太陽は高く、地平の彼方に滲むように昇っていた。
焼けつくような光に導かれるように、ひとりの男がゆっくりと歩き続けている。
その男――呪いを受けた勇者は、ボロボロの衣をまとい、剣を引きずりながら、虚ろな目で前だけを見つめていた。
見つけた――ようやく、追いついた。
太陽の光を背に、影のように佇む彼の背中が、かすかに揺れていた。
焦点の合わない瞳。引きずる剣。
けれど、それでも、間違いなく“彼”だった。
神官の足が止まる。
胸の奥で何かがぶつかる音がした。
恐怖ではなかった。
ただ、あまりに長く願い続けていた“再会”という現実に、心が追いついていないだけだった。
「……勇者」
名を呼ぶ声は震えていた。
彼は反応しない。けれど、ほんのわずかに足が止まった気がした。
神官はゆっくりと手を伸ばす。
近づくほどに、痛みと安堵が絡み合い、胸が苦しくなる。
けれど、ここまで来たのだ。
あの夜、すべてが壊れてしまった場所から、やっとここまで。
「もう、きみはひとりじゃない――」
神官の指先が勇者の胸に触れた、その瞬間何かが砕ける音がした。
それは骨でも、石でもない。
“ずっと触れたかった彼に、触れたことで崩れる”という、あまりに皮肉な運命の音だった。
光が弾け、風が吹いた。
神官の身体は、塵となって舞い上がる。
顔は優しく、目は閉じていて、まるで許すように微笑んでいた。
そのとき、勇者の瞳に、色が戻った。
ほんの刹那。ほんの、心臓が脈打つ一瞬だけ。
「ーー」
声にならない声が、唇の奥から洩れた。
それは、彼が最後に“人間だった”証だった。
そして、また勇者の瞳は閉じられる。
感情の影は薄れ、身体は再び重く前へ進みはじめる。
“陽”の方角へ。
彼の唯一知っていた、温かさの残る世界へ。
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