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夜中。
病室の天井を見上げていたら、
急に胸の奥から込み上げるものがあった。
「……っ、ごほっ……げほっ!」
咳と一緒に鉄の匂いが口に広がる。
慌てて手で押さえると、掌が真っ赤に染まった。
「――っ、はぁ……鼻血……?」
鼻からも血が流れ出して、
タオルで押さえても止まらない。
喉の奥が熱く、呼吸が浅い。
涼ちゃんがすぐさまナースコールを押す。
「若井!元貴が!」
数秒後、バタバタと白衣の音。
「元貴!」若井が駆け込んできて、
俺の肩を支えた瞬間、今度は胃の奥から込み上げて――。
「っ……う、げほっ……!」
嘔吐。
赤黒い血が混じった吐瀉物がシーツを濡らす。
「――クソ!」若井の声が荒くなる。
すぐに処置用のトレーが運ばれ、
若井が俺の頭を支えながら背中をさする。
「大丈夫だ、吐き切れ……俺がいる」
視界がぐらぐら揺れる。
涙と汗と血で顔がぐちゃぐちゃになって
情けなくて声も出ない。
でも、若井の手は震えていなかった。
「誰か吸引と止血の準備!早く!」
周囲に飛ばす指示は鋭く、
でも俺の額を撫でる手だけは優しい。
涼ちゃんはタオルを取り替えながら、
俺の血のついた手を拭き取ってくれる。
「元貴、大丈夫。僕らがついてるから」
耳元で囁く声が、かすかに震えているのが分かる。
処置が続く。
酸素マスクを付けられ、
冷たい点滴が腕に流れ込んでいく。
鼻には止血用のガーゼ。
喉はまだ焼けるように熱く、吐き気は残っている。
それでも若井の瞳を見つめると、
不思議と恐怖は和らいだ。
「……若井……ごめ……」
声が掠れて、最後まで言えなかった。
若井は首を振る。
「謝るな。元貴は生きてるだけでいい。
……俺は、それだけで救われる」
その言葉を最後に、意識がゆっくり遠のいた。
でも、眠りに落ちる寸前まで、
若井の手の温もりと
涼ちゃんの声は確かに残っていた。