けど、続きがあった。
「友達としてな。親友や」
ほら、やっぱり。
僕と君の想いのすれ違いは僕を苦しめるんだ…
君が死んだらいいのに。
この感情ごと、全部、なかったことにできたらいいのに。
「なあ、水君」
白ちゃんの声が、いつになく低かった。
「……オレ、もうすぐ転校すんねん」
「……は?」
「親の仕事や。急に決まって。関東の方行くらしいわ」
「……いつ?」
「来週の金曜」
時間が止まった気がした。
白ちゃんがいなくなる。白ちゃんが、僕の前から、いなくなる。
「そっか。……よかった」
「え?」
「やっと、死んでくれる」
白ちゃんは目を見開いた。でも僕は、何も言い直さなかった。
――大好きな君が、死にますように。
僕の世界から、君がいなくなれば、この気持ちも、消えてくれる気がした。
その週の金曜日、白ちゃんは最後まで笑っていた。
「水君、またな!」
「……うん、また」
それから、白ちゃんが死んだ。
正確には、転校先に向かう途中、事故に遭った。
新聞に載る小さな記事。学校中がざわついて、担任が泣いた。
だけど僕は、涙が出なかった。
心の中で、何度も祈ったからだ。
大好きな君が、死にますように。
その祈りが、本当に叶ってしまうとは思っていなかった。
その夜、白ちゃんから届いた一通の手紙が、部屋の机の上に残されていた。
水君へ
オレ、ほんまはわかってたんやで。
お前がオレをどう思ってるか。
でも、言えへんかった。逃げてた。
ほんまはオレも、同じ気持ちやった。
オレも、お前が、好きやった。
ほんま、ごめんな。
最後まで、臆病なままで。
――白
白ちゃんが死んで、初めて僕は泣いた。
泣きながら、何度もその名前を呼んだ。
ごめん、ごめん、嘘なの。
死なないで。
生きてて、お願い。
やり直そう。
全部言うから。
全部伝えるから。
だけど、白ちゃんはもう、二度と帰ってこない。
神様はきっと、願いの言葉じゃなく、「本当の気持ち」を聞いてたんだ。
白ちゃん、おはよ」
ふわっとした声に振り向くと、そこにはいつも通り、水君がいた。くせ毛が朝の光に透けて、ちょっと眠たそうな目で僕を見上げてくる。
「おはよ、水君。……寝坊したやろ?」
「してないし。」
そう言ってツンツンした態度でそっぽを向く。
「はいはい、うそつきにはコンビニで買った菓子パン半分こしてあげへんで」
そんな風に、僕らの朝は始まる。
水君はふわふわしてて、たまに何を考えてるんかわからん。
でもな、不思議と目が離せへんのや。
教室でも、下校中の道でも、ふとした瞬間、僕は水君を目で追ってまう。
「なあ、水君。今日も一緒に帰ろ」
「はぁ?なんで………まぁ、いいけど。」
頬を赤くして言う水君を見てると、どうしてか胸の奥がくすぐったくなる。
――僕、恋してるんやろか。
それに気づいたのは、たぶんもっとずっと前。
だけど、気づかへんふりをしてた。
だって男同士やし、水君はそんなふうに僕を見てないって、思ってたから。
「なあ、水君ってさ、オレのこと嫌いちゃうよな?」
放課後の屋上、ぽつりと問いかけた。
「なんで、そう思うの?」
水君は少し驚いたような顔をして俯く。
「だって、水君なんだかんだ一緒帰ってくれるし…」
「……じゃあ、逆に聞く。白ちゃんは、俺のこと、どう思ってる?」
その問いかけに少し驚く。
本当のことを言ってしまおうかと
僕は、君のことが――
友達以上に、すきやった。
けど、言われへんかった。
怖かった。
関係が壊れるのが嫌で、またいつもみたいに笑ってごまかした。
「オレも水君のこと、すきやで。親友としてな」
