コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
カピリスの丘でバルメロイが額を拭う。
「いやぁ、ヒヤヒヤしました。アーカード様は圧がありますね。恐ろしい方だ」
「イリス様の泥人形がなければ、私は一手目で支配されて終わっていました。ありがとうございます」
幼女の姿をとったイリスがふふんと鼻を鳴らしてふんぞり返る。
「とーぜんじゃ! あの程度、朝飯前よ!」
「それで、次は何をするんじゃ? どこを目指す? まさか帝国に戻るわけでもあるまい?」
バルメロイがうろたえる。
なぜ、イリスがここまでしてくれるのかわからないのだ。
「ん、あー。そういや説明しとらんかったな」
女神が放った【神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》】の直撃を受け、黒炭と化したイリスは、しかしそれでも死ぬことができなかった。
かつて母にかけられた呪い「生きろ」という願いを叶える為、イリスの細胞は炭化したオークの死骸を食らい、ゆっくりと再生していた。
炭となったイリスへ、天から声が降るってくる。
「あの、アーカードさん。イリスは」
「奴は元より連続強姦殺人鬼、人類が滅ぼすべき邪悪だ。ここで潰しておくのも悪くはない」
あの邪悪な奴隷商人は一見冷血だが、本当に危ない時は助けてくれる。
そう信じていたのだ。その時までは。
そうじゃった。
アーカード。お前はそういうやつじゃったよな。
お前は役に立つもの、生きているものは大切にするが。役に立たないもの、死んだものは躊躇なく切り捨て、使い潰す。
確かにお前はそういうクズじゃった。
アーカードが奴隷兵に告げる。
「今だ! オークを殺せ! 奴らが正気に戻る前に皆殺しにしろ!!」
ああ、わしは使い捨てられたんじゃな。
夜を共にし、愛を交わしたあの時を、お前はなんと思っていたんじゃ?
これで都合良く動く駒ができたとでも思ったか。
おのれアーカード! わしの心をもてあそびおって!!
許さん! ぜーったいに許さん!!
乙女の怒りは天地を焦がし、憎しみは滾り続ける。
【神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》】によって奴隷刻印は完全に焼き切れ、奴隷契約ごと焼失していた。
「ま、わしがお主に加担するのはそんなとこかの」
「なるほど、そんなことが」
まぁ、それだけじゃあないんじゃけどな。
不死となったバルメロイに待つのは、かの皇帝ジークと同じ結末だ。
その悲惨と地獄を最も近くで見てきたイリスが、バルメロイを放置することなどできはしない。
「わしらは過去に戻れぬ。やり直すことも出来ぬ。だが、絶望の過去を教訓とし。不幸を回避することはできる。誰かの過去は誰かの未来じゃからな」
イリスの胸中でバルメロイとジークが重なる。
今度こそ。今度こそマシな結末にするのだと。静かに誓った。
「それに、それにアーカードは大丈夫じゃろ。あいつはやり手じゃから一人で勝手にしあわせになるわい。だから、わしは必要ないんじゃ」
「そもそも。あんな邪悪で冷血な奴隷商人、こっちから願い下げじゃ。本当、人としてどうかと思うわい。弱者の気持ちがわからんバカに用はないんじゃ! 死ね! 死んでしまえ! あんなやつ!!」
怒りに燃えるイリスはそれでも幼女の姿をとっていた。
誰の願いも受け付けず。
アーカードに求められた理想の姿のまま、心から憤慨していた。
心情を察したバルメロイは多くを語らず。「そうですかそうですか」と頷いている。
「それでは手始めに不老の魔法でも探しましょうか」
「うーん、あるんかのう。不老。あれば一発でクリアなんじゃが」
「もしくは若返りでもいいですな」
「それじゃ! 若返りならジークも元に戻せるかもしれん!!」
「雲を掴むような話ですが、探してみる価値はあるでしょう」
「うむ! うむ!」
幼女と老人が荒野を進んでいく。
その先に何があるのか、何もないのか、それは誰にもわからなかった。