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桜
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何も変わらない俺が生きている世界
黒く白い、退屈でつまらない日々だと思っていた
とある世界のひとつ。
パンを少し乱暴にかじり、面倒くさそうに食べる1人の高校生が居る。
「やっぱまず…」
そう言うとパンを机に置き、パンの袋ごとを嫌そうに退けた。パン、というよりここの世界全体はモノクロで描かれている。その為か料理が不味いと感じていたが、ここの料理を不味いと思っているのはどうやら光だけらしい。
「…」
机に突っ伏して腕に顔を埋めてしばらくぼーっとしていた
「光。」
そう呼ばれ顔を上げると落ち着いた雰囲気が少しだけある友人…らしい黒井正義が俺にそう呼びかける。
「何」
「ご飯ちゃんと食べなきゃ」
「…不味いから要らない」
「……そっか。」
そう言うと少し悲しそうな顔した黒井がさっとパンを片付けてくれた。俺はお礼を言うこと無く目を瞑ってまた腕に顔を埋め、眠りについた。
夢で出てきたのは光と黒井正義、けれども何か違う。
いつもの過ごして来た日常ではなくて、違和感を感じる日常、上手く表現がしずらいもどかしさがある。
『ひっかる〜!帰るべ!』
『…お前放課後なのに本当元気だな…』
『元気なのが俺の取り柄!』
『いや、まあそうだけど、…帰るか』
『あ、そうだひかる、俺ん家でゲームしない?』
『やる。』
『よっし!スマブラで負けた方がラーメン奢りで!』
『お前弱いのによくそんな事言うよな…』
「ぼやぼやとした夢の様な、本当にある様な記憶の様な感覚がした、ああ、これ夢か。と思い夢の続きを見る。」
『ひかるぅ〜〜 』
『うわっ、何泣くなよお前…後吸ってる吸ってる、俺吸われてる、辞めて』
『あっ、ごめん… 』
『…泣くなよ、黒井は笑顔が似合うんだから。』
『…ひかるってさ、たまにキザな事言うよね』
『やっぱ言わなきゃ良かった。』
「夢を見ていて思った事がある、何故見慣れないものが着いているんだろうか?そもそも、今まで見てきた夢も全てモノクロで、嫌な夢だった。今回の夢は、世界一般的に見たら嫌な夢ではないはず。
それと同時に、夢だと分かっているのに黒くもやもやしたザワつく感情が光の中に出始めた。あんな会話黒井とした事がないから。お互い必要最低限の会話のみで、あんなに楽しそうな黒井とかも見た事がない。幸せそうで、……羨ましい。妬ましいほど。」
『…ひか…!あと…う1回…ろ!』
『はあ…あ…もう……だ…な』
『やっ…〜!!』
「しばらく夢を見ていたら、いきなりバグの様に夢の世界が変になった。というか、夢なのになんで考えれてるんだよ。」
そう思っているといきなりバリンッと擬音がし、夢の光景が液晶画面の様に割れて崩れていく。その瞬間バッと起き上がると寝る前にいた自身の席では無く見知らぬ部屋、しかも先程体験した見るからに”色”というものがついている。
「…はあ…???」
困惑しつつ、生理現象で仕方なく少し眠い目を片手で擦っていたらいきなり誰かに話しかけられる。
「おや、もう起きたのかい?おはよう、ひかるくん。」
「っは…?!」
先程まで居なかった人物が突然現れて吃驚し、身体が光った
「ふむ……やっぱり読み通りだね。君の光はこっちでは まだ 通用しない、つまりあのひかるくんより最小値だ。」
腰位の髪色、長さでスラッとした体型をしている男が寝起きで座っていた俺を見下ろして見てくる。
「は?いや、誰ですか?てかなんで俺の名前…」
「まあ、驚くのも無理はないだろう。」
「…」
「うーん、警戒心が高いねひかるくん」
「…そりゃ、高いに決まってるだろ。というか、あんたは誰なんですか」
「んー?翔子の兄の平均、均お兄さんって呼んでくれてもいいんだよ?」
「…平さん。」
「つれないねえ、ひかるくん、翔子の事も平って呼んでるだろう?分けた方が楽だろうに…」
くすくすと笑う様な顔をして此方を見てくる。面倒くさくなった自分は相手の顔を見てこう答える。
「…分かりましたよ、均さん。」
そう言うと満足そうな顔をした様に此方を見てきた後、ぐっと顔を此方に近付けてきて耳元で呟いてくる。それにびっくりしてまた体が光るが、部屋は色がある、けれども自分だけモノクロだった。その為か相手にはほとんど効果がないように感じられる。
「さっきの夢、叶えてあげようか?」
「…夢って言っても、あれは本当の出来事を写しただけだよ」
そう聞いた後、動揺した
あんな出来事があるのかと、黒井があんなんになるわけない
じゃあ、さっきの夢は、と思い疑問を光は口に出す。
「はあ??まさか、平が使ってるパラレルとかいうやつの…」
「さすがだねひかるくん。大当たり」
「…叶えるって、どうやって」
「簡潔に言えば…乗り替わり?乗っ取り?まあどちらでも良いけど、色がある世界のひかるくんになるって事だよ。」
「…でも、それをしたらこの世界の俺はどうなるんだよ」
「言うなれば君の世界のひかるくんになるだろうね」
光にとっては都合がいい条件、だけれど都合が良すぎる。
それに無理やり入れ替わるなんて、向こうの俺が可哀想だし。…他人の幸せを奪うのは、トラブルの元になりうる。というより既にトラブルではあった。
「で、どうするんだい?この提案に乗るのかい?」
首を傾げ此方の姿を目に焼き付ける様に見据えてくるその姿は何かしら怪しい雰囲気を身にまとっていた。
その姿を少し睨む様に見つつ、光が出した答えを発する
「…行きません。」
「それは何故だい?」
既に分かりきっているような事を均さんは聞いてくる。雰囲気でそう感じるのかもしれないが、目を少し伏せながら俺は理由を話す。
「向こうの俺は、多分幸せなんだと思います。黒井と楽しそうに喋って、多分喧嘩したりとか。」
「確かにあっちのひかるくんは楽しそうにしているね」
「俺は今、正直いうとあまり楽しくは無いです。」
「じゃあなんで提案に乗らなかったんだい?」
俺なら提案に乗るけどね、と付け足されながら目を細め、光に疑問をぶつけてきた。
「俺が楽しくなかったとしても、向こうの俺の幸せを奪うのは、違うと思ったから、です。」
そう光は自分自身の意思を伝えると相手は暫く考えるような顔をした後 ふは、と掠れた笑いを出して下を向かれる。その笑いに少し腹が立ち、「はあ?」と声を漏らしながら平均の方へ視線をあげる。
「人の意見を笑わないでくださいよ」
「ごめんってひかるくん。」
笑い終わった様で、軽くそう謝ってくる。
ふぅと相手が一息ついたあと、短く無言の時間が続く。
沈黙を終わらせたのは相手の方で、視線を上にあげ俺をまた見据え、こう発してきた。
「やっぱりどこの世界でも…きみは、いいね」
「…はい?」
とんっ と胸を手で押され、後ろに倒れ込む。
