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「そりゃぁないぜ、今更都合が良すぎるんじゃないか?親父殿」心地よかったはずの静寂は一人の男によって破られた。
全員が訳が分からないといった顔をしている中、ヴィルヘルムとラインハルトだけは顔を歪めた。
「アンタ誰だよ!」
何となく男が発するヴィルヘルムとラインハルトへの敵意を感じ取ったのだろう。スバルが声を上げた。
「あぁ?随分と敵意満々な目してくれてんじゃねぇかガキぃ」
そういい男はグビッと手に持っていた酒瓶の酒を1口飲んだ
「おい!剣聖でもユークリウスでもいいこの無礼なガキぶった斬れ」
「なっ…!?」
「お言葉ですが、現在私もラインハルトも特務により本来の役目を離れています。たとえ副団長と言えど我々への命令権をお持ちでは無いはず」
「おぉおぉ、怖い怖い冗談に決まってんだろうが。熱くなんなよ、いくら俺がお飾りの副団長っていってもそのくらいの団則はわきまえてらァ」
「お飾りの副団長?」
「そうだよぉ?お飾りだ、お飾りで嫌われ者のルグニカ王国近衛騎士団副団長無駄飯食らいハインケルって言うのは俺の事さ」
「無駄飯食らいも嫌われ者も開き直ってるんじゃねーよ」
「落ち着きたまえスバル。副団長の空気に呑まれてはいけない。」
「はっ、流石は最優お行儀のいい言葉選びだ」
「ハインケルッ!」
ヴィルヘルムが声を張り上げた。
彼の顔は怒りのあまり眉毛がピクピクと震えており、先程ラインハルトに話しかけた時のような優しい声ではなく、厳しさが怒りが混ざったような声だった。
「ハインケル……!」
「1回呼べば分かりますよ。まだ耳が遠くなるような歳じゃありません。それより薄情じゃねーですか。白鯨討伐のお祝い俺からも述べさせていただきたかったってのにはっはっはっはぁ、なぁ?親父殿」
「ハインケル、私は…」
「ラインハルトお前もそうだろ?」
「っ!」
ラインハルトが気まずそうに顔を俯かせた
「ふぁ〜なんか聞き飽きてきた」そう言い欠伸をしながらウルトは自身が見つめていた懐中時計をパチンと閉じた。
「ホーホーホッ!」
「ん?何?あぁはいはい、行ってらっしゃい」そう言い肩を飛び立つツクを見ながらウルトはどうぞ続けてとハインケルに向かって手をパタパタとした。
「チッ、お前も親父殿のお陰で肩の荷がおりただろう?」
「なっ…!?」
「なんせ、お前が死なせた先代様の仇討ちをして頂いたんだからな。」
「やめろハインケル!お前は…お前と言うやつは…!どこまで…!」
「今更綺麗事なんてやめてくれよ、親父殿。アンタにだけは俺を避難する資格はねぇ。先代を殺したと最初にラインハルトをなじったのは他でもないアンタなんだからな。」
「っ!」
「はっ!都合が悪くなれば黙りか。それじゃ仲直りだってできるはずもねぇ。そんな都合がいいこと、テレシア・ヴァン・アストレアが許すかよ。」
「ハインケル・ヴァン・アストレア!」
「チッ、ヴァンをつけるなガキぃ!!そのけん名は貰ってねぇ!ハインケル・アストレアだ」
「はぁ、彼の親も中々だと思ってたけど、貴方もなかなかだねえ…わざわざふたりが向き合おうと頑張ってるタイミングで来るなんて。本っ当に傷口に集まるウジ虫みたいだね」
ウルトの目は冷酷さと軽蔑を宿しており表情が珍しく少しだけ怒りを露わにしていた。普段ユリウスやヨシュアを悪く言われること以外で怒ることの無い温厚な彼がだ。
「なんだと!?」と言いウルトの方へ彼が1歩足を踏み出そうとした時エミリアが立ち上がり静かに冷静に
