健人Side
思い掛けず触れる唇の温もりに、体の芯が熱くなる。遠慮がちに重ねられるそれに‥我慢していた想いが、欲望が、溢れ出した。
キツく抱き寄せていた身体から両手を離し、後頭部に手を添える。重ねた唇を離すまいとするように、さらに口づけを深くし、舌を差し込んだ。
嫌がられるかもしれない。そう、覚悟したが、甲斐の柔らかい口腔内はすんなりと受け入れてくれた。
口腔内を撫でるように這うとそれに応えるように可愛らしい舌が蠢く。
そして、
「ん‥ふっ‥‥‥‥」
時折、聞こえる切なげな声が俺を堪らなく興奮させた。
それでも‥
キスだけだ。
今夜はそれだけにしよう。
そう思っていたのに‥決意が早くも揺らぎ始めてしまう。もっと触れたい。もっと絡まりたい。この溢れる欲求はどこから沸き起こるのか‥。淫靡な声を聞いてみたい。今すぐ押し倒して、身体中を堪能したい。俺の雄の本能がそれを望んでいる。
でも‥
もし、これ以上の行為に及んで甲斐を傷付けてしまったら‥
そんな思いが込み上げ、どうしても怖気付いてしまう。
名残惜しいな。そう思いながらも、そっと唇から離れた。それ以上の行為に及ぶ前に離れた。目の前の甲斐の唇が、どちらのものともつかない唾液で濡れている。酷く艶めかしい。
「‥な、んで‥」
掠れた声が空気を微かに震わせた。視線を合わせると、甲斐が泣きそうな顔をして俺を見つめる。
「ごめん‥」
咄嗟に謝罪の言葉を口にした。自分の気持ちを抑えきれなかった事を。だが、俺の言葉を聞いて、甲斐の大きな瞳から涙が零れ落ちる。慌てて、その涙を拭おうと手を伸ばすが、まるで嫌がるように甲斐が顔を背ける。
「甲斐‥」
「な‥んで‥謝るんです‥か‥僕‥が‥キスした‥から‥?」
「まさかっ!」
「嫌ならはっきり‥言って‥くだ‥さい‥ぼく‥分か‥んない‥のに‥グスッ‥」
「嫌じゃない!!」
無造作に握りしめた拳で涙を拭う甲斐の動きを慌てて、止める。闇雲に擦ったせいで、目元が赤くなってしまった。
「嫌なわけない、ごめん‥ただ、怖かったんだ」
「‥怖い‥?」
「ああ‥甲斐を傷付けてしまうかもって‥もしこれ以上の行為に及んだら、止められない。理性を抑えきれない。甲斐を傷付けたくはない‥」
目の前の白い両手を握りしめる。やっと掴める距離に来れたんだ。離したくはない。この手をずっと繋いでいたい。
‥俺はずっと想っていた。
視線の先にいつも甲斐の姿を探していた。いつの間にか、その姿を視界に捉えないと不安で仕方がないぐらいまでになっていた。
だから、気付いたんだ。
甲斐が誰に囚われているのかを。熱い視線を送る先は、いつも同じだったから。
決して、俺には向けられることのない熱視線を、一身に浴びる藍が羨ましくて仕方なかった。
妬ましたかった。
俺は‥
どうしようもなく甲斐に惚れていたから。
「健人さんの、バカ‥」
「‥え?」
白い手を凝視していると、突然のバカ呼ばわりに口を開けたまま、甲斐を見つめた。
目元が薄っすら赤らむ甲斐が、俺を見上げ睨んでいる。
「僕がいいって言ってるのに。傷付けたくないって‥その言葉が僕を傷付けてるっていう事に、何で気付かないんですか?」
「甲斐‥」
「本当に僕を想うなら、襲ってくださいよ!健人さんの意気地なし!バカ!」
「ば‥バカって‥」
2度目のバカに面食らう。それでも、頬を染め潤む瞳にどこか‥欲情の色が揺らめく様に、理性はいとも簡単に吹き飛ばされた。
腰に手を当てグッと引き寄せると、嫌がることなく身を任せ俺に垂れかかる甲斐の身体を再度、強く抱き締めた。
「‥途中で、嫌だって言っても無理。止まらないと思う。それでも、いいの?」
俺の言葉にコクンと、頷く仕草が体を通して伝わると同時に、ベッドの上にやや強引に押し倒してしまう。
性急な動きを見せても、甲斐は何も言わなかった。ただ、上気した頬にトロンとした瞳が妖艶だった。ほんの少し半開きな口元から覗く赤い舌に、吸い込まれるように口付ける。
絡み合う舌の卑猥な音が静寂な部屋に響く。くちゅくちゅ‥と混ざり合い、甲斐の口角から唾液が零れ落ちる。それを追うように舐め取ると、可愛い吐息が耳を掠め、さらに欲情を煽る形となった。
再び赤い唇を啄み、夢中で舌を啜ると、甲斐がやや苦しげに首を振るが、それすらも抑え込み、ひたすら味わった。
ひたすら甘い。甲斐の身体に夢中になる。
耐えきれずに擦り寄せた先の、 甲斐の下半身の熱を感じ取った時にはもう‥手遅れだった。
ゆっくりとシーツの波間に沈み込む。
誰もが寝静まる真夜中‥俺たちは一つになる。
コメント
3件
更新ありがとうございます! 尊すぎて死にそうです。 結ばれて嬉しい〜 続きも楽しみです!
や、やっべぇ、、ついニヤニヤが、、グヘヘヘヘ(
ご無沙汰してます!更新ありがとうございます🥰 おぉ!ついに!この2人には幸せになってもらいたかったので結ばれて良かったです☺️健人くん優しいから安心して甲斐ちゃんのこと頼めますね😉次回も楽しみに待ってます!