いきなり押された事に頭が停止する様な感覚を覚えていた、そう困惑している内に馬乗りの様に上から乗られ、手を顔の前にかざされた
「はっ…?な、に…?」
「ごめんね、ひかるくん。君には元々拒否権が無いんだ。」
「何を、言って…」
「君はただの引き立て役、本題はあっちの世界のひかるくんにあるんだよ。」
ふざけたかと思えば、そう答えてくる。
何が言いたいんだよ、この人。状況が理解出来なくて、そんな考えばかり出てくる。そんなのもお構い無しに相手はべらべらと喋り出している。
「…でも、ひかるくんも何か行動しないとね」
相手の手が顔の上から下へ動くと、突然視界がぐらぐらとする感覚に襲われた。急な変化で意識が途絶えそうになる。意識が途絶えないように意識強くしようとしているが、限界が近い。
「まあ、精々ひかるくんも頑張ってくれ。」
相手がそう発した後に、ぷつりと意識が切れた____
…
「…き…よ…ひか…!!!」
意識が絶たれたあと、何分経ったのか分からないが
ぐらぐらと揺られる感覚に包まれる。それに横からとてもうるさい様な声が聞こえている気がする。
「…おき…よ、ひかる!!!」
「んん…」
「おきてよ、ひかる!!!」
俺を呼び起こす聞き馴染みがある声で目が覚める。
暫く長い夢を見ていた様な感覚でまだ眠たいと言っている体と反して、勢いよく起き上がる。
「あの人っ…!」
目の前や横の光景を見回す。深緑色の黒板があって、オレンジがかっている空が見えていた。視界を下にして、自分の服装、手を見た
「…嘘だろ」
全部に色がついていた、ベージュ辺りだと思われる肌の色、水色と言われる色をしたブレザー、青黒く見える紺のベスト。初めて見たのに全ての色がわかる。世界への適応と言う奴か、何故か何となく分かるらしい。
「…初めて見た。」
こんなにも綺麗な色をしていたのか、空を見ると綺麗なグラデーションがかかっていて何を見ても綺麗なものに見えた、まじまじと色々な景色を見ていると、右横から声が聞こえてきた。
「ひかる、?どしたの急に」
はっとして右横の人物を見やる。
綺麗にセットされたオレンジ髪、目立つ赤色のパーカーを着てブレザーを着ていた。
「あー、…えと。」
どう反応したらいいんだろうか?心配そうに此方を見るまるっとした綺麗な目、その煌めいた目に吸い込まれそうになりながら必死に返事を考える。
「変な夢、見て…」
変な沈黙を交わした後に、出てきたのがそれ位しか無かった。かと言ってバカ正直に俺が別の光だなんて言っても今は信じてくれないだろう。現実的に行くと夢が無難だと思った。
「そっか!夢見て大丈夫なの?ひかるは」
間を溜めすぎたせいか 少しキョトンとされたながらもそう納得してくれた
「多分、大丈夫 夢だし。」
慣れない黒井の態度に少し戸惑いを感じながら淡々そうに返事を返す。夢みたいな所で見たままの黒井正義そのものだった。今も夢を見てるんじゃないか、と思うほどには。
「…?そっか、んー じゃあ帰る?」
相手も多分少し違和感を感じながら会話を続けてる様な様子、だけれど俺が別の光だとはバレてない、とりあえず流れに乗ることにした。
「帰るか。」
「あ!そうだ、明日ヤンジャン発売日だから買いに行こ!」
…ヤンジャン?分からない単語が出てきた。とりあえず買うと言っているし、物かなにかだろう。
とりあえず同意しておけばいいかと思い、返答を返す
「あー、いいよ。」
「ほんと!?やったー!」
「じゃ、帰ろーひかる!」
そう言って勢いよく教室から出ていってしまった。自分にとって見た事無い行動をする無邪気な黒井、まだ慣れない感覚に包まれながらも、今まで埋まってこなかった空いた心が少し温まった気がした。
「ちょっ、待てよ黒井…!」
スクールカバンを手に取り、初めての景色に感動する。
暫くは堪能させて貰っても良いだろ なんて思ってしまった。本当はダメなのはわかっているが、ほんの少しだけでもこれが続いて欲しいと願いながら後を追いかけていった。
…
「ん。」
ぱちっと目を覚ます。
「俺寝てたっけ…」
寝ぼけ眼で突っ伏していた机から起き上がる。
小さな欠伸を漏らしながらあくびで出た涙を指で拭き取り
目の前に広がる光景を見た。
「…は?」
机も、壁も、椅子も。自身の手すらモノクロな事に気付く。
「夢かなんか?」
さっき起きたはず。と寝起きで直ぐ様理解できない脳で考えながら、自身の頬をつねってみた。
「いたいな…」
ちゃんと痛覚はあるようで、これは夢じゃなくて、現実だということを認識する。
「くろっ…」
こうい意味がわからない状況の時、大体黒井も巻き込まれていたりする。ガタッと椅子から勢いよく立ち上がったときに立ち眩みが起き、体がぴたっと止まる。
「徹夜した時の気分…」
顔を顰め、暫く動かずに居ると立ち眩みは無くなった。
別の誰かになってるのかと言う位体が弱い気がする。
でも机に目をやるとそこはパラ高での自分の席だ。
「…これ、誰かの能力?」
普段は意味がわからない能力で散々な目に合わせられていたりする為、有り得る話だった。
だけれどこんなモノクロにする生徒なんて居たか?そう考えに浸っていると、前の方からガラガラと音をたて扉を開ける音が聞こえた。その音の先に視線を向けた。
「光、起きたんだね」
此方を心配そうに見つめ、何時もより何倍も大人しく感じる声色や雰囲気を纏う黒井がそう言う。勿論姿も全部モノクロで。
「…黒井だよな?」
慣れなさすぎる黒井の姿を見据えながら、問い掛ける。
俺にとっては違和感でしかない、まだドッキリに掛けられている可能性だって有り得た。
「…?うん。黒井だけど」
「どうしたの?光。」
俺の問い掛けにそう淡々と、落ち着いた様子で返された。
明らかにおかしい、ドッキリでも黒井にこんな演技力があるとは思えない。カンペを読むのでさえ下手だった時があるあの黒井が。
「「…」」
互いに沈黙が続く。その間も俺の考えは止まらないわけで、その考えを遮るかのように沈黙を破ったのは黒井の方だった。
「…起きたらしいし、俺、帰るね。」
俺の方へと足を勧めてきては、黒井自身の鞄を取り自分に背を向けてきた。 帰ろう と提案するいつもの黒井の姿はまるで消えており、その背中は何処か寂しささえ感じた。
「え、」
「…っ、まってっ 」
少し走り、黒井の左腕を掴む。
突拍子もない行動にびっくりした様に振り返って此方を見てくる。
「え、な 何?光。」
掴まれた腕の方に視線が行きながら黒井は動揺している声色で聞いてくる。
「あ いや、」
「…お前の視界から見える世界って、俺と同じなの」
「…何言ってんの?」
「えー、あー」
「お前の視界から見えてる景色の色って、何色?」
「……?白と黒だけど」
「皆同じでしょ?どうしたの光。」
当然とでもいいたげな口調でそう伝えてくる。
やはり、これはドッキリでも何でもなくて
現実?
