テラーノベル
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深夜。
部屋は真っ暗で、若井の寝息だけが静かに響いていた。
――あぁ……ダメだ、薬のこと考えるな。考えるなって。
頭ではわかってるのに、どうしても意識がそっちに行ってしまう。
枕を抱えてゴロゴロ転がってみる。
が、余計に「うどん屋の回転看板」みたいに頭の中を薬のイメージがグルグル回るだけだった。
若井の方をそっと見る。
相変わらずしんどそうだが、眠っている顔はどこか安心していて、起こすなんてとてもできない。
「……涼ちゃん……」
気づけば、となりの部屋で寝ている涼ちゃんを呼んでいた。
布団をガサガサする音がして、ドアからひょこっと顔を出す涼ちゃん。
「ん……元貴? どうしたの?」
寝癖が完全に「ラーメン二郎のもやし山盛り」状態だ。
「なんか……ちょっとだけ、薬のこと思い出しちゃって……」
正直に打ち明けると、涼ちゃんは目を擦りながらも笑って言った。
「じゃあ、僕が徹夜でおしゃべりしようか?
……あ、でも僕も寝落ちするかもしれないけど」
ふとその瞬間、昼間の笑い声や、くだらない会話、そしてこの温かい空気が頭に広がった。
――そうだ、俺はこれを守るために薬をやめたんだ。
「……ありがとな、涼ちゃん」
そう言って微笑むと、涼ちゃんは「お礼はアイスでいいよ」と呟き、またもやし頭を揺らしながら戻っていった。
翌朝。
窓から差し込む朝日が、布団にくるまったままの若井を照らしていた。
元貴は少し眠そうな顔で、キッチンでコーヒーを淹れている。
「……おはよ」
弱々しい声が聞こえ、若井がゆっくり起き上がった。
「おお、やっと生き返ったか」
元貴が笑うと、若井は軽く眉をひそめた。
「なんか夜中、涼ちゃんと話してたろ。何の話だ?」
元貴は一瞬、言葉を選ぶように沈黙し――
「……ちょっとだけ、薬のこと考えちまってさ。
でもお前、ぐっすり寝てたから起こせなかった」
若井はふっと真剣な表情になり、
「……そっか。ありがとな」
と静かに言った。
が、その直後。
「で? 涼ちゃんと夜中にコソコソ話してた
理由はもう一個あったんじゃねぇの? ……アイスの約束とか」
とニヤリ。
「バレてるーー!!」
元貴が慌てて叫ぶと、奥の部屋から涼ちゃんが顔を出し、
「チョコモナカジャンボ、3つねー」
と満面の笑みを浮かべた。
結局その日の午前中は、3人でコンビニに行くことになった。
コンビニの袋を片手に、3人はゆるい朝の風を感じながら帰路についた。
チョコモナカジャンボの冷たさが袋越しに手に伝わってくる。
涼ちゃんが先に歩きながら、ふと振り返る。
「……昨日の夜さ、正直ちょっと怖かったよ」
元貴はうつむきながら苦笑いする。
「俺も。気持ちが暴れそうになって…
…でも、あそこでお前らがいてくれて助かった」
若井も黙ってうなずき、袋を持ち替えた。
「……俺ら、別に完璧じゃないけど、
倒れそうになったら支えりゃいい。そういう距離でいいんじゃねぇの」
元貴はその言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。
短く「ありがとな」と返す。
――と、そこで涼ちゃんがぽつり。
「じゃあさ……もし元貴がまたヤバくなったら、
アイスで釣って止めるってことで」
若井が吹き出す。
「お前、俺より現実的で残酷だな!」
元貴も笑って、少しだけ鼻の奥がツンとした。
3人の足音と笑い声が、静かな住宅街に溶けていった。
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