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◇◇◇◇
真っ暗な部屋。
軋むベッドの上で、ジークはゆっくりと目を開けた。
「……どこだ、ここ」
喉がひりつく。身体は重いが、確かに動く。
「どこって、私の家よ」
女の声。
次の瞬間、ぱちりと灯りがともった。
天井近くに浮かぶ淡い星火が、部屋を照らす。
その光の中で、白髪がきらりと映えた。
星篝の魔女。
夜を集めたような黒衣と、透けるような白い肌。冷えた瞳が、まっすぐジークを見下ろしている。
ジークはゆっくりと身を起こした。
「僕は……君に殺されたはずだ」
「剣で斬ったのは私じゃないわ」
肩をすくめる。
「それに、死ぬ前に回復させたのは私。正確には殺されかけただけ」
「……僕を助けて、何の得がある」
魔女は椅子に腰かけ、足を組む。
「英雄願望があるのは男の子として普通。でもね、一目惚れした女のために命を投げ出すのは、ちょっとやりすぎ」
ジークは眉をひそめる。
「茶化すな」
「茶化してないわ。本気で言ってる」
細い指が顎に触れる。
「貴方を助けた時は損得ではなかったけど、少し得の目が出てきた感じね」
「……どういう意味だ」
「ヴァルディウス王国が負けると困るのよ」
静かな声。
「困る? 天下のヴァルディウスが、誰に負けるっていうんだ」
「バリスハリス王国」
間を置かずに告げる。
「……バリスハリス?」
「あなたが白の魔女と逃げようとした国よ」
ジークの目が鋭くなる。
「セレナはどうなった」
「落ち着きなさい」
魔女は淡々と言う。
「白の魔女は、どうやらバリスハリス王に気に入られたみたい。少なくとも殺されてはいない」
ジークの肩から、わずかに力が抜ける。
「無事よ。今のところは」
「……そうか」
「でも、私にとっては最悪」
魔女はうんざりした様子でため息を吐いた。
「ヴァルディウスは、立て直す時間を完全に失った。それなのに戦争を始める気でいる。今の王は、自分がどれだけ追い詰められているか見えていない」
ジークは鼻で笑った。
「大事になってるみたいだな。禁忌の魔女に仕立て上げて追放したツケだ。自業自得だろ」
「ええ」
魔女はあっさり頷く。立ち上がり、ベッドの縁に腰を下ろす。
距離が近い。
「万が一ヴァルディウスが負けた場合、白の魔女に恨まれていたら面倒なのよ」
「面倒?」
「私は生き延びたいの」
率直だった。
「あなたを差し出せば、『あのとき助けたのは私』って言える。白の魔女の恩人になれる可能性がある」
ジークは苦笑する。
「買い被りすぎだ。僕はセレナにとって、そんなに大きな存在じゃない」
「知ってる。あなたは一目惚れして突っ走っただけの男。彼女の心の中心にはいない」
「なら」
「でもね」
魔女の瞳が細くなる。
「敵が助かるためには、建前が必要なの。『気を許していた男を助けていた』と知れば、簡単には殺さない。理屈より、そういうものが効く時がある」
ジークはしばらく黙り込んだ。
そして、小さく息を吐く。
「……君は、僕が想像していた通りの魔女だ」
「あら」
瞳が優しく揺れる。
「それは光栄ね」
見惚れるほどに微笑みは柔らかかった。