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◇◇◇◇
ヴァルディウス王国とエルピアータ帝国の会食の席。
金で縁取られた長卓の上に、山のような肉料理と果実酒が並ぶ。
その中心で、エルピアータ帝国王グリオラは、ナイフも使わずに肉を鷲掴みにしていた。
べちゃり、と脂が卓に落ちる。
拭う者はいない。
グリオラは構わず豪快にかぶりつき、骨を床に投げ捨てる。
「ガハッ……やはり他国の料理は味が薄いな」
口の端から肉汁を垂らしながら笑う。
その後ろ。
控えているのはメイドでも騎士でもない。
ぼろ布を纏わされ、手錠と首輪を嵌められた四人の女。
姿勢だけは崩れていない。
立ち振る舞いでわかる。敗れた国の令嬢だ。
だが目に誇りはない。誰もが疲れきった目をしていた。
その光景を前にしても、ユークリッドは視線を逸らさなかった。
いや、逸らしたまま食事を続けていた。
王妃もまた、何も言わない。
「乗ってきたか、バリスハリスは」
骨を噛み砕きながら、グリオラが問う。
「はい」
ユークリッドは淡々と答える。
「言ったろ。国を持つ男はな、自分の守る者を物扱いされたら引き下がれない。白の魔女を万能薬とした意味があったな」
にやりと笑う。
「それにしてもヴァルディウスしかり、バリスハリスしかり……なんでそんなに白の魔女が欲しい? そんなに良い女なのか?」
下卑た視線が宙をなぞる。
ユークリッドはワインを揺らした。
「貴方が言うように白の魔女は良い女ですよ。でも私は血が欲しいだけです」
静かな声。
「血を抜けば、あとは貴方の好きにしていいです」
「そりゃいい」
グリオラは大口を開けて笑う。
「魔力を抑える腕輪でもはめて、後ろのコイツらの隣に立たせるか。魔女の血で作る万能薬の出来も試してぇ」
ガハハハ、と下品な笑いが響く。
「しかもさすがヴァルディウス王国様々だ。バリスハリスに協力する国はない。バリスハリスも一国で俺たちとやり合う気らしい」
肉を噛みちぎりながら続ける。
「だがな、お前らも同じだ。俺たち以外に手を貸す国はなかった。お前らの同盟国も薄情な奴らばっかだな」
「あぁ」
短い返事。
「淡白な返事だな。まぁいい」
酒を煽る。
「こっちは品の良い女と、食料と、宝石さえ貰えりゃ十分だ。なんでも協力してやるよ兄弟」
「貴方と兄弟になった覚えはありません」
「そうかよ」
グリオラは歯に挟まった肉を指でほじり出し、床に弾いた。
「そういえばな。この前貰った女の一人が、この城の元メイドでな。妙なことを言っていた。少し鳴かしたら吐くわ吐くわ」
ユークリッドの手が止まる。
「死んだ王妃の話だ」
沈黙。
「もし本当ならよ、『強く清く正しく』を掲げるヴァルディウス王国様が、人の道を外れたことをやってるってわけだ」
「……何が言いたい」
空気が、鋭く張り詰める。
背後の令嬢たちも、息を潜めた。
グリオラは口角を上げる。
「なぁ兄弟。仲良くしようぜ」
肉汁に濡れた指を広げる。
「俺たちは同じ穴のムジナだ。エルピアータ帝国と同じステージまで堕ちたんだよ。そうだろ? お前の一時の過ちのせいでな」
ユークリッドの瞳が冷える。
「だから他の国は協力しねぇ。匂いでわかるんだよ。腐った国の匂いがな」
「……だからこそ」
低く、押し殺した声。
「白の魔女の血が必要なのだ」
視線が鋭くなる。
「私たちは、まだ立ち直れる」
「そうかよ。この滑稽さは笑うしかないな」
グリオラは肩をすくめて、プッと吹き出し、ガハハと笑う声が、金の天井に反響した。
豪奢な会食の裏で、二つの国の腐臭が静かに混ざり合っていた。