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#12
side omr
木曜日。
若井の部活が休みの日。
いつからか、俺たちはこの日だけはふたりでゆっくり話す時間を取るようになっていた。
教室にはもう誰もいなくて、廊下からも遠ざかった隅の席に、俺と若井だけが残っている。
窓の外はすっかり夕焼けで染まっていて、柔らかいオレンジ色が若井の髪にかかってるのを、ぼんやりと眺めていた。
何を話してたのか、正直よく覚えてない。
たぶん、週末に観たい映画の話とか、テスト範囲がどうだとか、そんな取り留めのないこと。
でも、急に、若井がこっちを見て、言った。
wki「…ねぇ、キスしたい」
唐突すぎて、思わず目を見開いた。
omr「……はっ?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
でも若井は真剣な表情だった。
真剣に、俺の目をまっすぐ見て、もう一度言う。
wki「キス、したい。今」
顔が一気に熱くなるのが分かった。
教室には誰もいないのは分かってる。
けど、こんな急に、心の準備なんてできてなくて。
omr「……い、今……?」
wki「うん。だって誰もいないし」
その言い方があまりにも自然で、逆にこっちが落ち着かなくなる。
でも、断る理由なんてなかった。
むしろ本当は俺も、ちょっとだけ、期待してた。
だから、小さくうなずいた。
omr「……いいよ」
若井は嬉しそうに笑って、椅子を引いて俺の方に体を寄せる。
心臓がうるさい。
呼吸の仕方が分からなくなりそうだった。
そして、唇がそっと重なる。
omr「…ん……//」
軽くて、やわらかくて、くすぐったいくらい短いキス。
それだけだったのに、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
目を合わせた瞬間、若井がまた小さく笑って、今度は角度を変えて、もう一度キスをした。
それからもう一回。もう一回。
お互い、何も言わずに、でも確かめるように甘いキスを何度か交わした。
言葉よりもあたたかくて、静かで、でもどこか高鳴る、そんな時間だった。
その日から、木曜日の放課後は“そういう日”になった。
誰もいない教室で、窓から差す夕焼けの中、俺たちはそっとキスを交わす。
口約束をしたわけじゃないけど、自然とそれが“ふたりの決まり”になっていった。
若井の部活がある日も、休日のデートでも、たまに不意打ちのキスをされることがあった。
だけど、それはそれで嬉しくて、でも木曜日だけは特別だった。
wki「木曜、またな」
omr「うん……絶対ね」
その約束だけで、今週も乗り切れる気がした。
俺たちは 少しずつ、だけど確実に、恋人同士になっていってた。
side wki
木曜日。
放課後の教室には、今日も俺と元貴しかいない。
日は少しずつ短くなってきていて、窓の外の夕焼けがやけに眩しくて_だけど、そんなのも全部、この時間を彩る背景みたいに感じてた。
机に腰かけた俺と、その前に立つ元貴。
お互い言葉も交わさず、自然と距離が近づいていく。
俺は、元貴の髪に指を通しながら、そっと顔を近づけて、キスをした。
触れるだけの、軽いキス。
だけど、何度重ねても慣れない。
元貴のまつげが震えて、目を閉じるたび、こっちまで鼓動が早くなる。
もう、木曜日の放課後は完全に“俺たちの時間”だ。
こうして安心して触れ合える、唯一の場所であり、約束された時間。
……のはずだった。
ガラガラ_!!
勢いよく開かれた教室の扉。
一瞬で俺も元貴も固まる。
驚いて振り返ると、そこにいたのはクラスの女子、佐倉だった。
彼女はドアの前でフリーズし、目をまんまるにしてこっちを見ていた。
元貴は、ぱっと顔を赤くして一歩下がり、言葉を失っている。
さっきまでの甘い空気が一瞬で凍りついた。
まずい。
またからかわれたりして、元貴が傷つくするかもしれない。
どうにかしないと。
omr「わ、若井……!」
元貴が俺の袖を軽く引っ張る。
その手が少し震えてる気がして、胸がぎゅっと締めつけられる。
俺はゆっくり佐倉に向き直って、口を開いた。
wki「えっと……その、今のは……」
どう言い訳したらいいのか、言葉を選んでると_
skr「ご、ごめん!忘れ物取りに来ただけだから…! 尊…じゃなくて!…その……お、お幸せにっ!!」
そう言って、佐倉は顔を真っ赤にして、半ば逃げるように走って行った。
廊下に響く足音が遠ざかっていく。
w&o「「……え?」」
俺も元貴も、同時にきょとんとした。
omr「今、なんて言った……?」
wki「たぶん、『お幸せに』って……」
ポカンとしたまま顔を見合わせたあと、俺は思い出した。
そういえば佐倉、前に男同士のアニメの話してたっけ。
机の上にそれっぽいイラストがあるのも見たことがある。
wki「……もしかして、応援してくれる系の人かも」
omr「え……応援……?」
元貴は、まだ少し不安そうに眉を寄せながらも、徐々に表情が和らいでいく。
wki「うん。あの感じ、たぶん冷やかす気なんて全然なかった。むしろ、本気で応援してくれてるっぽい」
俺の言葉に、元貴はふっと息をついて、小さく笑った。
さっきまでの不安げな顔が、嘘みたいに柔らかくなる。
omr「……よかった。怖かったんだ。またからかわれるの」
wki「うん、分かる。でも、大丈夫だよ。あの子はたぶん、俺たちの味方」
俺はそう言って、元貴の手を軽く握る。
その手は、さっきよりもしっかりと、俺の手を握り返してきた。
wki「……じゃあ、続き、してもいい?」
ちょっと冗談まじりにそう言うと、元貴は恥ずかしそうに俯いて、でもほんの少しだけ首を縦に振った。
そしてまた、静かにキスをした。
夕焼けが沈んでも、俺たちの“木曜日”はまだ終わらない。
腐女子を登場させたかっただけです