最近暦上では冬になったからか、森の中が前よりずっと寒くなってきている。風が吹けばぶるりと鳥肌が立ってしまう。もう慣れたこの暗さに足を踏み入れれば、暖かい風が吹き道が変わった。そういえば風が寒い季節になってきたという話をらっだぁにしたっけ。この時間に彼が起きているとは思えないから、ラタミが聞いていたのだろう。感謝をしておかなければ。
少し錆びたドアノブを引き家の中へ入る。出迎えてくれた数匹のラタミにおはようと挨拶をし、彼の寝室へと足を運んだ。扉を開ければベッドは膨らんでいて、綺麗な寝顔が目に入る。起きていないことを確認してから、大きく息を吸った。
「おはよーーーーーーーー!!!!!!!!」
「うわぁーーーーーーーー!?!?!?!?」
目の前の彼は布団を被ったまま飛び起き、俺を認識して目をぱちぱちさせた。そして状況を把握したのだろう、いらだちをあらわにしながらおはようと弱々しく返事をした。
「今日は建国祭だよらっだぁ!!!」
「わかってるよ…んあ?服どこにしたっけ…あ、ありがとうラタミ」
「ピィーピピッギィー」
「風呂場に置き忘れたのはごめんて〜でも眠かったんだもん仕方なくない〜?」
「母親と息子か?…あれ、何その魔法陣」
ラタミとらっだぁのやり取りを眺めていたら、着替えているらっだぁの背中に何やらカッコイ─不気味な魔法陣らしき模様が刻まれている。
「これは…まぁ人間の中にも俺らに対して敏感なやつがいるわけよ、お前みたいな。バレないようオーラを人間ぽくしただけ。これが中々にめんどうで…昨日は1日中これやってたから寝不足なんだわ」
「オーラ!へぇ〜じゃあ逆に人間じゃなくもできんの?」
「……できるよ、やってやろうか?」
「ギィー!!!」
「うそだよ、ほんとにやるわけないだろ」
「…? なんかだめなの?」
感情の読み取れない瑠璃がこちらを数秒見つめる。そして好奇心旺盛なのは良いけど魅入られすぎるなよ、と頭をくしゃりと撫でられた。
軽く整えられた青髪に、いつもの青いニット帽、ツートーンの上着。そしてラタミが持ってきたチェックのマフラーを身につけていく。
「準備できた~」
「おっけー!じゃあ行こう!」
「もう始まってんの?」
「当たり前じゃん、言っとくともうお昼だから」
「ほぉん…こんな早く起きることないな〜」
「…不健康ヒキニート」
「はぁーー???」
城門をくぐれば至る所に国旗が飾られ、花びらが舞い、はしゃぎ声や呼び込みの声に包まれる。そんな様子に圧倒されたのか、らっだぁは顔をしかめていた。
そんな彼の手を引きながら露店を回っていく。途中おもしろいお面があったので2つ買い、無理矢理彼の頭に括りつけた。反抗の声こそ聞こえたものの、楽しそうだったから良いだろう。食べ物の露店にも寄ったが、俺は食べないと断られてしまった。
「…あ!ピアノある〜!」
「ピアノ?あったところで何?」
「ふふーん、自慢じゃないけど俺ピアノ弾けんだよ!去年弾いたらめっちゃ大歓声でさ〜今年も弾こうと思って!」
「へぇ…聞いてみたい、弾いてよ」
「もちろん!その言葉を待ってた!」
■■■
あいつは俺の提案に首を縦に降り、噴水前にあるピアノへ腰を下ろす。普段うるさくて生意気なやつだと思っていたのに、そんな粋な特技があったのか。ぺいんとが鍵盤の上に手を乗せ、音が紡がれていく。その音は思っていたより大人しく、落ち着き、哀愁さえも感じられるような音色だった。…今日は色々と驚かされてばかりだな。
気がつくと演奏は終わっており、周りの人間たちがぺいんとに向かって歓声をあげている。当の本人はあれだけ自慢げに話していたのに、輪の中心に連れてこられたら恥ずかしげに笑っていた。隣の紫色の綺麗な髪をなびかせた少女もぺいんとに向かってすごいだとかさすがだとか声をあげていた。
「ぺいんとさーん!ピアノの音聴こえると思ったらやっぱりここにいたんですね!」
「しにがみくん!何でらっだぁの隣にいんの!?」
「…へ…?」
少女はこちらを恐る恐る向き、目が合うとなんだか信じられないとでも言いたげな様子だった。なんだ…?てかぺいんと今この子に話しかけたよな。
「…あなたが、らっだぁさん?」
「え、あぁ…うん、そうですけど…」
「知らなかった感じ?じゃあ改めて紹介するわ!らっだぁ、こいつが俺の家族の1人、しにがみくん!しにがみくん、こいつがらっだぁ!」
「…しにがみ”くん”?女の子じゃないの?」
「あ、しにがみです!えっと、ちゃんと男です…見た目がこんなんなせいでよく間違われますけど…」
「男!?まじか…あ、らっだぁです…?」
「らっだぁさん…いつもぺいんとさんがお世話になってます」
家族というのは伊達ではないようで、仲睦まじく話している。危うく彼女?と聞くところだった。あれ、これ俺もしかして邪魔なんじゃ…そんなことを考えていればいきなり手を引かれた。
「らっだぁ!俺らっだぁに見せたいもんいっぱいあんだよ!今日はそれ見せるまで帰らせないからな!」
「僕もらっだぁさんと仲良くなりたいから一緒に回って良いですか…!」
「…ふっ、何それ。まぁ良いよ、今日1日何もないから」
そう答えれば、2人は効果音がつきそうなほど顔を綻ばせた。そんな様子がなんだかおもしろく、ツボに入ってずっと笑いが堪えられなかったというのはまぁ言わなくてもいいだろう。
コメント
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ウラベさん、お疲れ様です! スランプ、きついですよね…! pnちゃんがピアノの才能があるなんて、!! 相変わらずラタミたちは可愛さ全開ですね!! 次回も楽しみにしてます! ゆっくりで大丈夫なので、しっかり休んでください!!
うわぁ...すっげぇや...(語彙力)rdのpnちゃんが可愛い...
不健康ヒキニート..........ラタミと家の周りでも走れば...あ、ラタミの可愛さで死にそう