じゃあ俺が今まで見てきた色があった世界は?
また何かに巻き込まれた?また あの人 が助けを求めに?
じゃあなんで事前に…、とひかるの脳内はぐるぐる回っていた。
「光?」
「え?ぁ、ごめん 何?」
「…さっきから様子、おかしいよ?」
大丈夫なの と落ち着いた心配した声色で言いながら俺の顔を覗き込んでくる。
「あー、いや…聞きたかっただけだからさ、なんでもない。」
こう返すのは怪しすぎるか?
「……ふーん、そっか。」
あ、案外こいつもちょろいんだな。
「じゃ…あ 俺帰るから 光も帰りなよ。」
掴んでた手を振り払われて、足早に黒井が教室から去っていった、やっぱりその背中はなんだか寂しそうで、苦しそうだった。その背中を只々見えなくなるまで見ることしか出来なかった
「…」
「意味わかんな…」
混濁した脳内の中、自分も帰ろうと思い、黒いスクールカバンを持ち教室から出た。
…
それから数日経ったが、気分は最悪だった。
朝か夜かの区別はギリギリ分かるが、それ以外は苦労した。
授業中の黒板は白で、まるでホワイトボードに文字を書いている様な光景だった。
購買に行き、パンを買ってみたが味が変どころかかなり不味い。
周りは美味しそうに食べているやつもいれば、普通に食べている奴もいる。
「そりゃこの体も弱くなるだろうな…」
あの日の立ち眩みを起こした原因をひしひしと感じながら階段を上る。今日は物理の先生に呼び出されており、指示された教室へと足を動かしている所だった。
「失礼しまーす。」
ガラリと扉を開ける、中には…
「やぁ 多々光くん」
「……は?」
ふよふよとサービス券が浮いていた。
「ちょっとだけ久しぶりだね」
「言うて最近ですけどね」
今回の原因かもしれない彼の姿を見据えると、じとりと目を細める。
「まあまあ、そんな嫌な顔しないでさ〜 早速本題に入ろうよ」
ヘラヘラと言う彼の言葉に少々イラつきながら聴き入る体制に変えた。過去に色々巻き込まれすぎた故の切り替えの速さだった。
「今の君的に、違和感を感じた物はある?」
「有りまくりですけど」
「まあそうだよね〜」
「だってここ、色彩が 現時点 でモノクロしかない世界だからね」
「……なんで俺を此処に?」
「さあ?僕にもわかんないかな〜」
「…はあ?え、貴方がやったんじゃないんですか」
「まあ加担はしたよ」
そう、ケロッと態度で暴露してきた。この人起因じゃないなら誰だよ。と心の中で毒づいていた。
「…いや 共犯だったら同じでしょ」
「まあまあ 今回は”試練”みたいなものだから」
「…試練ってなんですか」
試練と聞き、ここではまた良くない事が起きてるのかと感じる。だからって毎回俺が解決出来る訳でもない。
「ここの世界線の黒井正義くん達、随分と楽しさが無いとは思わないかい?」
「……まあ、ぶっちゃけ無いですね」
「でしょ?」
「って言っても、俺が何とかできる訳でも無くないですか?おれ、ちょっと光るだけだし…」
自身で言うと、少し悲しくなる。
だけれどこの人に 主人公 と言われた俺はやるしか手が無いし、助けなきゃ行けない。
「この世界はなんて言う世界線って言ったと思う?」
「…色彩がモノクロしかない世界、でしたっけ」
「ほとんど正解だけど、ちょっと惜しいね 」
「この世界は 色彩が”現時点”でモノクロしかない世界だよ」
「現時点?」
「うん、現時点ではね」
「光ってどういう原理で光ってると思う?」
「…赤、緑、青、の三原色が関わってたりするのは分かってますけど」
「その通り でもそれだけだとひかるくん達を助けれない。」
「…何が言いたいんですか」
「君が言った様に 光にも赤 緑 青 の三原色があるでしょ?その原色から作られる色はどの色も再現可能であって、色が見えてわかる。けれどもこの世界は何もかもモノクロでしょ?何故かと言うと それはここの世界と通常世界より波長が合っていない。だから…」
「…って事なんだけど、 けれども最終的な行動は元々この世界に創られたひかるくんが決めなきゃ 意味が無い」
「やっぱりあんた長々しく説明するの好きですよね?」
「まあまあ、そういうのも必要だよ。」
「…というか、じゃあ…俺は何でここに居るんですか」
「…きっと 今のままの多々光君と黒井正義君じゃ、この話は解決出来ない。ひかる君、君には2人のために準備をして欲しいんだ。」
「やりますよ。やりますけど、具体的には何をしたらいいんですか」
「前と同じさ、いつもと同じ様に黒井正義君と話をしてくれたらいいよ」
