もう何度も思い返してしまう。
付き合って1ヶ月経ったあの日、私は、柊君にたくさんの愛情をもらった。こんな私をいっぱい褒めてくれた。
なのに付き合って2年経った今でも、まだ自分に自信が持てないままで、私はなかなか自分を変えられずにいた。
さっきも、電話を切る前の、「お仕事頑張ってね」の言葉に対して、
『あと1ヶ月、今のプロジェクトが終わる頃には結婚式だから、それを楽しみに頑張るよ。いつも柚葉は僕に元気をくれるね。ありがとう』
って、優し過ぎる言葉をくれた。
元気をくれるのはいつも柊君の方。泣けるくらいたくさんの愛をもらってるのは、いつだって私なんだ。
正直、まだ佐藤君の影がチラついて怖かったけど、柊君と話して心が温かくなれた。自分の存在意義を感じさせてくれる柊君には感謝しかなかった。
私にとって柊君は――かけがえのない最高の王子様。
私は、柊君の言葉を胸に、足早にマンションに向かった。あと少しで部屋に入れる。
きっと、大丈夫。
いろいろあっても上手くいくよ。
柊君のおかげでそう思えた。
だけど……
マンションに着いて、ドアを開け、部屋に入ろうとした瞬間、私は誰かに背中を押されて、部屋の中に倒れ込んだ。
倒れながら振り向くと、そこには、帰ったはずの佐藤君がいた。
見おろしながら睨む、佐藤君の視線が恐ろしくて、私は身動きが取れなかった。
さっきまでの安心感は全て消えて、一瞬にして暗闇に突き落とされた。
「ど、どうして……? 佐藤君、なんでこんなことするの? 怖いよ」
「お前さ、あの超有名なIT企業のIS(アイエス)の社長と結婚するんだってな」
「え? どうしてそんなこと知ってるの?」
私は震えながらも、廊下に手をついてゆっくり立ち上がった。
「そんな情報なんてどっからでも手に入る世の中だし。このマンションだって、大学時代のやつらから聞き出したよ。まったく、プライバシーもあったもんじゃないよな。それにしてもお前、上手いこと玉の輿に乗ったな」
佐藤君は、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
「玉の輿なんて、そんなんじゃない。止めてよ」
「玉の輿だろ、完全に。あんなお金持ち、そうはいない。お前だけ幸せになるとかズルくない? 俺にも幸せ分けろよ」
意味不明。
頭がおかしくなっちゃったの?
「わけわかんこと言わないで!」
「結婚したら相当裕福な暮らしができるんだろ? ちょっとこっちに回してくれよな。俺、金に困ってるんだわ」
「相談ってそんなこと? どうして私があなたのために? 私達、もう何の関係もないでしょ?」
腹だたしくて、かなり強い口調で言い返した。
「柚葉……冷たいこと言うんだな。俺、お前の彼氏だったんだぞ。覚えてるだろ? 俺達、いろいろ楽しんだじゃないか」
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