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エルフ族による治療魔法により、リゲルは目を覚ます。
「ゲホッ! ゲホッ!」
「お、おい! 大丈夫か、リゲル!!」
「あれ……? ヒノト……? 俺……まだ三体倒してないはずなんだけど……」
そこに、ニコニコとしたセノが現れる。
「君は “特別” だから、免除した。リリム・サトゥヌシアと同じでね」
「俺が……リリムと同じ…………?」
「まあ細かい話はまた今度としよう。これからエルフ族長の話の後、君たちは戦争までの間、魔族との共生期間に入る。くれぐれも、殺し合いなんてしないようにね」
そう言うと、セノは静かに去って行った。
辺りを見回すと、キルロンド生たちとサバイバルで相対していた魔族たちも、皆が治癒を受けていた。
「セノの野郎……最初から魔族に俺たちを殺させる気なんかなかったんだ……。俺たちの攻撃も完全に急所は外せるように見えない闇シールド張ってあった……」
全員が緊張感を漂わせ、身を縮めて周りを眺める中で、リリムは静かにヒノトたちに近付いた。
「ねえ、ヒノト……」
「あ、リリム……。そういや、リリムだけサバイバル戦には参加免除されてたな」
「それなんだけど……闇魔法は草魔法と反応できないからって……。それでね、セノのことなんだけど……」
そう言うと、リリムは耳元に口を近付ける。
「ヒノトが前に言ってたこと、間違いじゃないかも……」
「俺が前に言ってたこと?」
「魔族だけが悪いわけじゃない、セノも、敵じゃないかも知れないってやつ……」
「俺たちがサバイバル戦してる時、何か言われたのか?」
「逆ね……。特に何も言われてないどころか……私が魔王の娘だからか、セノは私には敬語なの。むしろ、エルフ族長の方が私を忌み嫌ってるような感じで、それを守るように配慮してくれてたわ……」
「セノ…………」
モヤモヤと、考え事が増える中で、全員の治癒が終わると、エルフ族は力を集結させ、全員をまた転移させた。
次の転移場所は、木々で作られた集落だった。
「おお……本で見た通りのエルフ王国だ……」
そこは、木々が太陽に照らされて美しく、全体に幅広く水面が流れ、キラキラと音を立てていた。
耳の長いエルフ族で賑わい、子供や女性も多く、小さく羽ばたく蝶の群れが煌びやかに輝いていた。
「すげぇ……こんな居住区に魔族を通していいのかよ……」
そこに、ズケッと魔族の男がヒノトの肩に無遠慮に組んだ。
「カハハッ! 俺たちがエルフ族を襲ったら、この後の戦争ができなくなるだろ? それは、エルフの族長さんも、こっちの大将も望んでねぇってことは、誰でも分かるからな。逆に言えば、ちょっとでも手を出せばこの場でお前たちを殲滅する、って脅しにもなってる」
「うわっ、な、なんだよ、お前!」
「カハハッ! 俺はドラフ=オーク! セノ様の部隊の岩の魔族だ! よろしくな、灰人!」
「俺は灰人じゃねぇ! ヒノト・グレイマンだ!」
「カハハッ! そうかそうか、すまねぇ! セノ様からは灰人としか聞いてねぇからよ、許してくれ!」
そう言うと、カハハッと笑いながら去って行った。
「なんか……普通に気の良い奴だったな……」
「まあ、私たちが相対して来たのは、確実に敵意のある魔族軍の兵士だったものね……。年齢から見て、私たちと同じような訓練生くらいの階級なんじゃないかしら」
「あれ? そういやグラムとリオンはどこ行った? 治癒が終わってから途端と見なくなったけど……」
「ああ……グラムなら……魔族と容姿が似てるだなんだって、他の魔族たちから人気者みたいよ……」
そう言うと、何人かに囲まれて慌ててそうなグラムを指差した。
「リオンは……見てないけど、心当たりはある……」
「心当たり?」
「きっと……族長のところよ……」