そう相手が言うと、タイミングが良いのか悪いのか、廊下から歩いてくる足音が聞こえてくる 扉の方を向いて、先生を待っていましたよ、という感じの体勢に変えた。
「じゃあ よろしくね」
相手も足音が聞こえたのか、そう言うと何処かに消えたらしい。その後すぐ扉が開かれる音がした。
「いやー、ちょっと色々あってね 遅れてしまったよ。
まあ、私には関係ないことだけれどね」
「そうなんですね」なんて適当に交わしながら淡々と会話を進めていく。 俺が黒井と話す事で、この世界が変わるなら やるしかない
主人公だから。
…
あれから、数日が経った。
「なーなーひかるー?」
「なんですか」
まだ帰る方法が分かっていないし、実際、数日ここで過ごしてみて帰りたくない気持ちがでかくなって来てしまっている。
「今日ヤンジャン発売日でしょ?」
「うん」
でも、だけれども。
元々の世界に居た 黒井 が心配になる
こっちの世界の黒井と会話をする度に思う。
本当はあいつも元々こういう性格で、俺が何か出来たら本来の性格を出せるんじゃないのか。
「…あー、でも 放課後ちょっと話したいかも!」
「…?まあ、良いけど。」
話したい事ってなんだろうか。
こっちのこいつの性格上、多分きっとしょうもないことなんだろうな。そう感じながら黒井と会話をしていると後ろから女性の声が聞こえてくる。
「おい多々!!今日図書委員の仕事あるだろ!」
「あ、ぶっすー!」
「その名前で呼ぶなって言ってるだろ!!げはぁッ」
「え、今日図書委員あったっけ…?ごめん毒島さん」
話しかけてきた人は毒島菫、毒舌で毒を吐きながらも友達想いの人だ。
どうやら今日は図書委員の仕事があったらしく、声を掛けられた。そういえば予定表に書いてあったなと思い出しつつ、謝罪をしながら立ち上がった。
急ぎながら移動し、図書室でカウンター仕事をする。
図書室は案外人の集まりが良く、本を読んでいる人もいれば、只々喋っているだけの人もいる。
案外借り出しをする生徒は少ない様でカウンターは暇だ。
「…なあ多々。」
そう思っていた矢先に、毒島さんが声を掛けてきた。
「なんかさ、あんたってなんか最近口調変わったよね」
「…え?そうかな」
「うん。変わってる」
「…黒井とまたなんかあった?お前ら」
「……あー、いや」
やっぱりこの世界の俺と俺、口調とかに違い出るんだな。そろそろ動かないといけない事はわかっているし、毒島さんだけになら打ち明けてもいい気がする。
幸い今は誰もカウンター周りに居ないし、毒島さんとだけだ。
「えー、あー…変な事言ってもいいですか。」
「?…まあいいけど。」
「…俺、この世界の多々光じゃないんです」
「……」
そう言うと時間が止まったように毒島さんの体がピタ、と止まってしまった。
「え、ちょ毒島さん?」
「…は?え、おまっ……多々じゃないの!?」
「多々ですけど多々じゃないです」
「多々のゲシュタルト崩壊辞めろよ!!っげはぁッ!!」
「ちょ、毒島さん声でかいです」
一部の生徒の視線がちらりとこっちに向かっているのが少しわかる。それは仕方ない事だと思いながら毒島さんを宥める。
「お前の発言のせいだろ…!!」
「てかそもそも多々お前色々巻き込まれすぎなんだよ!!今まで話聞いた限り世界救ってるし…!!」
「…え?俺世界救ってるの?いやそれ知らないんですけど…」
「そうだよ!!!っぐはッ」
それから暫く、俺が知らない話がほとんどなのだがそれに関して毒を吐かれた。能力毒って大変だな。と思いながらも、ちょくちょく心に刺さる発言をされ、うっとなりつつ聞いているうちに時間が経った。
「はぁ…ごめん多々…今のお前には関係ないのに…」
「いや良いんですけど、ここの俺そんなことしてたんですか?」
「私は見てないけど話で聞かされた。」
「なんか、大変ですね毒島さん」
「…というか多々の居た世界線はどういう世界線だったんだよ」
「ここで言う 見えるもの全てがモノクロ?ってやつです。」
「不便そうだな」
「ここよりかは大分不便」
「というか、その話黒井に言ったのかよ」
「…毒島さんにしか言ってません」
「あー…黒井に言うの勇気いるからな」
「…でも、多々も戻らなきゃって思ってるんだろ?」
「そうですね」
「じゃあ、勇気出して言うしかないだろ」
“勇気” そんな勇気、俺に出せるのか?
何もしてこなかった この世界の俺より何も出来なかった俺が、何か出来るのか…?
