らうあべ
ラウールside
『あ、見てこれ可愛い笑』
「何これ魚?」
『うん、ダンゴウオってやつらしい』
「めっちゃ丸っこいね、ヒレちっちゃいけど泳げるのかな笑」
土曜日の夜11時半ソファに彼と二人。いつもよりも遥かに近い距離でYouTubeを見ている。1時間程一緒にクイズを解いて、頭使ったからと言って適当に癒されそうな動画を探しだした彼が見付けてきたのがこの丸っこい岩みたいな魚だった。何も特別なことをしているわけじゃない。だけどこのよくわからない魚を見て笑っている彼は自分しか知らないんだと思うと謎の優越感を覚えたし、この岩みたいな生物を見て可愛いと言っている彼はいつもの数段可愛らしかった。そんなこと言えるわけもないけど
『いつか飼ってみたいな笑 丸ちゃんとか言ってさ』
「名前安直過ぎない?もうちょっと何かあったでしょ笑」
『えーじゃあお丸?』
「それふっかさん」
『ほんとだこれはふっか笑』
無意識なのかな。阿部ちゃんがあの人の名前を呼ぶときっていつもより少し、ほんの少しだけ高めの声出すんだよね。そんな考えが脳裏を過ると同時に彼がソファから立ち上がって俺の前にしゃがんで顔を覗き込んできた。
『ラウ?なんかぼーっとしてるけど大丈夫?』
綺麗な三白眼が俺を捕らえて離してくれない。この時間がいつまでも続けば良いのに。彼の瞳に映し出されるのは俺だけで良いのに、何故それは叶わないのだろう。おーい、なんて声と共に顔の前で手を振られると彼の香水だろうか、爽やかなグリーンティーのような匂いがする。
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深澤side
面白いことになってんな。ゆり組がなんか話しながらチラチラ阿部ちゃんとラウールの方見てる。どうせどっちかがどっちかのこと好きなんだろ。今社内恋愛…グループ内恋愛か。すげえことになってるもんなあ、そういう俺も好きなやつ居んだけどさ。あ、ゆり組が出てった。照すげえ見てんじゃん、舘のこと見すぎじゃない?わら あーこんなことなら好きにならなきゃ良かったな…ってなんかラウール近づいてきてんな
「ふっかさーん!」
【はいはいどしたの】
「あのさちょっと相談事いい?」
…阿部ちゃんのことか?なら場所変えたほうがいいんじゃ
「週末家に阿部ちゃ…」
【ちょっと待て、場所変えよ】
彼の唇に人差し指を触れさせて言葉を遮り思考を巡らせる。多分お家デートってどうしたらいいの?的な質問だろうけれど本人がいるほぼ目の前でこんな話するもんじゃない。久々にトイレにたむろでもするかとラウールを連れて楽屋を出ようとすると、なんとも微妙な顔をしている阿部ちゃんと一瞬目が合ったような気がした。まさかのここ両想いパターン?いや俺が怪しい動きしてるからか
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ラウールside
気が付けば12時の1分前。彼がお手洗いに立っている間一息つく。彼と家に居て自分だけを見てくれる、そんなことを幾重も願ってきた。今日は、妄想じゃない。彼が戻ってくる足音が聞こえてきて扉が開き、部屋に戻ってこれたからか安堵したような顔が見える。何か声をかけるべきだと思い、彼を好きな気持ちをたった3文字にこめる。
“おいで”
目を見て、そう言えたなら。そのたった3文字を詰まることなく彼に届けられたら、彼が帰ってしまうことはなかったのかな。
『あのーさ、ちょっと用事出来ちゃって。また今度、今日みたいに会お?』
「…そっか、じゃあまたいつか。気を付けてね」
本日二回目の上目遣い、やっぱり可愛い。こんな時間に帰すのは心配だけれど彼の予定をねじ曲げるのは違うだろうから彼が荷物を纏めているのを横目にテーブルのグラスを片付けようと手を伸ばした。玄関を出ていく彼の後ろ姿を見送ってリビングに戻る。こんな時間に出来る予定かぁ、他の誰かとこれから…。電気のリモコンを押すと目の前のテーブルもソファも、思い描いていた彼との未来も。何も見えなくなった。
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阿部side
《”急にごめん、すげえ迷惑なこと言ってんのはわかってんだけど後で会えない?”》
『”どれくらい?”』
《”2時頃かなぁ、無理そ?”》
『”んや2時頃なら大丈夫!今外だからとりあえず帰るね”』
《”まーじでありがと、じゃあ阿部ちゃん家行くわ~”》
頬を緩ませながらOKのスタンプを送る。ラウールの家でお手洗いを借りて出ると通知の音がして、こんな時間に誰かと思えばふっかだった。あのふっかから”会いたい”?何かあったのだろうか。心配で仕方がない。大切な同期で、メンバーで、人生で一番愛している人だから。長いこと居させて貰ったしそろそろ出ようかとラウールに声を掛けて家を出て、タクシーを捕まえる。見慣れた家までの景色がいつもより綺麗だった。
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