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パンツスーツの上に羽織を着たヒミコが日本刀を構えたまま、相手の男たちに走り寄る。長ドスを振りかざした男がその正面に立ちはだかった。
男が上から振り下ろす刀身をヒミコの刀身が下から受け止めて火花が散る。ヒミコの体は激しく前後左右に揺れた。まるで歌舞伎の舞のように高速で、しかし足の位置はぴたりと固定したまま、目にも止まらぬ速さで動く。
「ちっ、このアマ、ちょろちょろと!」
何度か刃を交えた後、長ドスを持った男が舌打ちしながら毒づいた。
「仏も昔は~」
突然ヒミコの口から朗々とした声が響いた。詩吟というのだろうか、低い落ち着いた声色で、細かい節をつけてゆっくりと、木霊すかのようにヒミコは謡(うた)う。
その声に合わせてウルハがヒミコの真後ろに駆け寄った。両手に黒い、金属製であろう棒を持ち、腰をかがめる。ヒミコの声が続く。
「凡夫(ぼんぷ)なり~」
ウルハがヒミコの肩の上をかすめて、棒を突き出した。その先が、長ドスを持つ男の手の甲にあたった。男の手元が狂い、長ドスを取り落としそうになった。
その一瞬のスキを突いてヒミコの刀が男の首に正面から突き刺さった。ガマガエルの鳴き声のような悲鳴を上げて男は膝から崩れ落ち、ヒミコは刀身を90度ひねって喉の傷を広げた。
男はばたりと地面に倒れ、赤い血がどくどくと流れ出し、血だまりを作った。
残った3人の男の一人が拳銃を取り出してヒミコに狙いをつけようとする。ヒミコの謡いが続く。
「われらも終(つい)には仏なり~」
呆然として目の前で繰り広げられる死闘を見つめていたトモエの背後から、かすかな風切り音とともに何かが宙を飛んでいった。
拳銃を構えていた男が悲鳴を上げて右目を押さえた。眼球に、小さな円錐形の物体が突き刺さっている。
トモエがしゃがんで背後をおそるおそる見ると、電柱の陰に誰かが立っていた。女性のようなシルエットだが、暗くてトモエにはその姿がはっきりとは見えない。
その人影は細いパイプのような物を口元にあて、その筒の先から再び何かがヒュッと音を立てて飛んで行く。
もう一人の男が左目に突き刺さった円錐形の物体を、悲鳴を上げて振り払う。最初にその物体を撃ち込まれた、拳銃を持った男は、既に地面に倒れて全身をピクピクと痙攣させていた。
ヒミコの謡いが再開する。
「いづれも仏性(ぶっしょう)倶(ぐ)せる身を~」
ウルハが右手の棒の下部をひねった。それは金属で出来た扇だった。扇の面を広げたまま、左目を射られた男の前に駆け寄り、弧状に広がった扇面の切っ先で相手の首筋を素早く切り裂く。
首の動脈を切られた相手は、噴水のように血しぶきを上げて後ろ向きに倒れた。和装の老人の前に、最後に残ったスーツ姿の男が立ちふさがる。
ヒミコはその方向に走り出しながら、謡を続けた。
「へだつるのみこそ、悲しけれ~」
ウルハが扇を閉じてヒミコの前に走り寄る。素人であるトモエにも、ようやく何となく理解できた。ヒミコの謡いは、周りの仲間の動きを支持する何かの合図なのだと。
ヒミコの謡いが変わったようだった。
「命だに心にかなう物ならば~」
ウルハが男たちの手前で立ち止まり、くるりと振り返る。両手で閉じて棒状になった扇を正面に持ち、腰を落として身構える。
ヒミコがトンと地面を蹴ってジャンプし、ウルハが持っている閉じた扇に足を乗せ、そのまま宙高く跳び上がった。
男たちの目には、ヒミコの姿が突然視界から消えたように見えたようだ。うろたえるスーツ姿の男の頭上から、ヒミコの刀が振り下ろされ、首筋に一閃した。
ヒミコの謡う声のトーンが上がる。
「なにか別れの~」
首から血を吹き出す男の体をウルハが足で横に蹴り飛ばす。地面に降り立ったヒミコは刀の切っ先を和装の老人の顔に突きつけ、謡の最後の節を朗々と響かせた。
「悲しからまし~」
目の前に刃を突きつけられた老人は、顔面蒼白になって震える声でヒミコに問う。
「お、おまえたちは何だ? サツじゃあるまい。警察ならこんな真似まではせんはずだ。何が狙いだ?」
ヒミコは刀身の刃を上にして水平に刀を構えた。いつでも突きを繰り出せる姿勢で老人の問いに答えた。
「さあ? 知りまへんなあ。ウチらはただの、金で雇われた殺し屋ですさかい」
それを聞いた老人の眉がぴくりと動いた。
「だったら、いくらで雇われた? その倍、いや、3倍の金額を払うと言ったらどうする?」
「ほう!」