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こんてお~!!
見てくれている方,ありがとうございます。
ではどうぞ―――
「じゃ,俺,時間なんで……」
歯切れの悪いボソボソ声でそう言うと,
男はキャリーバックに手を伸ばしながら
立ち上がった。
「え?」
女は男の顔を見上げて怪訝そうに顔をゆがめた。
男の口からは「別れ」の「わ」の字も聞いていない。
だが,交際3年目の彼氏に,
「大事な話がある」と呼び出され,
突然,仕事でアメリカに行くことを聞かされた上に,
その出発が数時間後となれば,
「別れ」の「わ」の字を聞かなくても
「大事な話」が「別れ話」だと察する事は出来る。
たとえ「大事な話」を「結婚」と勘違いし,
期待していたとしても,だ。
「…何?」
男は女の目を見ずに,ぼそぼそと聞き返した。
「ちゃんと説明してくれる?」
女は男が一番嫌う詰問口調で迫った。
二人が話している喫茶店では地下なので窓が無い。
照明器具といえば天井から吊るされた,
六つのシェードランプと,入り口近くの壁に,
ウォールランプが一つあるだけである。
そのため,常にセビア色に染まる店内では,
昼夜の区別は時計が頼りとなる。
そんな店内には年代物の大きな古時計が3つ。
だが,時計の針は3つともそれぞれが異なった時間を
指し示している。
意図的なのか,壊れているからなのかは始めてこの
喫茶店を訪れた客には分からない。
結局は自分の時計で確認する事になる。
男も例外ではなかった。
男は腕時計で時間を確認すると,
右眉をかきながら下唇を少し突き出した。
女はその表情を見て取ると
「あ,今,なんだよ,こいつめんどくせーなって顔した」
と大げさにふてくされてみせた。
「してない」
男はおどおどと答えるが,
「したでしょ!!」
と取り付く島もない。
「……」
男はまた下唇を突き出すと女から目線を外し,
黙ったまま何も答えなかった。
女は男のおびえたような態度にイライラしながら,
「私に何言わせるつもりなの?」
と,目を向いて男を睨みつけ,目の前の冷めた紅茶に
手を伸ばした。冷めて,不味くなっているだけの
紅茶は,女を鬱々と沈めていく。
男は再び自分の時計をみた。
搭乗時間から逆算すると,そろそろこの喫茶店を出なくては行けないのだろう,
落ち着きなく右眉をかいている。
女は男が時間を気にしている様子を目の端で捉えて
イライラし,荒々しくカップを置いた。
あまりに激しく置いたので,カップとソーサーが
ガチャリと大きな音をたて,男はビクリとする。
男は右眉をかいていた手でぐしゃぐしゃと髪を
掻きむしった。
それから小さく深呼吸すると,女の向かいの席に
ゆっくりと腰を下ろした。
明らかにさっきまでの
おどおどとした態度ではない。
女は何やら雰囲気の変わった男の顔を見て戸惑い,
うつむき,膝の上で組んだ手を見つめるのに集中する
事で,男の顔を見ないようにしていた。
時間を気にしていた男は女が顔を上げるのを待たず,
「あのさ」
と切り出した。
さっきまでの聞き取りにくいぼそぼそ声ではない。
しっかりとした口調である。
だが,女は男の次の言葉を遮るように
「行けば?」
と俯いたまま,投げやりな言葉を口にした。
説明を求めた女がその説明をあからさまに拒否している。
男は嘘をつかれ,時間が止まったように動かなくなってしまった。
「時間なんでしょ?」
女は拗ねた子供のような言い方をした。
男は女の言った事の意味を理解しきれてないようで,戸惑った表情をしている。
女は自分でも子供じみた嫌な言い方をした事を自覚したのだろう,気まずそうに男から目を逸らし,唇を噛み締めた。
男は音も立てずにカウンターの中にいる,
ウエイトレスに小さく声をかけた。
「すいません,お会計を」
男は伝票に手を伸ばしたが,
その伝票を女の手が押さえた。
「私,まだいるから……」
自分が払う,と言おうとしたが,
男は力なく伝票を引き抜いてレジに向かった。
「一緒で」
「いいって」
女は座ったまま,男に向かって手を伸ばした。
だが,男は女を見ようとせず,
財布から千円札を1枚取り出し,
「お釣りいらないんで……」
と,ウエイトレスに伝票と一緒に渡すと,
一瞬,女に悲しそうな顔を向けて,そのまま静かに
キャリーバックを引きずって出ていってしまった。
カランコロン――――――――――――――――――
1.恋人 第1話 終わりの始まり fin
はい,どうでしょうか。
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ではばいてお!!
2000文字お疲れ様でした――次回もオタノシミニ