「……お帰りなさいませ。霞柱」
玄関の前に行き御迎えすると、そこには
俺の弟である 時透無一郎が立っていた。
「…………ん」
こいつには記憶が無い。俺のせいで、
何もかも忘れてしまった。
11歳の暑い夏の日。鬼に襲われかけた弟
を俺は咄嗟に庇い、 意識を失ったが 、
無一郎はそんな俺を見て死んでしまった、
と勘違いしてしまったらしく、ショックで
記憶障害になってしまった。
俺の仇を打つため、鬼という憎しみは
忘れていないらしく、今では俺の弟が
柱になってしまった。
違う。違うんだ。俺はお前を柱になんか
行かせるつもりなんて無かったんだ。
俺はただ……、お前に幸せになって
ほしくて。 守りたかった。
俺は死んでなんかない。お願いだから
柱なんて危ないことはやめてくれ。
もう、終わったことなんだ、
お前は仇なんて忘れて、幸せに
生きてくれよ。頼む。
こうなるんだったら、ちゃんと弟に
優しくすべきだった。
「お風呂の準備が整っています。
どうしましょう、」
「……入るよ。血がまとわりついて
気持ち悪いし」
「承知致しました。ごゆっくりどうぞ」
無一郎はその後、何も言わずにお風呂場へ
向かった。
「チョット、無一郎!アリガトウグライ
イイナサイ!」
無一郎の鎹鴉が無一郎の後ろを着いて
いきながら言う。
「どうして。あの人は僕の世話を
してくれるだけでしょ、 」
「……ハァ、ワカッタワ。
ゴメンナサイネ、ユウイチロウ。」
「……いえ、霞柱の仰る通りなので」
「、アナタモソンナニ抱エ込ミスギルト
ヨクナイワヨ。タマニハワタシヲ頼ッテ
チョウダイ。」
「……ありがとう。」
無一郎の鎹鴉はすごく有能だ。
世話を焼いてくれるし、俺はいつまでも
無一郎と一緒に居られる訳ではないから
こいつがいてすごく助かっている。
「よし、その間に夜飯でも作っておくか」
俺は気合を入れて厨房へと歩き出した
今日のご飯は炊き込みご飯、味噌汁、
鯖の水煮、ふろふき大根だ。
ふろふき大根は無一郎の大好物で、
長期間の任務終わりの時によく作っている。
俺は味噌汁を作るために色んな食材を
入れ、そのまま煮込んだ。
ぐつぐつと鍋が踊り出し、部屋中に
味噌のいい匂いがする。
「お風呂上がったよ。まだ?」
その時、丁度無一郎がお風呂を上がった。
「……上がられたのですね。あと少しで
出来るのでもう少しお待ちください」
「……そう、分かった。」
無一郎はすることが無いのか、そのまま
俺の調理をじっと見続けている。
少しやりずらい。
「聞きたいことがあるんだけれど。」
少しした後、いきなり無一郎が喋りだした。
聞きたいことがある、なんて初めて
言われたから少し驚いたが、すぐに冷静な
顔をして対応した。
「なんでしょう。霞柱」
「……どうして君は隠でもないのに僕の
屋敷で僕の世話をしているの?
お金が貰えるから?」
「っ、……!」
調理をする手が止まった。
……どうして世話をしているか?
