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翌朝、私は錬金術の成果に満足をしていた。


それはどういうことかと言うと――

……はい、かんてーっ!


──────────────────

【中級ポーション(S+級)】

HP回復(中)

※追加効果:HP回復×2.0

──────────────────

【高級ポーション(S+級)】

HP回復(大)

※追加効果:HP回復×2.0

──────────────────


ドヤァ……!


初級ポーションをどれだけ作ってもS+級にしかならなかったので、中級や高級を試しに作ってみたところ――

……こちらも全て、S+級にしかならなかったのだ。


しかも作るのに必要な時間は、各種スキルのおかげで初級ポーションと同じ。

本来なら結構な差が出るはずなのに、私に関してはそんなことは起こらない。


「初級ポーションよりも高く売れるだろうし、もうお金に困ることはない……よね!」


出来上がったばかりのポーションを眺めながら、これからの明るい未来に想いを馳せる。


「……さて。

それじゃさっそく、冒険者ギルドに持っていってみようかな」


私はうきうき気分で、宿屋を後にすることにした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「おはようございます。ご用件を承ります」


冒険者ギルドの受付に行くと、ケアリーさんではない女の子が応対してくれた。


「おはようございます。

あれ、今日はケアリーさんじゃないんですね」


「はい、体調不良で休むと連絡がありまして……。

元気が取り柄でしたのに、どうしたのかしら」


「体調不良ですか、大丈夫かなぁ……。

えっと、今日は中級と高級ポーションの買い取りをお願いします」


「はい、ありがとうございます。

それでは検品しますので、冒険者カードとポーションの提示をお願いします」


言われるままに冒険者カードを見せて、カウンターにポーションを並べていく。

ポーションはそれぞれ10個ずつ用意したけど、どれくらいの金額になるのかな?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「大変申し訳ないのですが、すべて買い取りが出来ません。

申し訳ございません」


……へ?


検品終了後、受付の女の子から伝えられたのは……まったく想像しない言葉だった。


「何か、不備でもありましたか?」


混乱しながら、焦りながら質問をする。

品質だって、今回も全部S+級なのに……。


「……不備では無いのですが、昨日の夜に通達がありまして……。

A-級以上のアイテムの買い取りはしばらく行わないように、と。

理由としては、不正な方法で鑑定を誤魔化す錬金術師がいる……ということ。

加えまして、その混乱の収拾と、一般の錬金術師の保護……ということになります」


『不正な方法』で『鑑定を誤魔化す錬金術師』……って。

どう考えても、私が作るS+級のポーションがやり玉にあげられているようにしか思えない……。


でも、急に何でこんな話になってるわけ?


――……って、考えるまでもないか。

ヴィクトリアの差し金だよね、この街を治める貴族の娘なんだし……。


「はぁ、貴族ってこわい……」


呟きながらうなだれる私に、受付の女の子は申し訳なさそうに言葉を続ける。


「あの……。

アイナさんだから買い取れない……というのではなく、B+級以下のアイテムでしたら買い取りできますので……」


……ごめんなさい。

私は今のところ、S+級しか作れないんです……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




押し寄せた疲れを癒すために、私は街の広場でぼーっと時間を潰していた。


冒険者ギルドで素材を買って、完成品を売る。

……そんな成金ルートが、一夜にして簡単に潰されてしまった……。


直接冒険者に売る、とか、自分でお店を開く、というやり方もあるだろう。

しかし、既存の販売ルートを使わずにお金を稼ぐ……というのは、なかなかに難しそうだ。


直接売ることを考えても、知人やコネなんかはまだ無いからなぁ……。


多少話したことがある、というレベルでもケアリーさんくらいしかいない。

顔見知りのレベルとしては、宿屋女将のルイサさん、街門のところの騎士の青年、くらい。

あとは街門の近くで遊んでいた、アーサー君とロミちゃん……か。


「……ポーション、売れる気が全然しない」


それならば……と、お店を開くことを想像してみる。

しかしその瞬間、ヴィクトリアにちょっかいを受ける未来がありありと浮かんできた。


「……営業していける気が全然しない」


どちらもダメなのであれば、他の選択肢はどうだろうか。


ひとつ目は、ヴィクトリアに許しを乞う選択肢。


……いや、彼女と関係を持つのは絶対にイヤだ。

だって私、殺されかけてるし、今日は経済的にも殺され始めたし。


仮に上手くいったとしても、死ぬまで便利に使われてしまうだけのような気がする。


他の選択肢は無いかな……?


ヴィクトリアをなんとかする……。

……なんとかする。……なんとかする?


物理的に倒す? ……勝てる気がしない。

精神的に倒す? ……勝てる気がしない。

社会的に倒す? ……貴族をどうやって?

経済的に倒す? ……貴族をどうやって?


それ以外の選択肢――

……私が、この街から去る。


……うん?

あれ、これは出来そうだぞ?


でも、他の街でも買い取りを拒否されたらどうしよう。


いや、そこまでは権限が及ばないかもしれないし……。


でも、他の街に行くというのはアリ……だなぁ。


「……逃げた感じが、強いけど」


何気無いプライド、というべきか。

ただの負けず嫌い、なだけなのか。


それはよく分からないけど、不意にそんな思いが湧いてきた。

しかしそれはそれとして、正直な気持ちとしてはヴィクトリアから早々に離れたかった。


……ふと、中学時代のいじめを思い出した。

あの頃の『学校』という場所は、中学生にとっては大きな世界として存在する。


そこから逃げ出したい同級生が、たくさんいたことを私は知っている。


社会人が会社から逃げることは、比較的に簡単だ。

しかし中学生が学校から逃げることは、ある意味ではずっと難しい――

……逃げられない世界に属することは、かなりしんどくて、かなりつらい。


「はぁ……」


溜息をついてから目を上げると、品の良さそうなお婆さんが足を引きずりながら歩いているのを見つけた。

ルイサさんと同じ感じで、足を不便そうに引きずっている。


……そういえばアレって治せるのかな。

HPを回復するポーションでは治せないみたいだけど……。


「あのお婆さんの状態を、かんてー……っと」


鑑定スキルの便利なところは、意識を向ければ何にでも応用できるところだ。

レベルによっては出来ないこともあるだろうけど、私の場合はレベル99だからね。


──────────────────

【歩行障害(小)】

通常の歩行が難しい状態。

ゆっくりとなら歩くことが可能

──────────────────


……ふむ、なるほど。

鑑定はしてみたものの、見たままの内容か。


そう思いながら『創造才覚<錬金術>』スキルに意識を傾けてみる。


手持ちの素材で、治せる薬を何とか作れないかな……?

すると、ひとつのアイテムが頭に浮かんできた。


──────────────────

【歩行障害(小)治癒ポーション】

歩行障害(小)以下を永続的に治癒するポーション

──────────────────


……お、良いアイテムを発見!

でも、滅茶苦茶ピンポイントなアイテムだね、これ……。


「れんきーんっ」


軽く錬金術を使うと、右の手のひらに液体の入った瓶が現れた。


「うまくできたかな? かんてーっ」


──────────────────

【歩行障害(小)治癒ポーション(S+級)】

歩行障害(小)以下を永続的に治癒するポーション

※追加効果:筋力回復(中)

──────────────────


……うん、しっかり出来たね。

しかも、安定のS+級!


早速使ってもらいたいところだけど、見ず知らずの私から渡しても……さすがに怪しむか。

えっと、もう一度お婆さんを鑑定して――


……名前はアイーシャさん、ね。

よーし、しっかり覚えておくことにしよう。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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