テラーノベル
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棗
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何時間か経っても彼は帰ってこない。
電話を掛けても
一定のリズムで音が鳴るだけで
彼が出る気配は微塵もない。
俺のことが嫌になったのかな…
いやそんなわけ…
昨日の彼が自分に見せた
微笑みを思い出して
自分の考えを奥へと押しやる。
彼に入れるいつもの癖で
1人分作ってしまったココアを
好きでもないのに勿体なくて口にする。
溶けていない粉末が
俺の喉にべったりとくっついた。
甘くて、苦い。
彼が喉に追いやる姿を重ねながら
その甘い液体を
無理やり喉に押し込んだ。
唇についた液体を舌で舐めとり
顔を顰めたあと
彼の昨日の様子を思い出す。
昼前からココアのように甘ったるい
あの雰囲気を思い出すのは少し苦しいが
彼が居ない今どうすることも出来なくて
頭の中で昨日ベッドの上で撒き散らした
パズルのピースを組み立ててみる。
…にしても
昨日の夜はやけに素直だったな。
いつもはもっと反抗したりとか
喘ぎ声抑えたりとかするのにな。
まるで俺と過ごす
最後の夜みたいに____
「~~~……っ」
そんな訳ない。
ただの被害妄想染みた
考えだとは分かっているのに
何故か胸の奥が鉛のように重い。
その鉛は腹まで落ちていき
やがて身体中に巡って行った。
鳥肌が立って
いても立っても居られなくなる。
ココアを入れていたコップを
台所の水道の水に浸ける。
段々と茶色に濁っていく水を横目に
俺はコートを羽織って
彼を探しに行くことにした。
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