そんなの決まってるだろ。
「……兄だからです」
「、あぁ…確かに御館様がそんな事
言ってたな。僕達って双子だったんだね」
俺はまた手を動かし始め、口を動かす
「……はい。年齢は同じですが、俺の方が
若干早く生まれてきたので」
「ふーん……。」
「……さて、夜ご飯の準備ができました
よ。早速食べましょう」
「「頂きます」」
俺たちは、無一郎に時間の余裕がある時
だけ一緒に食べるようにしている。
心無しか、こいつはふろふき大根を食べる
時だけ一瞬だけ表情が柔らかくなる
気がする。
「……おいしい」
無一郎は小声でそう呟いた。
「それは良かったです。」
「……あ、聴こえてたんだ。まぁ別に
良いけど」
「霞柱は、俺達が小さかった頃も
ふろふき大根を好んでいられたのですよ」
「そうなんだ。……所でさ。どうして
敬語なの?」
「…………は?」
「だってさ。僕達って双子で家族
なんでしょ?それに歳も同じなんだし
敬語外してもいいでしょ。」
「いえっ、……ですが、一応、柱ですので」
「……僕は別に構わないよ。」
「なら……、ゎ、分かった。」
とは言ったものの、やっぱり最近
無一郎にたいして敬語で喋っていたため
中々慣れない。
「「ご馳走様でした。」」
数十分後、ご飯を食べ終え俺は皿を持って
いき皿洗いを始めた。
皿洗いを終え、ようやくまったりできる
時間が来たので俺は前回読んでいた本を
読む。
無一郎はと言うと、任務の報告書を
書いているらしい。少し頑張りすぎな気も
するから、茶を持ってってやるか。
俺は本にしおりを挟み、茶を用意して
無一郎の部屋まで移動した。
「おい。無一郎、入るぞ」
4回ノックした後、小さな返事が聴こえた
ためおれは襖を開けた。
「……なんの用」
「お前、少し頑張りすぎじゃないか…?
茶ここに置いとくから。それ飲んで休憩
しとけよ」
「…………あぁ、うん。」
「、なんだよ」
「……いや、敬語外せって言ったけど、
そんないきなり馴れ馴れしいんだって
思って」
「……仕方ないだろ。いつもこんな感じ
だったんだから。嫌だったんなら辞める」
「いや、……別にそれでいいよ」
「……そうか、じゃ、俺は邪魔しちゃ
いけないだろうし戻るぞ。」
「……うん。」
俺は音を立てないように襖を閉じ、
自分の部屋に戻った。
数日後。
「なっ……!?おまっ…………」
いつも通り無一郎をお迎えすると。
そこには大きな怪我をしている無一郎が
玄関に立っていた。
「何があったんだよ……!?蝶屋敷は
どうした!?」
「……煩いなぁ、落ち着いてよ。そこまで
傷深くないし、そのまま帰ってきただけ。
親子を庇ったら怪我しただけだし」
「深くないって……、それでもちゃんと
手当しないと、!早くこっち来い。
手当するから、」
俺は無理やり無一郎の手を掴み自分の部屋に
連れて行った。
*
「いたっ……」
「……悪い、ちょっと染みるよな。
あと少しだから」
俺はひとまず上半身の服を脱がせ、
怪我している所を消毒して包帯を巻いた。
正直、俺の大好きな弟がこんな風にして
帰ってくるのは本当に辛い。見たくもない。
「……お疲れ。終わったぞ」
「……別にしなくていいのに」
「ダメに決まってるだろ、!菌が
入ってきたらどうするつもりだ。」
「……どうでもいい」
……ほんと、可愛げ無くなったよな。
お前。つい3年前はにこにこしてて、
弱虫で、俺にひっつき虫だったのに。まるで
別人みたいだ。
「、もう少し自分を大切にしろ。」
「ごめん、僕そういうの分からないから。
そういう事だから。じゃあね。鍛錬して
来る。」
そう言うと、無一郎は立ち上がりこの場を
去った。
*
ある日。無一郎は刀鍛冶の任務に行かないと
ならなくなった。長期間の任務らしく、
俺は無事を祈っていた。
……が、数日後。隠が俺と無一郎の屋敷に
やってきた。
どういうことだ……?無一郎は死んだのか?