「それで、貴方は何をしにここに来たの?」
とハインケルに聞いた
「エミリア…」
「これはこれは!あなたがエミリア様で。何でも勝ち目の無い戦いに担ぎ出された半魔のお姫さまだろう?」
「っっ!!」
「貴女が私をどう思っているか、今はその話はしていないわ。私が聞きたいのは一つだけ。貴方は何をしにここに来たの?」
「ッチ、聞いてた話と違うじゃねーかよ……」
「ちゃんと答えて」
ハインケルは不都合そうな顔をし頭をガシガシと掻きながら唸った。
「自信満々に乗り込んできた割には、随分カッコ悪ぃなぁ、おい」
「どんな面白い話が聞けるんかって楽しみにしとったのに」
「無粋な殿方にはお帰り頂きたいものですね」
「お気は済みましたか、副団長」
「……、」
「他に要件がないのならばこの場は辞して頂くのがお互いのためかと存じます。」
ハインケルが1歩退いた。そして、部屋の外で足音が鳴り止んだ
「その必要は無いぞ凡骨」
ハインケルはその声を聞き足音の正体であるその声の主の方へと振り返った
「遅いじゃねぇか、いつまでも来ねぇから肝を冷やしたぜ。プリシラ嬢」
プリシラは開いていた洋扇をピシャッと閉じ「囀るな」と一言放った。その様子に気圧されたのかハインケルはまたも1歩退いた。
「久しい顔ぶれよのう、随分と馴れ合っていたと見えるが」
「プリシラ、ソイツを連れてきたのはお前なのか!?」
「誰じゃ貴様は」
「覚えてないのかよ!!」
「姫さんよぉ、なんでもそれは酷くね?城で所信表明した時大勢の前で大恥さらした奴がいたじゃん。あれがそこの兄弟だよ」
プリシラの後ろからでてきた男がスバルを指さしながらそう言った、黒歴史を晒されたスバルはなんとも言えない顔を晒していた。
「姫さんも散々腹抱えて笑ってたじゃねぇか」
「記憶にない。そも妾が腹を抱えて笑うような品のないことがあるものか。勝手な事を言うでないアル」
「だってよ、兄弟。悪ぃが力不足だった」
「お前ぇ、もうちょっと一年間で発言力増やしておけよ!」
「また頑張って1から好感度上げてくれや」
「あとお前!」と言いスバルが声を押し殺し腹を抱えて笑っているウトを指さした
「お前バレねぇようにこっそり爆笑してんじゃねぇよ!」
「あははっ、笑ってない笑ってない!ちょっと君への好感度が上がっただけ」
「めちゃくちゃ笑ってんじゃねーか!あと野郎からの好感度が上がっても嬉しかねぇーよ!」
「えー?僕から好かれてて損は無いと思うけどなぁ。はぁー、久々に笑った〜」
「やっぱ笑ってんじゃねーか!」
スバルは息を一つ吸ってプリシラの方へ向き直った
「それで質問の答えは?」
「この凡骨は連れ出したのは妾かどうか、か?ならばその考えは正しい。その通りよ。これは妾が呼び出し連れ出した」
「っ!なんのために?」
「強いていえば…それが面白そうだと思ったからじゃ。」
「なっ!?」
ウルトの表情が一瞬にして険しくなった
「歪んだ家族模様とそれを不細工に取り合せる無粋。そんな醜悪な演目を平然と回せる訳にはいくまい?故に台本を書き換えた。見ものであったろう?」
「プリシラァ!」
「やめろ兄弟、ここで俺らがやり合っても益がねぇ」
「ふざけるな!だったら…!心はいくらでも傷つけていいって言うのかよ…!」
「スバル…」
怒りで震えるスバルの手をベアトリスがギュッと握った
「ウチ、アンタ様にだけは今日の事伝えんかったはずやけど?」
「女狐、何事も、誰ぞの耳に入れば塁的のように染み出すことは避けられん」
「てかそのおっさん、ラインハルトの親父だろ?、」
