テラーノベル
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「んん……」
朝日が差し込んで、脳が覚醒する。
なんだか幸せな夢を見ていた気がして、まだ目を開けたくない。
……じゃない、花斗!
「寝過ごした!!」
はっとして慌てて体を起こすと、隣からケラケラと笑い声が聞こえた。
「え……」
ふと横を見ると、うつ伏せのまま枕に頬杖をつき、こちらを見上げる壱月と目が合う。
そのたくましい背中に視線を奪われかけて、脳がストップをかけてきた。
……たくましい、背中?
「ああ!」
自分も一糸纏わぬ姿だったことを思い出し、私は慌てて右手で胸元を隠して左手でシーツを引っ張りあげた。
すると、壱月がそんな私の慌てぶりにお腹を抱えて笑い出す。
「もうっ!」
膨れて見せるも、その後すぐに昨夜のことを思いだし、頬に熱が上がる。
「今度は真っ赤」
「見ないで!」
意味深な笑みを見せた壱月から慌てて視線を逸らすと、チュッとうなじに壱月の唇が降ってきた。
「いいだろう、可愛いんだから」
「あー、そういうこと言うー」
精一杯の照れ隠しに棒読みでそう告げたら、今度は背中からぎゅっと抱き締められた。
途端に、今度は心臓がバクバクを音を立て始める。
「今日は帰るんでしょう? もう、準備しなきゃ!」
平静を装ってそう言うと、壱月は「んー、でもまだ大丈夫」と甘えるように首元に頭を擦り寄せる。
「もう少し、愛音とくっついていたい」
そんなことを耳元で囁かれたら、ふにゃんと口元が綻んでしまう。
「愛音は?」
「……私も、くっついてたいです」
そう素直に告げた私に、「よろしい」と一言放った壱月は、今度は首元に口付けを落とす。
くすぐったくて肩を揺らしたら、今度は腕にキスを落とされる。それに抗議しようと顔をそちらに向けると、今度は唇にキスが降ってきた。
「もう……」
「ダメ?」
「……ダメ、じゃ、ない、です」
目の前でそう懇願された破壊力に負け、カタコトで返すと、もう一度、今度はついばむようなキスが降ってくる。
私もそれを受け入れて、朝の幸せな一時を過ごした。
*
「今日、帰る前に寄りたいところがあるんだけど、構わないか?」
まだ出られないベッドの上。幸せなだるさと壱月の腕枕の中、頭を撫でられながら、「うん」と返すと、「そろそろ起きるか」と壱月は笑った。
それから、バタバタと帰り支度をしてコテージを出た。
山中湖畔の壱月おすすめのレストランで昼食を取った後、そのまま車に揺られること、数十分。
「ここって……」
車から降りた私は、目の前に広がる光景に目を見張った。
壱月が連れてきてくれたのは、見晴らしのよい高原に立つ、墓地だった。
「こっち」
壱月は私の手を引き、歩き出す。
やがて着いたのは、【海野家乃墓】の前だった。
「今日、月命日なんだ」
壱月はそう言うと、お墓の前にしゃがんだ。
「ずっと来てなかったんだけど、愛音には、来てほしいと思ったんだ」
「それって……」
「うちの両親に、紹介したくて」
振り返った壱月は、泣きそうな笑顔を浮かべていた。
私も壱月の隣にしゃがむ。無言で両手を合わせた壱月に倣って、私も手を合わせ、彼のご両親に挨拶をした。
――
壱月のお母さん、お父さん、初めまして。壱月とお付き合いさせていただいています。
って言っても、子どももいるんですけどね。
最初は最低な男だと思っていました。けれど、今は全部彼の優しさだとわかっています。
壱月は、とっても優しくて、責任感の強い人。だから、ご両親のために奔走しただけ。
私は、もう壱月のことは恨んでいません。ただひとりの、たった愛しい人です。
壱月のこと、どうか叱らないでください。私は、今、とっても幸せだから……
――
ゆっくり目を開けると、壱月はまだ隣で手を合わせ目をつむっていた。
しばらくそのまま壱月を見つめていると、目を開いた壱月と視線がぶつかる。
すると壱月は、また泣きそうな笑みを浮かべる。
「ちゃんとご挨拶、したよ?」
「愛音、そういうところはちゃんとしてるからなぁ」
壱月は立ち上がって、ははっと笑う。
「壱月は? ちゃんと紹介してくれた?」
私も立ち上がり、壱月を見上げる。
壱月は眉をハの字に下げて、笑って言った。
「こっぴどく叱られたよ。多分」
壱月は前髪を掻き上げて、空を見上げる。
私もつられて、空を仰いだ。雲ひとつない、澄んだ青空が広がっている。
「叱らないでくださいって、言ったんだけどな……」
呟くように言うと、壱月は「ははっ」と笑う。そして突然、私をぎゅっと抱き締めた。
その抱擁からは、壱月の複雑な想いが巡ってくるような気がする。
「壱月……」
「ごめん……しばらく、こうさせて」
そう言う小さな声は、どうしようもない不安を抱えた子どものようで。
「……うん」
私はそう返すと、壱月の背中にそっと手を伸ばした。
壱月の想いを、全て共有できたらいいなと思いながら。
やわらかな風が、私たちを包み込む。頭上を飛んでいく飛行機が、まっさらな空に飛行機雲を描く。
その雲が消えるまで、私たちは抱き合っていた。
朝永ゆうり
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コメント
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うわあ……朝のベッドシーンから始まって、まさかお墓参りに繋がるとは。壱月が「紹介したくて」って言ったとき、胸がぎゅっとなりました。愛音が心の中でご両親に語りかけるシーンが特に沁みます。「叱らないでください」って言う彼女の優しさと、壱月の「こっぴどく叱られたよ」って照れ笑いが、この二人の関係をもう一段深く見せてくれた気がします。飛行機雲が消えるまで抱き合う最後、とてもよかったです。