不安で堪らない。
「……時透様の兄でしょうか。」
「……そう、ですけど、俺の弟に何か
あったんですか……!?弟はっ、弟は
無事なんですか!?」
俺は冷静じゃ居られなくなって隠の肩を
掴んだ。
「おっ、落ち着いてください……、
霞柱様は無事です。……蝶屋敷で現在
治療中ですが、傷は浅いです。」
「……良かった、」
「…ですが本題はそれでは無いのです。」
「は、?」
「……霞柱様の記憶が、上弦の伍の戦いに
よって、戻りました。」
「……はっ、!?!?ほ、本当、ですか?」
「はい、なので今すぐ蝶屋敷にいらして
下さい。」
「……行きますっ、!」
嘘だろ。こんな事はありえない。
無一郎の記憶が戻った……?もしそれで
俺と会ったら、どんな反応をするのだろう。
おれはあいつに酷い態度をずっと取っていた
から、もしかしたら嫌われるかもしれない。
でも俺は、無一郎に会いたい。
*
「無一郎!!!」
俺は蝶屋敷に付き扉を開け、無一郎に
近づいた。
「……にぃ、さん、?」
「…戻った、のか?」
「……!!!!兄さんっ、、、!!!」
無一郎の久しぶりに見た 泣き虫を見た
瞬間、俺は無一郎に抱きつかれた。
「ごめんっ、ごめんなさい……、ぼく、
兄さんに沢山迷惑かけてっ……
僕、記憶もなくしちゃったから……。
兄さんが僕を庇ったせいで、兄さんの腕
無くなっちゃったし……、ごめんなさい」
……違う。違うんだ。俺はお前に
謝って欲しいんじゃない。謝るのは俺の方
だ。
「……大丈夫だから、落ち着け。俺は
確かに腕を無くしてしまったが、お前を
守れたって言うだけで腕の1本ぐらい安い
もんだ。…、記憶が戻ってくれて
良かった……。昔沢山怒ってごめんな。
お前を傷つけさせたい訳じゃないんだ、 」
「…、僕を守るためにしてくれたん
でしょ、?弟を守れるのは兄さんしか
居ないって思い込んでたんでしょ?
……最初は冷たい人だと思ってたけど、
兄さんの”あの”言葉を聞いてから考えが
変わったよ。あぁ、僕のこと見捨てて
無かったんだ。って思った。」
「っ見捨てるわけないだろ!!……」
「……そっかぁ、ぼくの記憶が戻るまで
ずっと世話してくれてありがとう。」
「…それが兄の務めだろ。」
「……ふふ、それもそうだね」
俺は久しぶりに見た弟の笑顔を見た瞬間、
そっと抱きついた。
「、もう離れるなよ。ばか」
「……!!!!当たり前だろ兄さん、もう
兄さんにあんな態度は取りたくないし、
これからは二人で一緒に暮らそう。」
「、お前柱辞めるのか?」
「やめない、けど、またいつも通り
2人で1緒に屋敷で暮らそう。兄さんは
やめて欲しいかもしれないけど、僕には
これしか出来ないから。それに、
みんな僕を求めてるから辞める訳にも
いかないんだ、」
「………………ふぅん」
本当は、柱なんてやめて幸せに暮らして
欲しかった。せっかく記憶が戻ったと
言うのに。
なのにこの優しすぎる俺の 弟は、
名前も知らない人の役に立ちたいと
思っている。優しすぎだ。
……でも、皆 が無一郎を求めているのは
本当だ。
俺に止める資格なんてない。
俺が今できることは、無一郎の安全を
願う事と、任務から帰ってきたお前を
お迎えしてたくさん癒しを与えることしか
できない。無能なのは俺なのかもな。
「……ぼくが完全復活して屋敷に戻った
ら、またふろふき大根作ってよ。」
「当たり前だろ、いくらでも作ってやる」
「ぇへへっ、本当?嬉しいなぁ」
無一郎は俺にとびきりの笑顔を向けて
きゃっきゃと笑っている。その声が
部屋中が 響き渡り、俺はこの瞬間が
一生続けばいいのに。と思いながら
愛らしい弟の頭を撫でた。
END
コメント
6件
お久しぶりです‼️待ってください待ってください‼️😿投稿いいねとフォロバいいんですかあぁぁぁぁ⁉️⁉️⁉️ありがとうございます〜😿😿今回の作品も神すぎました〜😿😿
久しぶりのまな板ッッッッ!! まな板様のお話は相変わらず神すぎます!!
まな板さんお久しぶりです😖無一郎君記憶戻ってよかったねぇ有一郎君🥲有一郎君が作ったふろふき大根はやっぱ昔ながらの味がするのかな…🤔有一郎君無一郎君が刀鍛冶の任務に行って長期間帰ってこなかったの心配してるのお兄ちゃんって感じ…😿無一郎君も記憶が戻って2人がぎゅーしてるのほんとにかわいい🫶まな板さんの投稿待ってます!(長文失礼しました)