急にザワつく心が、不安感を駆り立てくる。
「……、俺」
「…俺、言えなかったら、どうするべきなんですかね」
「色が見えて 黒井があんなはっちゃけてて」
「俺の世界の時は結構真面目な感じで、」
「あっちの世界のご飯とかも美味しくなくて、色が白黒しかないから色々楽しくなくて。」
「おれ、今ここが…楽し、くて。」
下に俯き、急に色々言ってしまった。
言った後に少し後悔した。絶対毒島さんに言うべきじゃない内容だし、女性に不満をこぼしてしまった。
「…ごめん、毒島さ」
「多々さ。」
言葉を遮るように毒島さんが言葉を発した。
落ち着いたような、少し怖い様なトーンに息を呑んで黙り込む。
「…私だって多分あんたみたいな状況になったらそう思うと思うよ。私だって怖いし。」
「そりゃ今まで楽しくなかった所から楽しい所に飛び込んだら誰も帰りたくなくなるだろ」
「でも多々、あんたはずっと脳内で帰らなきゃって言う考えがあるんだろ?」
「…あります。」
「じゃあすげぇよ、多々」
「私なら…そんな事考えないと思うし。」
「……毒島さん」
「毒吐かなくても良い事言ってくれるんですね」
「おまっ…雰囲気ぶち壊しじゃねえか!!っげはっ!!!」
「声デカイです毒島さん」
「誰のせいだよ!!!!っげほぁっ!!」
「すいません…」
「でも、ありがとうございます。」
「…俺、帰り方わかんないけどここの黒井と話して、帰って、黒井に伝えたい」
「…って思います。」
「…じゃあ私はお役御免だな」
はぁ と溜息をつきながら毒島さんが立ち上がる。
それにつられて俺も立ち上がる。
「休み時間も終わるし。……頑張れよ、多々」
「…ありがとうございます。毒島さん」
そう言うと 丁度よく、チャイムが鳴る。
それを聞いた生徒たちは慌ただしく走り出す生徒も居れば、ゆっくり歩いてる生徒も居る。
毒島さんと少し談笑しながら自分達のクラスに入り、談笑を辞めて席へと座った。
帰り方は分からないけど、絶対に帰って、黒井と会話してみせる。そう心に誓いながら机から教材を取り出した。
__________
白かった空が黒へとグラデーションがかっている空。
物理の先生との話し合いを終え、自分のクラスに戻って授業等も全部終わった。
「…あのさ、用って何?」
体育館裏のミニ階段で今、2人で腰をかけている。
連れてきたはいいものの、暫く無言が続いていたが黒井がそう問い掛けてきた。
「…なんも無いなら帰るよ」
そう相手が言うと立ち上がろうとして居るのを手を掴み、引っ張って座らせた。
「…何??」
「ちゃんと…話がしたくて。」
「…何話すの?」
「今から俺が話すのは俺に関する事。」
「今から言う事は、嘘でも無くて事実だから。聞いて欲しい」
「……うん。」
「まず1つ目なんだけど…俺、この世界の多々光じゃない。」
勇気を出して、相手にそう伝える
黒井は驚いた様な顔をして、此方を見てくる。
「…え?ひ、光が?」
「うん。俺はこの世界の人じゃない」
「…じゃあ、ほんとの光は?何処に行ったの?」
「わかんない、けど俺の居た世界…だと思う。」
「そう、…そっか。」
寂しげに返事をする黒井。納得が早いのも、元々の性格が関わっているのかななんて考えに少しふける。
だけれど安堵もしている様な顔をしていた。
「…君の事…光、って呼んでいいのかな」
「…まあ、俺も多々光ではあるから…」
「好きに呼んだらいいよ。」
そう答えると、こっちに顔を向けて目を伏せながら悲しげな顔でこちらを見てくる。
「…なんだ、光だけど光じゃないんだ。」
そう言うとデカイため息を吐き出してくる。それからしばらく互いに無言だった。気まずい、けれど必要な時間。いきなりそう言われて整理させたい気持ちもわからなくはなかった。黙ったまま黒井の言葉を待っていると、黒井は恐る恐る口を開けた。
「……あのさ、今の光にしか言えない事言ってもいい?」
「良いよ」
「俺 本当は光が凄く心配で、ご飯食べないし、性格俺より暗いし。」
「一言余計なのが聞こえたな」
「…光ともっと仲良くなりたかった」
「あっちに行っちゃった光ともっと仲良く、したかったよ…」
黒井がそう言い終えると、下を向いて涙が出そうな顔をしているが、堪えようと耐えているらしい。
「…黒井、さ」
「なんでそんなにあっちの俺に対して控えめだったんだよ?」
「…光、ずっと不機嫌だったんだ」
「俺がそう見えてただけかもしれないけど関わりたくない、みたいな…」
「だから関わるの怖くて、冷たくなっちゃった。」
「…あのさあ黒井、ここのお前がそう思ってるのは良いけど」
「そういう考えをして冷静になるのはいいけど、まともじゃなくても」
「”お前はもっとお前らしくしていいんだよ”」
「俺が知ってる黒井はやる事言う事全部結構バカで、陽キャで、でも結構友達想いで。」
「ひかるひかる〜って俺の事呼んで…、犬みたいに…」
「こっちの俺も、そういう黒井に惹かれると思うよ。」
「俺はそういう黒井が好きだから。」
「だからもっとお前らしく居ていいんだよ」
泣きかけてる黒井の顔を触り、優しくそう伝える。
「…その涙は俺に取ってあげて」
「うん……」
「俺が…俺らしく居ていいの……?」
「居ていいよ、俺がそう言ったし」
「うん……ありがと、光」
「あっちの俺はどう思ってるか分かんないけど…」
「「”俺、黒井の傍に居たいよ。”」」
……
授業終了のチャイムが鳴った。
暖かい風がゆるりと吹いている。
「気をつけて帰れよ〜」
担任の先生がそう言うと生徒達が荷物をもって部活に向かおうとしている子もいれば、まだ雑談がしたいようで集まってる話し合う人らも居る。
「…(毒島さんにああ言ったけど…)」
本当に言えるのだろうか。不安でしかないが、勇気をだして言うしかないんだろう。
「…ひーかーる!」
どう言おうか悩んでいると、後ろから声が聞こえてくる。
どう切り出そうかと思い悩みながら後ろに振り返る。
「…なんだよ」
「昼に言ったじゃん!」
「話し合いのやつ?」
「そうそう、ここだとうるさいし…2人きりが良いからさ、着いてきて!」
そう言いながら拒否権を持たせない様に手を掴まれ、引っ張られる。
「ちょっ」
さすが運動部、とでも言いたくなる力で強く引っ張られて校内を走る。階段を駆け下り、体育館の方へ向かっているようだった。
「黒井っ…早いってっ」
「もうちょいで着くから我慢して!」
先生が居たら怒られる状態で走っている。
