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目が覚めると、身体中がジーンとした痛みに襲われた。
どうやら、寝ている間に殴られていたらしい。
余程強い睡眠薬だったのか、覆面の軍勢は僕を縛り付けた後、何やら警戒を示していた。
「ここは…………?」
「やっと目が覚めたか。ここは古城だ。昔、王族だった者が住んでいた跡地だ。ここでお前の父を迎え討つ」
「そんな……僕を誘拐したところで、黒の彗星なんて現れませんよ……」
自分にも分からない、きっと、覆面の男も困惑しているだろうと思う。
僕は、変に落ち着いていた。
焦りも、不安も、何もない気持ちが続いている。
視界が赤い……目の中に血でも入っているのだろうか。
ゴォッ!!!
次に目が覚めた時には、覆面の男たちは、全員大火傷を負い、瀕死の状態となっていた。
「間に合わなかったか…………!」
そこに現れたのは、黒い仮面に黒いマントで身を包んだ黒の彗星だった。
いや、その声は、よく聞き覚えのある……父さんの声だった。
「これ……父さんがやったの……? こんな酷いこと……」
「違う……それは、お前がやったんだ……!」
「僕が…………?」
“水魔法・アクアジェット”
ゴォッ!!
突如、父さんは僕に向けて水魔法を放つ。
しかし、
ジュ…………
水魔法は、僕に当たる間も無く、蒸発した。
「なんだ……? この力…………」
「ふふ……バレたのならもういい……。リゲル……父さんはな、お前と言う兵器を生み出すために、魔族と契約をしたんだ!! お前の力は俺のものだ!!」
その言葉に、頭がくらっとなり、困惑に目を回す。
そして、母のことを尋ねたあの頃を思い出す。
まだ小さく、お母さんはどこへ行ってしまったのか無性に聞いていた、死んでしまったことを理解していなかった小さな頃、父さんはよく話していた。
『リゲルがいい子にしてたらまた会えるさ』
物心ついた頃、僕の生まれた日に、その病院は火事に見舞われ、母は脱出できずに亡くなったんだと知った。
「父さん……もしかして……母さんは……」
「そうだ……お前の母さんは、お前の莫大な魔族の炎によって業火を巻き起こし、死んだんだ!! アハハハハ! お前は最高傑作だ!!」
「……じて……に…………」
「なんだ?」
「信じてたのに…………!!」
心の底では分かっていた。
出火原因は自分なのではないかと。
父さんが僕をやたらと外出させなかった理由、自分のいないところでは魔法を使わせなかった理由。
僕の『魔族の炎』を自分のものにする為……。
どうしたんだろう、頭がクラクラする。
視界が…………赤く見える…………。
「意識が混濁してるようだな。その齢じゃ、まだ魔族の力を上手く扱えないだろう」
そう言うと、父さんは水のバリアを張った。
確か、魔族は自身の周囲に属性バリアを展開させることができると授業で習った。
父さんは、魔族の力をコントロールしている……。
憎い、憎い、憎い、憎い。
こんな僕なんか、生まれて来なければ…………。
赤い視界の中で、父さんの顔を見た。
父さんは、『魔法を使うな』という約束をした時だけ、すごく真剣な表情を浮かべさせた。
父さんは涙脆い。
映画を観たらすぐに泣くし、絵本を読み聞かせてくれている時も、自分が泣いてしまう程に。
でも、今の父さんの表情は、そんな『いつも泣いていた時の顔』よりも悲しく映った。
「お前を気絶させ、俺の支配下に洗脳が掛かるまで閉じ込めてやる!! 覚悟しろ!!」
ゴォッ!!
その後の記憶は、よく覚えていない。
気付いた頃には、僕は王国の医療室にいて、父さん、義賊 黒の彗星は、気絶をして逮捕をされた。
スコーンの息子だと判明することにはなったが、僕は自らの父でありながら、決死な戦いで黒の彗星を捕らえたとして、入念な検査の下に、安全な生活を許された。
魔族の剣が襲い掛かる瞬間、リゲルの視界全てが赤く広がる。
ゴォッ!!