「ほう?たかだか貧民街の小娘風情が妾に何事か意見すると?」
「人事ってわけにはいかねぇかんな。なんせ、アストレア家の家督はラインハルトのもんじゃねぇ。アタシらの生命線ってやつは、そのおっさんが握ってやがんだからよ。」
「はっ!やっとそこに頭が追いついたか。つまりそういうこった、アストレア家の家督は俺が握ってる。俺はそれをラインハルトに譲ったつもりも、譲るつもりも毛頭ねぇ。」
「…、」
俯くラインハルトを注意するようにラインハルトの視界に入るようにフェルトはフォークを突き出した。
「……、フェルト様…僕は…」
「ラインハルト、黙って、堂々とした面してろ。」
ラインハルトはその言葉に驚いた表情を一瞬見せたがすぐに堂々とした顔をし「はい」と力強く返事をした。
「なんて言ったところで、お前の危機感は正解だぜ、ラインハルトのご主人様よ。アストレア家は俺のもんだ。そして俺はお前を支持しない。俺が支持するのは……」
「これ凡骨」
「んあ?なんだプリシラ嬢、今俺は大事な話をし……」
ハインケルが言葉を続けようとした瞬間プリシラは今までのような人をどこか小馬鹿にしたような声ではなくドスの効いた低い声で「煩い」と言い放ち、持っていた洋扇でハインケルの顎を突き上げた。
「なっ!?」
ハインケルはその衝撃で膝から崩れ落ちた。プリシラの持っていた洋扇が大剣に変化しプリシラはそのままその大剣をハインケルの前で振り上げた。そしてその体験を振り下ろそうとしたタイミングでアルと言われた男がプリシラの手首をつかみ止めた。
「姫さん、癇癪はそこまでだ。」
ドサッと気を失ったハインケルが倒れた
「ったく、勘弁してくれや。陽剣まで抜かれちゃあ心臓に…う゛」
いつの間に剣は消えたのやら、心臓に、まで言ったところでアルの手を振り払ったプリシラが肘を思い切りアルのみぞおちにいれた。苦しそうな声を上げるアルを他所にプリシラはパンパンと手を2回叩き「シュルト」と一言言った。
「そこの凡骨を運び出せ。介抱してやるがいい」
「はいであります。プリシラ様」
シュルト、と呼ばれたウルトよりも少し幼く見える桃色髪の少年がプリシラの後ろから現れた
スバルは少し驚いた顔をし、ウルトの方を見ながら
「まさか1日に二種類のショタを見るなんてな…」
「誰がショタだ、僕が幼いのは見た目だけだ。他は立派な成人男性だよ」
「……は?」
「あ?」
「え、お前俺より年上?」
「アナスタシア様よりも年上だよ」
「さらっとウチが20歳以上ってバラさんといてくれる?」
「合法ショタかよ」
「悪かったね、合法ショタで」
「いや、それはそれで…」
「君とは少し距離を置くことにするよ」
「いや冗談だから!」
「気づかなかった!ウト君って実はすごーく大人なのね!」
「エミリアたん!?あんなヤツより俺の方が100倍大人だし最高にカッコイイからね!?というかお前!頭脳は知らねぇけど精神年齢は絶対見た目そのまんまだろ!」
「何言ってんの?こっちの方が客に喜ばれるんだよ」
「……その顔からそんな言葉は聞きたくなかったな」
「ギャップ萌え?」
「しねぇよ!」
2人がそんな会話を繰り広げている間にシュルトはハインケルを引き摺りその場を退室していた。
「で、さっきのおっさんの話は本気か?アタシら追い出して領主にもどんのかよ。」
「仮にそうだと言えば貴様はどうする?泣き寝入りして素直に引き下がるのか?」
「はっ、笑わせんじゃねぇよ。アタシは誰に言われようが泣き寝入りだけは絶対しねぇ。あのおっさんからコイツに家督を譲らせてやる」