だけれど運がいいのか、体育館に向かう道は先生が居ないらしい。暫くも走り続け、体育館には入らず裏へと向かって、体育館に入る少しある階段の所で立ち止まった。
「疲れた…」
「えへへ、ごめんね?ひかる」
「結構ごめんで済む話じゃないと思う」
「疲れたし座ろーぜ!」
そう言いながら階段を指さしてから、黒井はぽすんと勢いよく座り込む。未だ掴まれた手、それに引っ張られつられて俺も座った。
「…んで、話し合うって何話すんだよ。」
一応俺も言う事はあるけど。と付け足しながら横目で相手の目を見遣る。
「…んー、と」
「なんて言えばいいんだろ…」
「…いきなり変な事聞くんだけど…ひかるってさ、」
「……別世界のひかる?」
「……え?」
じとり、と睨む訳でも平然と見る訳じゃなくて、ただ少し目を細めて此方を見てくる。
「……えっ、と。」
俺から言うつもりだったのに先を言われ、変に動揺してしまう。罪悪感が急速に背筋を伝っていく、本来は楽しんでは行けなかったし、俺はすぐさまあの世界に戻るべきだった。
「あっ、ごめん!!違う!!責めてるとかじゃなくて…」
「あー……」
もう、決めて言うしかないな。
「黒井の言う通り、俺は別の世界の多々光だよ。」
「そっか〜〜〜…」
言ったのを黒井が聞いた後、吐息混じりでそう言われる。やっぱり…許されることじゃないよな。光はそう思いながら顔が俯いた。
「なんだよも〜〜!」
「俺なんかしたのかと思った!」
「…え?」
思っていた反応と違い、俯いた顔がすぐに上がり、黒井を信じられないという反応で白黒させながら見た。
「だって」
「俺が知ってるひかるとなんか違ったしね」
「…何時から気づいてた?」
「うーん結構前?最初は違和感抱いてただけだけど、なんかいつもと違うなって?」
「……ごめん。」
「騙した様な事して、俺、最低だと思ってる。」
「許される訳無いし、ここの俺に迷惑かけてるだろうし。」
「…えっ?」
「え?」
「いや、…別に俺怒ってないし、ひかるも怒らないと思うよ?」
「それにその考え、ひかるっぽい!流石同一人物ではあるね!」
「…まあ本人同士だし」
「でもさ〜〜、ひかるは許してくれるよ?だって俺が何かしても混ざってくれるし、怒るけど、許してくれるし 喧嘩してもさ、お互い謝罪して仲直りするし!」
「ほら、ひかるって優しいから」
「ひかるもそうでしょ?」
満面の笑みでそう”当たり前”とでも言いたげに言ってくる。
「……否定も肯定もしずらいなそれ」
「えへへ 答えずらくてごめんね」
「というかあっちの世界とか俺ってどんな感じなの?」
「…景色がモノクロ?白と黒しかなくて、真面目っていうか、黒井より落ち着いてる。心配性だし、疲れてる見たいな。」
「…あっちの黒井がはっちゃけてるの見た事ないんだよ、俺。」
「…そっか」
「でもその俺は俺だし!あっちもこっちもひかるはひかる!」
「その俺ははっちゃけてないだけでその性格の節があると思う、隠してるとかなのかなあ?」
「ひかるってさ、元の世界に戻りたいとか ある?」
「…ある、けど」
また不安な気持ちが光の中をぐちゃぐちゃに駆り立ててくる。
…でも、わかんない事は全部伝えた方がいいよな。そう思いながら深呼吸し1拍置いてからぽつぽつと呟いた。
「また黒井と必要最低限な会話しか出来なかったら俺、…何を糧に生きたらいいんだよ」
「俺、お前と話して、楽しくて…最初は帰りたくないなって、考えちゃって……」
「でも元の世界の黒井とそういう事がしたい気持ちが日に日に強くなって…でもお前との会話も楽しいから…分かんなくて…」
「でもやっぱり」
「「”俺、黒井の傍に居たいよ。”」」
「…それでいいじゃん!」
「俺だってひかると話すのは楽しいけど、あっちに居るひかるとも話したいもん!」
「それにへー子に頼んだら俺ともいつでも会えるし」
「いっくらでも手段はある!」
自信満々に彼はそう言う。屈託のない笑顔で、根拠も無いのにそう言ってくる。
“ああ 此奴
本物の光なんだなって。”
それを聞いた後は胸が苦しくて 今すぐにでもあの黒井に
あの”黒井正義”に会いたい
涙が出そうで顔が熱くなる、心は泣かないと思っているのに反して心が苦しくて、でもこの苦しさは
全部暖かい苦しさだった。
「…そんな顔しないで、ひかる。」
「あっちの俺に会うんでしょ?」
「……うん、会う、会いたい…」
「その涙はあっちの俺に取ってあげて?」
「……うん…」
屈託のない笑顔のまま、黒井らしいけど、らしくない言葉を伝えてくる。
「じゃあ!俺へー子呼んでくる!」
勢い良く立ち上がった黒井は校内の方へ歩みを1歩踏み出した
その時に何処からか声がしてきた。
「その必要は無いよ マサくん」
「え?…って」
「………サービス券?」
ふよふよ此方側に寄ってくるチラシ紙、内容はどうやらサービス券の様で、そのサービス券から男らしい声が聞こえてくる。
「こんな姿でごめんね」
「…敵じゃないよね?」
黒井の目が少し睨む様な目の伏せ方になる。
過去に何かあったのか、部外者の俺には何も分からないけれどつられて少し警戒してしまう。
「警戒するのも無理はないね〜」
「けど、今回は本当に大丈夫だよ。助けて欲しい訳じゃないからね。」
「誰ですか、この人」
「多々光くん この世界の君は初めましてだね」
「…何の用ですか」
「んー 単刀直入に言うと、君は今あのモノクロの世界に戻りたい?」
「…はっきり言うと、戻りたいです。」
「 いいよ〜 戻してあげる。 なんたって僕は優しいからね」
「本当に信用していいのこの人」
「俺もあんまわかんない」
「ごめんね、もう時間が無いから信頼されてなくても戻さなきゃなんだ」
「一応最後に マサくんに何か言う事あるかい?ひかるくん。」
正直いきなり現れたサービス券を信用しろって言われても、早々簡単に信用は出来ないけれど、戻される可能性があるのなら信じるしかない。
少しでも会える可能性があるなら、あの黒井に会いに行きたい。
「…黒井、お前には言いたいこと色々あるけど…」
「…全部、ありがとうな」
ふわり、優しく俺を迎えるような風が舞があっていく
精一杯の笑顔で、気持ちで、この世界の黒井正義に告げた。
「…またね!ひかる!」
自身が少し白く光りに包まれ シュンッという音と共にその場から後にした。
__________
「……ありがと 光!」
「…自分で言ったはいいけど、これ恥ず…」