コンコンと、静かにノックが鳴り響く。
その部屋は、エルフ族長、並びに精鋭部隊長、セノ=リューク、並びにセノ部隊の精鋭部隊長の数名が会議している部屋の扉だった。
「失礼します……」
「おや……」
ニタリと、セノは目を細める。
「意外な訪問者だね。リオン・キルロンド……そして、キル・ドラゴレオ……」
「誰だ?」
二人の訪問に、族長 ロードはセノを睨む。
「長髪の彼は、キルロンド王国の第一王子、リオン・キルロンド。短髪の彼は、キルロンド王国貴族院代表の次男、キル・ドラゴレオ。二人とも、エルフ帝国により精神崩壊の魔力増加の力を得ているガンナーです」
「細かいことはどうでもよい。何用だ?」
「僕たちを……アザミ帝王討伐隊に入れさせてください……!」
二人の本気の眼差しに、セノは再び微笑んだ。
「ほう……。戦力にはなるのか?」
族長 ロードの容赦ない物言いに、二人はゴクリと喉を鳴らす。
「ふふ……どうでしょう。サバイバル戦では二人とも早いクリアをしていますが、 “足手纏いにはならない” と言ったところでしょうか……?」
「ふむ。それでは、本人たちの意志を問おう」
まずは、リオンが先に一歩前に出た。
「僕の弟は、アザミ帝王により操られ、エルフとキルロンドのハーフとなりました。先日、帝国の方へ行き、精神崩壊の魔力増加の魔法を得た際、弟はエルフ帝国にいた頃の記憶を思い出し、我を失くして帝王のところに向かってしまいました……。僕は、弟を救いたい……!」
「分かった。もう一人も答えろ」
キルは、リオンの横に並ぶ。
「僕は……」
その途端、キルの頭から黒く変色し始める。
「魔族です……!」
「ほう……? キルロンドに潜伏していたのか?」
「いえ、僕も自分が魔族だったことを知ったのは、先日の帝国での記憶が蘇った時でした。その時に悟りました。僕の魔力量と、時々抑えきれなくなる戦闘意志……そして、兄を超えたいと言う想いを……」
ロードは暫くキルの瞳を見つめると、ニタリと笑う。
「ふっ、いいだろう。キル・ドラゴレオ、貴様を、私のアダム=レイス討伐班に入れよう。そして、リオン・キルロンド、貴様は願い通り、アザミ帝王討伐隊に編成する」
「ありがとうございます……!」
「また改めて通告しよう。去るが良い」
その言葉に、二人はそっと扉を潜った。
「その……リオン様……」
キルの小さな声に、リオンは背を向けたまま答える。
「キルくん。前から思っていたんだが、 “様” って付けるのはやめてくれ」
「それは……僕が魔族だからですか……?」
その言葉に、リオンは強い目付きで振り返る。
「君が魔族だとか、元王族だとか、現貴族院だとか、そんなものは関係ない!! 俺たちは、同じキルロンド王国の同じ競い合う学生だからだ!!」
「ハハっ……」
その強い言葉に、キルは小さく笑った。
リオンは戸惑いの顔を見せる。
「本当に嫌になります。倭国遠征、エルフ帝国遠征から、みんな見違えるほど強くなった。あなたも……王としての風格が宿っていますね。弟に譲っただなんて嘘のように」
「な、何を言っている……?」
「エルフ帝国で、あなたはまた弟を失った。あなたは僕に言いましたよね。『僕たちは似ている』と……。強い兄弟を持ってしまったことで、比較されたり、何かしら兄弟というものに固執している」
「それは……そうだ……。そんなもの、俺だって今も変わってなんかいない……」
「いえ、あなたは変わりましたよ。だって、あなたは弟たちを救う為に強くなろうとし、事実、強くなっている。それは戦闘だけじゃない。意志もです」
「それなら……君だって……」
「僕はただ……兄と離れたいだけですよ……。徐々に着実に強くなっていく兄と……ただの生まれつき魔族で力が強大だっただけの僕……ですから」
そう言うと、ニコッと笑って去って行った。