「それで良い。いずれ来る笑笑の勝利は約束されている。ならば道筋には波乱と悠久を求める。妾を沸かせよ。それが貴様ら端役の役割じゃ」
「その奢り、泣いて後悔させてやるよ。」
プリシラは鼻をフンッと鳴らし、アルを連れ帰って行ったのだった。
ーーーーーーーーー
朝食を済ませたウルト達は各々の行動をとっていた。
そんな中ウルトはラインハルトとヴィルヘルムに頭を下げていた
「本当に申し訳ない。いくら関係が良好でないと言っても血縁者を悪く言われれば腹も立つでしょう。」
「いやいいんですよ、私こそまともに息子の育成も出来ず、お恥ずかしい」
「…きっと、自分の子と向き合おうとしてるだけでも、立派だと思いますよ」
「ウト殿も何か複雑な思い出が?」
「いえ、僕じゃなくて……僕の親友というかなんというか…まぁ、僕の大切な人が少し色々あって。彼が経験したことを僕も経験した訳では無いんですが、ずっと見ていたので。」
「……、」
「だから僕は僕の親が僕ときちんと向き合って育ててくれたことを嬉しいと思います。きっと、彼も本当はもっと見て欲しいんですよ。」
「見て…欲しい…」
「はい、自分より先に自分の子と向き合おうとしてて妬いちゃったんですよ。だから、次また話せたら優しい声できちんと目を見て名前を呼んであげればいい。それだけで、あなたのことを見ていますよ。の証明になりますから」
「…!そうですね。次話す時は…しっかりと目を見て名前を呼ぶことにします」
「それが良いです!」
ウトがヴィルヘルム達と話しているとツクが部屋に入ってきてウトの肩に止まった。
「おー、おかえり。なんか居た?あぁ、居なかったかぁ。ん?変な気配が増えた?へ〜」
「ホーッホッホー!!ホー!」
「はいはい、そうだね、数が合わないねぇ…」
「驚きました。ウト様も言霊の加護をお持ちで?」
「いやいや!持ってないよ!でも何となくツクの言ってることは昔から分かるんだよね」
「それで、数が合わないというのは?」
「…この街にこの前久しぶりに訪れた時に何となく嫌な気配がしてその正体をずっとツクに調査して貰ってたんですけどね。まぁ、昨日暴食について聞いたのでなんとなく大罪司教の気配なのかなって思ってたんですが……」
「大罪司教、!」
「まぁ、多分ですがね、。それで今ツクにその数を何となくで調べてもらってたんですよ。とりあえず僕が聞いたことのある大罪司教として傲慢、怠惰、暴食くらいは知ってたんですけど、そこから色々調べて色欲と憤怒がいることも確認しました。」
そこでウトは一度言葉をとめ、また言葉を続けた。
「怠惰はもう死んでいるので怠惰を除いた大罪司教は4人。先に言っておきます。これは僕の考えている事であって確証も何もありません。…少ないんですよ4人じゃ、ツクに調べてもらって、今わかってる中で大罪司教らしき気配が少なくとも5つ、たまに6つだったりしますが、あるんですよ。」
「まさか、大罪司教は4人だけではないと?」
「コクリ、少なくとも魔女教徒らしき者の姿はもういくつも見ています。あと、その中に明らかに他の魔女教徒とは比べ物にならない程の気配を放つものが4名程。恐らくこの魔女教徒の話に関しては確信しております。ので、どうか王選候補者の皆様の安全を考えていただけるなら、多少は用心した方がよろしいかと。」
「承知した。貴重な情報感謝する」
「いえいえ、お礼ならツクにどうぞ。僕はこの子に言われて指示を出しただけなので」
「ツク殿は優秀なのですね。」
「まぁこれでも私は150年は生きていますからね」
ツクが、喋った