それからの日々は慌ただしく過ぎていった。
俺と涼ちゃんはそれぞれに候補物件の内覧を済ませ、新居を決めるとあっという間に引越しの手配がされた。気がつけば明日はもう俺がこの家を出る日だ。
この家での最後の思い出に、と元貴やダンスの先生達が集まってくれた。 ケータリングを頼んでみんなで食事をしながらレッスンを振り返ったり、思い出話で盛り上がった。1年足らずだったけど、改めて濃密で不思議な時間だったんだと思う。
明日の引越しに備えて早めにお開きとなり、みんなが帰って行くとさっきまでの喧騒が嘘みたいに静かで、段ボールばかりのリビングを見回してはぁと小さなため息をついた。
あぁ、もうこれで本当に最後なんだな。
「……もうちょっと飲みたいな。若井、付き合ってくれない?」
涼ちゃんがダイニングテーブルに残されていたビールを持ち上げて緩く首を傾ける。
涼ちゃんはけっこう飲んでいたと思うけど、俺も最後の夜を終わらせるのが惜しくて彼を止める気にはならなかった。
対角の席に座ってビールの缶を手に取る俺に驚いたように涼ちゃんが声を上げる。
「え、若井それビールだよ?」
「分かってるよ?俺だって全く飲めない訳じゃないんだからね」
プシュ、とプルタブを引っ張って開け、涼ちゃんの方に差し出す。
少し心配そうな顔をしながら、彼も手に持った缶を開けてかんぱーい、と俺の缶に当てた。
久しぶりに口に含んだその液体の苦さに、少し眉を寄せる。それを見た彼がおかしそうに笑った。
「ほら〜!苦いでしょ?コーラに替えたら、まだ冷蔵庫にあったよ」
「だーいじょうぶ!」
子供のような扱いにちょっとムッとして、缶の中身をゴクゴクと喉に流し込む。
今日は涼ちゃんと同じ物を飲みたかったなんて言ったらもっと笑うんだろうな。言わないけど。
「若井と一緒にビールが飲めるとはね〜」
楽しげな声でそう言って、美味しそうにビールを飲むそのなだらかな首筋に見惚れる。涼ちゃんってあんまり喉仏が目立たなくてきれいな首してるよね。
「へ?」
驚いた様子で目を見開く涼ちゃんに、あれ、どうしたのかなと思う。でもなぜか上からおりてきたシャッターのようなものに阻まれて、彼の顔が見えなくなる。もっと見ていたいのに…と思っている間に世界は真っ暗になった。
「……かい、わーかーい!」
涼ちゃんの声が聞こえ、はっと視界に光が戻る。俺はいつの間にかテーブルに突っ伏していた。顔の側面が硬い天板に当たって痛い。
「起きた?ここで寝ちゃダメだよ」
「え、俺……寝てたの?マジ?」
「マジだよ。ここまで弱いと思ってなかった。…………ごめん。 」
珍しく固い声でそう言って、涼ちゃんが立ち上がる。ごめんって俺が勝手に飲んだんじゃんって違和感を感じるけど、頭があんまり働かない。 そのうちに涼ちゃんが手早く机の上を片付けて、こちらを見ないまま廊下へ続くドアに向かった。
「おれちょっとやることあるから、部屋にいるね。若井、ちゃんとお風呂入ってから寝なよ」
さっさと出て行ってしまう彼をぽかんと見送る。俺、もしかして酔っ払ってなにかやっちゃった…? 不安が頭を占めるけど思い出せる筈もなく、仕方がなく言われた通りにシャワーを浴びて自室に戻った。
翌朝、起きて来た涼ちゃんは明らかに挙動が不審で、朝食のヨーグルトを食べながらやたらと俺に視線が刺さるのを感じた。
「…ねぇ、俺昨日なんかやっちゃった…?」
酔って理性が効かなくなって、もし涼ちゃんが嫌がることをやってしまっていたらどうしよう。そう思うと恐ろしくて、思わず本人に聞いてしまう。
「いや?!全然!!!………てか、どこまで覚えてる?」
「うーん、正直、ビール飲んだ直後くらいから記憶がない…」
「そっか………、やっぱりこれからは若井はコーラにしようね」
急にいつもの調子に戻った涼ちゃんにからかわれて、俺は眉を寄せる。
「腹立つけど、言い返せないから悔しい」
ふはは、と涼ちゃんが笑っている。なんだか分からないけど元気になってくれたなら良かった。せっかく最後の日だもんね。
涼ちゃんの笑顔を目に焼き付けながら、ゆっくりとヨーグルトを飲み込んだ。
やがて引越しのトラックがやって来て、付き添いに来てくれたマネージャーの指示の元、俺の分の段ボールや家具がどんどん運び出されていく。 リビングのソファに涼ちゃんと2人で腰掛け、ぼんやりとその様子を眺めた。
1人分の荷物だけだからあっという間に荷積みは終わり、マネージャーと一緒に新居に同行する俺もこの家を出る時間になった。
玄関に立つと、本当にもうこの家に戻ってくることはないんだと胸が押しつぶされそうになった。俺を見送ろうと靴を履いた涼ちゃんを振り返る。
「涼ちゃん、長いようで短かったけど…涼ちゃんのおかげで楽しかった。ありがとね」
ちょっと声が震えちゃって、カッコ悪い。
「若井、おれこそだよ………いっぱい頼らせてもらってありがとう。もし若井がいなかったら、おれ………」
涼ちゃんが涙をいっぱいに溜めた目で俺を見て、唇を噛む。涼ちゃんも寂しいと思ってくれてるんだと思うと堪らない気持ちになって、思わずその腕を掴んで引き寄せた。
ほとんど同じ身長の彼の肩に額を乗せ、背中に腕を回す。
「…………またね」
ぎゅっと一瞬だけ腕に力を込め、体を離す。
目頭が熱くなるのを感じて、彼の顔を見られないまま玄関を出た。
車で待っていてくれたマネージャーに顔が見られないように俯いて乗り込み、ぎゅっと目を閉じた。
終わらないです、話が😂
まとめる力………!!!
そしてGOOD ALEの発表会、なんですかあのお可愛らしらは………? もはや主役ではなくて???
🫠🫠🫠
コメント
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1日に2話もありがとうございます👏💕 ゆっくり💙💛を味わってるので、読者は幸せです❣️ きぃさん、あれは、アカンですよね🤭 私今から動画探すんですがネットで読んだ、ダンディー様の涼架くん呼びなぶっ刺さっております😇💕