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ある日の収録帰りのことだった。
控え室に戻ると、ぺこらの笑い声が聞こえた。
軽やかな笑い声。
扉の前で、マリンの足が止まる。
(・・・?)
静かに扉を開けると、ソファに並んで座るぺこらとみこ先輩の姿が目に入った。
距離が、近い。
「兎田ー、そろそろコラボしよーよー」
そう言ってぺこらに抱きつくみこ先輩。ぺこらも少し頬を赤くして照れている。
ーーなんでそんな顔するの
ーー私以外の人にそんな可愛い顔見せないでよ
そんな黒い感情が心の底から湧き上がってくる。
「わ、わかったぺこだから離れてよ。」
ーー断らないんだ
そう思った瞬間身体が勝手に動いていた。
「・・・・・・ずいぶん楽しそうだね」
自分の低い声が、部屋の空気を変える。
ぺこらが振り向く。
「・・・マ、マリリン?」
「・・・ぺこら、大丈夫?」
私がぺこらを心配している間もみこ先輩は私にみせつけるかのようにぺこらにずっと抱きついている。
「・・・いつまで抱きついてるんですか、みこ先輩」
その後続けて”ぺこらから離れてください”と口にするも、まるで聞いていない。
そんな姿にイライラした私は、
「離れろよ」
強く言ってしまった。
その途端に、静寂。
だが強く言った甲斐もあってか、みこ先輩はゆっくりと私の方に振り向いた。
「・・・何?」
「・・・ぺこらから離れてください。」
「なんで?」
「言わなきゃわからないんですか?」
「・・・兎田が嫌がってないんだから別にいいじゃん」
「そういう問題じゃないんですよ」
何を言っても離れようとしないみこ先輩。
「あと、前からずっと疑問だったんですけど私とぺこらが付き合ってるって知ってますよね?」
「・・・知ってたけど、それが何?」
「・・・知ってて、その距離ですか?」
声色に僅かに怒気を孕んでいるのがわかる。
「・・・いちいちうるさいなぁ、ちょっと抱きついてただけじゃんか、はいはい、これでいいのかにぇ?」
そう言ってぺこらから離れるみこ先輩。最初からそうしろよと内心で思ってしまう。みこ先輩が部屋から出ていった後にぺこらの様子を伺う。少し泣きそうになっているようだ。
「・・・怖がらせてごめんね、ぺこら。」
「だ、大丈夫ぺこだよ。ぺこーらこそ断れなくてごめんね。」
「・・・先輩からあんな事されたら断れないのが普通だから、そんな気にしなくていいよ。」
「あ、ありがと。ぺこーらはマリリンの事が誰よりも大好きぺこだからね。」
そう笑顔で告げるぺこら。その笑顔を見た瞬間先程までの醜い嫉妬や黒い感情が吹き飛んでいく。
ーー嗚呼、本当に可愛いな
そう思いながらみこ先輩の先程の抱擁を上書きするように強くぺこらを抱きしめる私であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
家に戻り、一通り仕事を終えた2人。
「・・・ただいま、」
小さく呟きながら靴を脱ぐぺこらの背中を、マリンは少し後ろから見つめていた。
「おかえり」
一緒に帰ってきたにも関わらず、わざとらしくそう告げる私。そんな私の様子がおかしかったのか、軽く笑うぺこら。
部屋の灯りが柔らかく二人を包む。
「・・・今日は色々あったぺこね」
ぺこらが振り向き、少し申し訳なさそうに笑う。
その表情を見た瞬間、マリンの胸がまたきゅっとなる。
「・・・・・・そうだね」
ゆっくりと近づく。
外では抑えていた距離が、ここでは自然と縮まる。
「ねぇ、ぺこら」
「ん?」
私はそっとぺこらの頬に触れる。
「さっきの、もう一回言って」
「え?」
「誰よりも大好き、ってやつ」
ぺこらの頬が赤く染まる。
「・・・家帰ってまで言わせるの?」
「・・・ダメ?」
少しだけ意地悪く、でもどこか不安が滲む声。
ぺこらは視線を逸らし、それでも小さく笑う。
「ぺこーらは、マリリンのことが――」
その言葉の途中で。
「・・・っ」
私は耐えきれずにぺこらにキスをした。
唇が、重なった。
不意打ちだった。
ぺこらの目が大きく見開かれる。
「んぅ・・・!」
甘く、でもどこか焦るようなキス。先程のみこ先輩とのやり取りもあって、少し嫉妬が交ざっている。
ぺこらとのキスは、とても長い間続いた。
途中ぺこらが腰を引いて逃げ出そうとするが、ぺこらの腰に手を回して抱き寄せる事でそれを阻止した。
それでも私の醜い嫉妬心は中々消えなくて、何度も、何度も唇を重ねてしまう。
「・・・ん、っ・・・・・・」
ぺこらの指が、私の服をぎゅっと掴む。
息が乱れて、肩が小さく上下している。
それでも離したくない。
けれど――
「・・・・・・はぁ・・・っ」
苦しそうなぺこらの吐息が、すぐ近くで零れた。
その声で、ようやく我に返る。
「・・・っ」
私ははっとして、ゆっくりと唇を離した。
数秒遅れて、ぺこらが大きく息を吸う。
頬は真っ赤に染まり、瞳は潤んでいる。
呼吸を整えようとしているその姿が、あまりにも無防備で。
「・・・そんな可愛い顔私以外に見せちゃダメですよ?」
「・・・か、かわいくなんて・・・ない」
「可愛いですよ。だから私は凄く心配なんです、ぺこちゃんが誰かに取られてしまいそうで」
「・・・ぺこーらはマリン以外の人には興味がないから大丈夫だよ。」
少し照れながらそう口にするぺこら。
普段は恥ずかしがってこういう事を言わない癖に、私が求めたらちゃんと答えてくれる。そんなぺこらを私は心の底から大好きだ。