その言葉に、水君がほんの一瞬、目を伏せて「うん」とだけ言った。あれがたぶん、僕たちのすれ違いの始まりやった。
引っ越しの話が出たのは突然やった。
親の転勤。関東の高校へ転校。あと一週間もない。
「……ほんま、ごめんな、水君」
「そっか……よかった」
「え?」
「やっと、白ちゃんが……死んでくれる」
そのとき、僕は、心臓を握られるような衝撃を受けた。
死ね、じゃなくて、死んでくれる。
まるで願いが叶ったような口ぶりで。
わかってた。僕が鈍感なふりして、水君の気持ちに気づかんふりしてたことも。
その優しさが、彼をずっと苦しめてたことも。
だから、僕は手紙を書いた。出発の朝、水君の机にそっと置いた。
そのまま、僕は死んだ。
事故やった。偶然か、罰か、わからんけど。
でもな、水君。
最後に君のこと、すきって言えてよかった。
ほんまは、もう一度ちゃんと伝えたかった。
泣いてくれてありがとう。
僕のこと、忘れんでな。
ほんまに、
大好きやったで、水君。
―ifルート・白視点―
「……そっか。やっと、白ちゃんが……死んでくれる」
水君の言葉が、耳の奥に焼きついた。
冗談やない。
彼の目は、ほんまに僕が“消える”ことを願ってるみたいで――でも、その奥に、ぐしゃぐしゃな感情が隠れてるのが、僕には見えてしまった。
優しすぎて、言葉にできない感情を、そういうふうにしか吐き出せへん子やって、知ってたのに。
けど、僕は逃げてた。ずっと。
「ごめんな、水君」
そう呟いて、僕は新幹線に乗らなかった。
「白ちゃん!? ……え、なんで、ここに……」
「水君に、ちゃんと伝えなあかんことあるから」
その日、僕は東京行きの荷物を全部放り出して、もう一度、水君の前に立った。
「僕、ほんまはな、水君のこと……友達とか、親友とか、そんなんやなくて、もっと――」
言葉が詰まる。怖い。やっぱりまだ怖い。
けど、水君が、僕を見てくれるその目が、まっすぐで。
「僕も……言いたいこと、ある」
水君の声は震えてた。でも、しっかりと僕を見ていた。
「白ちゃんがいなくなるくらいなら、死んでほしいって思った。
最低だって思った。
でも、そのくらい、僕……白ちゃんのことが、好きだった。
ずっと、ずっと前から」
心臓がドクンと鳴った。
「白ちゃんが、僕のこと、好きじゃなくてもいいって、思ってた。でも、でもやっぱり……僕のこと、見ててほしくて、知ってほしくて……!」
水君は、涙をこらえながら、でも懸命に言葉を続けた。
「僕、白ちゃんが好きだよ」
僕は、笑った。
泣きそうで、でも笑ってた。
「僕も、水君がすきや」
「……ほんとに?」
「ほんまや。嘘ちゃう。誰がなんと言おうと、僕は水君が好きやって、胸張って言える」
その瞬間、水君が泣きながら、僕に抱きついてきた。
こんなに小さな体で、こんなに大きな想いを抱えてたんやって、思ったら、僕も泣いてた。
僕は結局、転校しなかった。
親とはケンカしたけど、自分の人生くらい、自分で決めたいって言ったら、少し驚いた顔して、でも最終的には認めてくれた。
今、僕の隣には、水君がいる。
教室でも、帰り道でも。
それは、前と同じやけど、決定的にちがうのは――
「白ちゃん、今日も手、つないで帰る?」
「……ふふ、しゃーないなあ。ほな、つなごか」
僕らはもう、ちゃんと伝えられる。
「大好き」も、「そばにいて」も。
もう、あんな悲しい願いなんて、必要ない。
水君が、僕の世界で生きていてくれて、よかった。
コメント
7件
待って 夢の中 で 見たこと ある
ぇ、あ、好きです...(( イラスト天才すぎるのにそれに加えて小説書くのもうまいとかうちの尊敬様天才.ᐣ.ᐟ 漫画いつまでも待ってます.ᐟ.ᐟ