『僕は初めて人を殺しました。』
いつの間にか血に染まっていた手を見ても、普通の人が抱く「恐怖」や「罪悪感」というものを一切感じなかった。
正直、おかしいと思った。
自身が間違っているのだと分かった。
自分たちの息子が隣人の子供を殺してしまったことを知った両親は、必死に僕のことを隠そうとした。
なぜ僕は道を踏み外してしまったのか…
その理由は、とある出来事からだった。
いつもの帰り道、いつも通り足を揃えて二人帰っていると彼がまたあの「噂話」をし始めたんだ。
「そういえばまた人が消えたって…〜!」
身振り素振りをしながら話す彼はどこか楽し気で、嬉しそうで。
そんな様子に僕は正直限界だった。
「…何で、楽しそうに言うの?」
人が消えたって言うのに何故笑っていられるのか。
怖くないのか。
酷いと思わないのだろうか。
彼は眼鏡の奥で驚いたようにこちらを見続けるばかりで反応はそれっきりだった。
荷物を入れたエコバッグの取っ手を握り締め、こちらを見続けながら固まる彼を置いて僕は足早に家へと帰る。
夕飯時に、母が彼に何かあったのかとしつこく尋ねてくるのに対して僕は曖昧な返事をするだけだった。
それからおかしくなった。
いつもの日常は消え去り、彼は僕の前に姿を現さなくなった。
彼が所属する部活に顔を覗かせても一向に見えない姿に諦めて帰ろうとした。
その時、彼が他の生徒と一緒に笑っているのが見えた。
水場で笑う彼らが物陰に入って行くのが見える。
三、四人程度だろうか。
彼が友人といるところなど見たことが無かったため、少し気になったのだ。
慌てて後を追いかけ彼らが先程までいた水場まで走ると声が聞こえてくる。
人がいるが、このチャンスを逃せばもう会えないかもしれない。
今日こそ謝らなk…
「いやぁ〜パイセンも人が悪いッスネぇ〜w」
ぐちつぼ君の声が聞こえる。
「嫌だなぁ〜皆んなの気持ちを代弁してあげてるんだから感謝して欲しいくらいなんだけど?w」
「それにしても流石に毎日一緒に帰るとか通学するとか、ツボツボ本当よく出来てたよなぁ〜?w」
「俺なら無理ぃ〜…なんちって?w」
「あははは…やめて下さいよぉ〜!w」
一瞬で察することが出来た。
いや、察することしか出来なかった。
彼と毎日一緒に通学や登校をしている人物など一人しかいない。
裏切られたと思った。
報いだと、そう思った、けど…。
ポタッ__
「あぁぐちつぼ君、ちょっと喉乾いたからジュース買ってくんない?」
「えぇ〜パシリじゃないすか〜wまぁ別にいいっすケド…何がいいんです?」
「缶コーヒーで。お前らは要らないよな?」
「俺らはあるんで」
「了解ッス…と」
腰を上げる彼に慌てて涙を袖で拭い校門へと向かう。
「…ごめんなさい」
どうしようもなくこの世界に居心地が悪かった。
コメント
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今回も最高でした! 無理せず頑張ってください!