「でも光かっこよかったよ」
「……まあ、なら良いか」
照れ隠しをする為に頭を搔く、話を重ねるうちに黒井の硬い口調が和らいで来ているような感覚がする。
「そういえば 帰り方って分かってるの?」
「あー…正直分かってない…」
眉を少し顰め、明らかに困った様な顔になる
実際分かっていないのだから仕方がない。
「ダメじゃん」
5文字の言葉で心臓をぐさりと刺された様な感覚になる。…でも、あの人がここに出てきたってことはきっと会話を聞いていて、帰してくれるはず。
「あれ?でもへー子呼んだら行けるんじゃない?」
「…確かに。」
そういえば居たな、丁度平行世界移動出来る人。
黒井の事で頭がいっぱいで忘れていた…なんて事は言えない。
「じゃあ俺呼びに…」
黒井がそう言い、立ち上がる。
今にも走り出しそうな勢いで動こうとした瞬間にタイミングが良すぎるくらいに喋り声が聞こえる。
「その必要は無いです」
「…え?誰?」
「まだ知らなくていいと思う」
ふよふよとサービス券がコチラに近寄ってくる。
「…やっぱ来るんですね」
11さんではないのは意外だが、
何となく察していた様にそう呟く。
「あの人の代わりで来ました。あの人あっちで話してるので」
「誰か分かんないけどあっちの俺達と話してるんだ」
「…来たってことは、多分…」
「思ってる通り、そろそろ帰らなきゃです」
「…光、帰っちゃうんだ。」
「寂しく思ってくれてんの?」
「光って言っても別の光だし…」
「まあ、でも多分いつか平のパラレルとかで会うと思うよ。」
「…うん、そうだよね」
「…だからそんな顔するなって あっちの俺にそれ見せるんだろ?」
「光と会う…」
「…じゃ、俺はお役御免だな」
「うん…」
分かりやすく寂しげに顔を下げる黒井になんだか面白さを感じて乱暴にぽんぽんと頭を撫でてやった。
「戻して大丈夫ですか?」
会話を終えると、そう問い掛けてくる。
頷き、それに同意したと同時に、いつもの世界に戻ろうとしてるのか少し体が光り始めた。
「黒井」
「…またな」
「…またね」
そう互いに言葉を交わして、俺はここから姿を消した。
2回ほど聞いたことがある移動音と共に見慣れた光景が目に入った。
下を少し向き ため息を着く、直ぐ様上に視線を戻して右を見遣る。いつもの光景、色、そして見慣れた
友達が立っていた
「…ひかる」
「おかえり!!!」
転けそうな程の勢いで近寄ってきてはぎゅっと苦しくなる位強く抱きしめてきた
「お前はほんっと…お前らしいな」
「…ただいま、黒井」
「こっちも大変だったんだからね!!」
「俺に言われても…巻き込まれた側だし俺も」
「え?てっきりギャルピ33巻みたいな人と打ち合わせしてたのかと思ってた」
「いや本当に起きたら別の所居た」
「へー 」
「聞いた癖に興味無さそうなのやめろよ」
夏も間近なのに暑さを感じない、肌と肌が触れ合って熱を帯びているのに暑さを感じない程気分が良かった
「ねーひかる!」
「なに」
「今日何曜日?」
「木曜日…だな」
「じゃあ!」
「……ヤンジャン買いいくべ、だろ?」
黒井の顔がわっと笑顔になる
本当に犬みたいなやつで、分かりやすい
そんな所が本当に 友達として好きだと思える
…かもしれない。
「さっすがひかる!俺の言いたいこと分かってる」
「いつもそれじゃん」
「えへへ、それもそっか」
「買いに行くか」
「うん!」
鞄を取ろうと周りを見る、だけれど周りには鞄がない
嫌な予感が脳内をよぎり、恐る恐る黒井に聞いてみる。
「黒井、鞄とかは?」
「…あ、鞄全部教室に置いてきた」
「はああ??」
なんて言いながら、顔はどちらも笑っている
体が慣れているこの空間に只々微笑みが溢れている、今なら何をやっても笑って許し合えるような そんな感覚だった
「取りに戻るぞ」
「はーい」
一足先に歩く俺に着いていこうと黒井も後ろから横へと移動してきた。そんな行動ですらも今は嬉しいとさえ思える
俺が一番楽しいって思えるのはこの此奴だったんだなって脳の片隅で感じた
これからも ずっとそばに居たい
これからもこの日常を送れる
密かにその大事さに感謝しながらその場を友人と後にした
__________
視界が切り替わる。
白と黒で作られていた建物、空、地面。
全て今まだ見慣れた光景だったもの
隣を見る。
今にも泣き出しそうな顔で此方を見ている友人が居る
ふわり、ふわりと俺達を迎えている様な暖かな風が舞い上がっている
「…ただいま」
ぽつり、そう発言する
見慣れた様な見慣れない様な そんな姿を見て此方も目頭が熱くなっていく
「おかえり、」
何時もの様に落ち着いたような声色で淡々と返された、と思ったら目を隠すように顔をぐしゃりと触りだした
その行動にびっくりして、慌てて駆け寄る。
「おかえりっ、光…!!」
心音が跳ねたような感覚になった
顔をぐしゃぐしゃにしながら子供のように泣き喚く黒井を見て、自分ももう堪えるのが限界だった涙が溢れ出る
“ああ、こういう事がしたかった”
「何泣いてんだよ、ばか」
涙声で伝えると、此方の顔を見てきて未だ泣きながらもちょっと顔が緩んでいるのを見て、緩く横腹を殴ってやった。
「光が悪いんじゃん…」
「…俺も一応巻き込まれた側なんだけどな」
「でも光がわるいもん…」
此方を再度見てきては、目の前まで近寄ってきて子供のように抱きしめてきた。今まで見てきた黒井とは結構変わった、というかこれが素なんだろうな、と思う。自分が悪いのは事実だった。背伸びをしセットしたであろう髪を乱すように、でも子供をあやす様に優しく撫でてやった。
「罪滅ぼし、とかじゃないけど」
「今まで思ってたこと言っていいよ」
「これからも関わる為に」
俺たちの関係をちゃんと改めるように、これから良くするようにちゃんと聞いてみた。
「…いつもずっと冷たかったとこ」
「恋人みたいな愚痴だな」
「後体を大事にしてくれないこと、なんでご飯食べなかったの…」
聞かれるであろうと予測してた言葉をのそりのそりと言われる。聞いたのは自分だし、正直に話すべきだと思い、その理由を伝える。
「食べると味が変なんだよ。美味しくなくて…、こう、泥みたいって言うか」
「…なんでもっと早く言わなかったの」
「心配かけたく無いし…それに、もう解決し始めてるし」
「?…なんの事?」
分からない、と言いたげに首を傾げてくる
そりゃそうだろう まだ黒井にはわかるはずが無いんだから。
