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夕方の検温。
看護師さんの「熱、また上がってるね」
という声が耳に残る。
38度を超えた数字に
俺はただシーツに顔を埋めるしかなかった。
体が重い。
呼吸も浅くて、喉の奥が焼けるみたいに熱い。
なのに心臓だけはやけに速く打って、
胸の奥を叩き続けている。
「……げほっ、げほっ」
咳が止まらない。
酸素が薄いみたいに頭がくらくらする。
「元貴!」
慌てて飛び込んできた声。
白衣を翻して駆け寄ってきたのは、もちろん若井だ。
額に手を当てると、
その表情が一瞬で険しくなる。
「高すぎる。すぐ処置室行くぞ」
「……歩けない……」
弱音が勝手に口から漏れた。
すると次の瞬間、
若井の腕が俺の背中と膝裏に回る。
「――っ!?」
軽々と抱き上げられた。
白衣越しの体温がやたら熱くて、
耳まで真っ赤になる。
「バカ、こんな時に恥ずかしがる余裕あるか」
若井は低くそう言って、
ぐっと俺を胸に抱えたまま病室を出る。
廊下の看護師たちがざわめいた。
「若井先生……抱っこ!?」
「誰!?」
「患者さん!?特別扱いじゃん……!」
でも、若井の顔は一切揺れなかった。
処置室。
冷たい布で汗を拭かれ、
点滴の針が差し込まれる。
「苦しいの、我慢すんな。
ちゃんと俺に見せろ。」
若井の声が近くで響く。
耳元に落ちるその声は、
安心と同時に胸を締め付ける。
……でも、どうしてこんなに苦しいんだろう。
熱のせいだけじゃない。
若井の顔を見るたび、
何かが痛くて、泣きそうになる。
ベッドの隣。
涼ちゃんが黙って椅子に座り、
タオルを絞って俺の額にそっと乗せてくれる。
「……頑張らなくていいよ。
元貴は、ここにいるだけでいい」
その言葉が、じわりと胸に沁みる。
視界が滲んで、涙が頬を伝った。
「……ごめん、俺、弱くて……」
嗚咽が混じる声に、若井が低く応える。
「いいんだよ。
俺の前では、弱いくらいでちょうどいい」
――もう、隠せない。
俺は二人の優しさに包まれながら、深い眠りに沈んでいった。