「痛っ!! んだこの魔力は!!」
リゲルは炎の渦を周囲に散らし、魔族を退避させる。
「本当は……見ないフリをしていただけなんだ……」
魔族は、無言でリゲルの瞳を見つめた。
「その紅眼……。お前の父親は、その力の覚醒に成功させられたみたいだな」
「やっぱり、君はこの力の正体を知っているんだね……」
この力、紅く眼が輝き、視界全てが赤く視える。
これは、幼少期のリゲルが、ショックや、傷で見えていたものではない。
「僕は……いや、俺は……! ヒノトと出会って、変わるって決めた……! この力でも、勇者になるんだ……!」
「付け焼き刃の力じゃ、魔族には勝てねぇよ!!」
再び、魔族は両手剣に水の魔力を膨れ上がらせ、二つの刃を放出させる。
(ヒノト……黙っていてごめん。いや、黙っていたと言うより、信じたくなかったんだ……)
リゲルは剣を捨て、両手に魔力を膨れ上げる。
ゴォッ!!
「この力は、魔族の力じゃなく、俺自身の力!! 剣に集約させて誤魔化してたけど、本職はメイジだ!!」
「なっ……!!」
ジュオ……!!
そのまま、炎を両手から放出させると、魔族の水の刃を瞬時に蒸発させ、水のバリアをも蒸発させた。
苦い顔でリゲルを睨む魔族。
「お前の親父さんの話、父さんからよく聞いたよ。魔族に友好的で、どこまでも人情深い奴だったって。まさか、本当はお前みたいな化け物を作ろうとしてたなんてな」
そう言いながら、魔族は身体中に水を巡らせる。
「おい、化け物!! 今からはただの力比べだ!! 俺の全魔力を持って、お前に突撃する」
「俺は……」
“炎魔法・炎柱”
ボォッ!!
突如、地中から轟々とした炎の渦で魔族を覆う。
「リゲル・スコーン。黒の彗星の息子だ」
“炎魔法・ブラックメテオ”
ゴォォォォ!!!
周囲に巨大な穴を作り、火山地帯の火山すらをも掻き消す威力で、魔族に向けて炎魔法を放つ。
そのまま、リゲルはその場にバタリと気絶した。
「バカな奴だ、俺に当てねぇなんてな。そうは思わねぇかい? エルフ族さんよぉ……」
エルフ族の少女は、涙目になりながら、魔族とリゲルに草回復魔法を詠唱していた。
「ハァ……。スコーンの血を継いでんな。きっと、コイツはどこまでも優しいんだろうな……。おい、エルフ族! アイツに回復魔法は効かねぇ。紅眼の能力が消えるまでは、アイツは外部からの一切の治癒を受けない」
「じゃ、じゃあどうしたら……」
すると、魔族は空中に向けて手を上げた。
「セノ様、コイツ……強いっすよ。まるで化け物ですけど」
そう言いながら、空中に向けて言い放つと、三人はスゥッとその場から消え、皆の元へとやって来た。
リゲルは、気絶した頭の中で夢を見ていた。
それは、父の手に握られている幼い自分を、遠くから見ているような映像だった。
本当は分かっていた。
魔族の力のせいにして、自身の炎で母を殺したんだと、ショックを受けさせない為に嘘をついていたこと。
本当は分かっていた。
リゲルを挑発し、自分の正体や身柄の拘束をさせ、リゲルを生きやすくしてくれたこと。
本当は分かっていた。
黒の彗星が捕まった報告を受け、平民たちは声を合わせるようになり、社会が変わったこと。
そして、その為に魔族の力を要したこと。
そんな魔族に対して、敬意を払っていたこと。
全部全部、もう受け止めるから。
全部全部、もう受け入れられるから。
『 戦って示せ!! お前の “正義” を!! その “守りたい” って想いを…………!! 』
僕は本当は剣士じゃない。
でも、今度こそ、君の隣に立つよ……ヒノト。