「まだ気にしなくていい」
「…そっか、」
「なんかさ、今日すごい素直だね、光」
「今くらいしかこういう事言えないし…」
「じゃあ、俺に対して今まで思ってたことはないの?」
黒井に対して思っていたこと
色々あるが、あの黒井にぶつけた事を本人にも言うべきなんだろう。正直、恥ずかしい気持ちも出るが勇気を出して伝えてみる。
「…友達、っぽい事がしたかった」
「遊びに行ったり、休み時間話したり ヤンジャン?買いに行ったり。」
「黒井が言ったように俺は黒井に冷たい対応を取ってたし、変えたかったけど変えるタイミングが無かった、というか」
撫でる手を辞め、降ろしては下を向いてぽつり、ぽつりと独白の様に黒井に伝える。
「ごめん、俺のせいだから、恨んでも仕方ないし…」
気まずさで目をそらす
これで関係が終わってしまったらどうしよう。そんな後ろめたさが背筋を伝っていく
「…なんだよ〜〜!」
目の前で急に声を出して安堵した様に言っていた、その直後顔を掴まれて黒井の方へ視線を無理やり合わせられる
「ちょっ」
「俺も思ってたもん、それ」
こっちの気まずさなんて無視して歓喜の声を出している。
「やろうよ、全部!」
「 というか光、ヤンジャン知ってたの?」
“俺めっちゃ好きなのに、早く知りたかった!”なんて今まで見た事がないはしゃぎ方をしている、その反応にかっこいいけど、可愛いななんて気持ちを持ってしまう。
「…でも、こんな俺とそんな事していいの」
つい、無意識に口から漏れ出てしまった
ネガティブな言葉なんて言うつもり無かったのに気付いた時には漏れてしまっていた。
「こんな俺…って、”光は光”じゃん、光が良いから言ってんだよ?」
あっちの黒井にもそう言われた。
また胸が苦しくなった。でも、けれども。
やっぱり本当に嬉しくて苦しい胸の苦しさだった
「…そ、っか」
また目頭が熱くなる、耐えられなくて涙が溢れてしまう。これが幸せって言う意味なんだろうな そう感じながら黒井みたいに顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまう
「…光もめっちゃ泣いてるじゃん」
くすりと笑われた後に、頭を撫でられる。先程自分がしたように乱暴に、でもとても優しい撫で方だった
「うるさい」
それにつられてこっちも微笑みがこぼれる
色々感情が混ざったせいか きら、きらりと自身の体が光る。でも見慣れたただの発光じゃなくて、優しく温まるような淡い光だった
「…え、」
驚き、目を見開いた顔でこちらを見てくる
黒井の瞳がキラキラと世界の全てにフィルターと言うべきか、適応と言うべきか、黒井に何か変化が起こったのが一目散にわかった。
「ひかっ、…光!すごいよ、凄い!」
「みたことない感じが、なんか、する…!!」
嫌な雰囲気すら感じられる空だった景色から、俺達を包み込むようなオレンジ色の夕日の情景にじんわりと塗り変わっていっているらしい。初めての感覚に驚きが隠せないようで、まるで子供みたいにわっとはしゃいでいる。
「…お前、ほんと すごいな」
ふ と絆された様に笑い
それに反して、少し妬ましさが入れ混じった感情も少し漏れ出る、けれどもそれを素直に祝う方の気持ちの方がでかかった。
「?」
何を言ってるんだろう?とでも言いたげなきょとんとした顔で顔をまじまじと見てくる
「光も、俺もすごいよ?」
平然と、そう言いのけてくる。
俺にはそんな事なんて言える自信がなかった
やっぱりこいつは俺より良い奴だし、凄いやつだった。
「…そうかもな」
自分でも驚くほど、素直に声が出た
黒井の瞳の中には俺の姿が反射して、オレンジや初めて見かける鮮やかで煩い色彩が溢れている。
モノクロしか知らなかった俺ら、モノクロで温かみさえ感じた事がなかった体育館のコンクリート壁、触れてみると、不思議と暖かい気がした
「ねえ、光 これ、すごいね 今まで見てたものとか、感覚とか全然違う気がする」
黒井が夕日に照らされた自分の手をかざし、眺める。
モノクロだった肌は今となっては温かみのあるオレンジ色が色付いている
この光景はまだ俺達にしか分からない感覚なのだろう
そんなことを考えた時に少し変な優越感に浸って、胸の奥が熱くなってまた目が潤んだ
「…あ」
ふと、鼻をくすぐる匂いに気づく。
今まで「無機質な砂の匂い」しか感じれなかった空気が、今や感じた事ない湿った土の匂いや昼間にした調理実習の料理の匂いがほんのりと匂っている
「…ねえ、”ひかる”!」
「お腹すいたし、ヤンジャン買いたいし、帰ろ?」
そう言うと愛おしそうに笑いながらゆるりと手を伸ばしてきた
その笑顔は夢で見た別の世界の黒井に負けないくらい、眩しくて、暖かかった。
「帰るか、ヤンジャン買いに」
涙を袖で拭い、手を取り引っ張ってもらって立ち上がる。
鮮やかで煩い程の辺りを黒井と一緒に歩む
もうモノクロで異質な世界は終わった。
何も変わらない俺が生きている世界。
そう思っていた
けれどあの日、あの最悪だった日、あの人に言われた言葉を思い出す。
ただの引き立て役だって?ふざけるなよ。ひかるは強くそう思った。
たとえ他の平行世界の俺がどれほど幸せでも、どれほど強くても。
黒井と話して笑いあって、悔やまれる程にこの色を知らなかった日常を
鮮やかで煩いと思える程の世界に変えられるのは、今足掻いた俺だけだった。
「なんで笑ってんの?ひかる」
「知らなくていいよ」
白黒で、落ち着いた雰囲気を出しながら苦しそうにしていた黒井、けど今はもう違う。前とはだいぶ違う、はしゃいでるような黒井と綺麗なオレンジ色で包まれながら、小学生みたいに走りだす、ずっとと止まっていた時間がゆっくりと進み出した様な感覚がした。
貴方はこれをハッピーエンドだと言えますか?
コメント
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おお、読了したわ…第1話からだいぶ深いテーマだったな。平行世界と色彩のメタファーが綺麗に効いてて、特に「色が見える=心が通じ合う」って暗喩がエモかった。光が均に「向こうの俺の幸せを奪うのは違う」って言い切ったところ、この子の芯の強さと優しさが滲んでてグッときたわ。そして“色”って気づく黒井の心情描写が丁寧で、モノクロだからこそ際立つ感情の機微が刺さる。まだ謎も多いし続きがめっちゃ気になる!