コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヒグラシが煩く鳴いている。
「…。もう夏休み、終わっちゃうね」
彼の表示は夕日で影になり、見えなかった。
けれど声色は悲しげなことを告げていた。
「本当に、転校しちゃうの?ここに居られないの?」
「お父さんの用事だから仕方ないよ」
小学生に分かるはずもない、変えられない現実を目の当たりにした。ただ、遠くへ行ってしまうということだけは分かった。それを私は理解した瞬間、涙が溢れ出した。
「うぅ、ひっく、…。それで……いいの?」
「…。」
少しの間、彼は沈黙した。
「…ぐすん、行っちゃうの?」
情けなく泣きながら、彼を引き留めようとする。
「仕方ないよ。僕には何も出来ない。」
少し大人びた冷静さのある回答が返ってきた。彼はまるで大人だ。その冷静さを見て、涙が止まる。
「凄いね、蒼は。どうしてそんな冷静なの?」
ふと、思ったことを口に出す。
「足掻いたって現実は変わらないって気付いたからさ。大した事ないよ。というか、知らない方がいい。」
「そっか。」
小学生にしては難しい返答で、この時はよく分からなかった。けれど、クールな彼はやっぱりかっこいいと思えた。
するなら、今だと思った。
「ねぇ、もし大人になったら、結婚してくれる?」
少し沈黙の間が入る。ドクン、ドクンと心臓が高鳴っていく。もしかすると断られるのではないかという恐怖も同時に芽生えた。思考がグルグルと回転して、様々な感情により倒れないようにするのでやっとだった。
「…いいよ」
「やったあ!」
少し悩んでいたけれど、それでも許諾してくれたことに対して歓喜の声が漏れる。さらに喜びの感情が混ざり、足の力が抜ける。
「おっと、大丈夫か?」
「う、うん」
突然支えられてびっくりし、その場に座る。
少しでも気を紛らわせるために口を開く。
「あの、さっき言ったこと、約束だよ」
「ああ。覚えておく」
安心感と共に爽やかな夏の香りが通り過ぎていった。
その後、彼はどこか遠くへ引っ越してしまった。
あれから時が経ち、15歳になった。そう、高校生になったのだ。
そして、高校へ入った瞬間、驚いてしまった。なぜなら、あの幼馴染の彼がいたからだ。
早速、声をかけてみようと近付いた。その瞬間、隣から女子生徒が1人やってきた。
「蒼くーん!」
そう言って勢いよく彼の胸へ飛び込んでいった。彼女は何者なのだろうか。
「…黄彩、久しぶりだな」
少し口角が上がって嬉しそうな声色を発している。
「んもお、相変わらず堅苦しいね〜w」
まるで…仲良さそうに話している。いや、実際に仲が良いのだろう。
「そうか?直したつもりだったんだが…。」
何事もありませんように、と心の中で祈った。けれど、夢は呆気なく壊された。
「まぁまぁ。それよりもさ、今日の夜、外食しに行かない?」
「そうだな、記念だし行こうか」
まるで2人で外食へ行くことに慣れたような会話。信じたくないと思ったのも束の間。最後の言葉で、私の精神は完全に壊れてしまった。
「そう来なくっちゃ!流石私の彼ピ☆」