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「だーかーら!絶対この人が 何か隠してるって言ってんじゃん!」
「じゃあ根拠は?って聞いてんだろ?」
「1回も目線合わなかったし。そわそわしてたもん!あれは何もない人の振る舞いじゃなかった!」
「そんなん証拠になんねぇよ。データで示せって何回言えばわかんだよ」
「いるまってデータばっかり!そんなんだから解決が遅くなるんでしょ!」
「だからってらんのただの勘には付き合ってらんねぇから」
「ただの勘なんかじゃない!観察して言ってんの!」
「その観察ってやつ、説明しろよ」
「…ほんっと嫌い、まじで合わない」
「奇遇だな、それだけは同感」
まわりの大人たちが苦笑いを浮かべて見守る中、警察署の会議室で睨み合っている高校生探偵がふたり。
萩野いるまと、桜宮らん。
ふたりが一緒にいると、だいたいこうだった。
いるまは、圧倒的情報収集力で確実に証拠を集めて真相を導くタイプの男子高校生探偵。
対して、らんは鋭い観察眼からくるひらめきで真相に迫る、直感が間違ってないタイプの女子高校生探偵。
タイプが違うからこそ、価値観が合わない。
意見が合わない。
顔を合わせれば喧嘩ばかり。
けれど、ふたりは高校生ながら警察署に自由に出入りすることを認められているほどの実力者なのである。
仲が悪いと分かっていながらも、ふたりが揃って事件に呼ばれることが多いのも不思議ではなかった。
とある日。この日もまた、ふたりは同じ事件の調査に呼ばれていた。
いつものように、いるまは徹底的にあらゆる情報を洗い、一見関係のない情報まで調べ尽くす。
一方、らんは容疑者と話し、現場の様子を見ながら違和感を拾っていた。
そしてーーーふたりが別々に怪しいと睨んだ場所が重なった。
「やっぱりここ…」
らんはひとりで人気のない、とある倉庫の前に立っていた。
建物の外側をぐるりと周り、窓から中を覗き込む。
すると、一瞬だけ、部屋の奥にキラリと光るものを見つけた。
「…ん?」
今日はただ見に来るだけ。
本当はそう思っていたけど、事件に関わるかもしれないのに、らんが見逃せるはずがなかった。
「絶対に何かある」
らんの直感がそう告げている。
足を踏み入れるのに、迷いはなかった。
すこしずつ奥に進んで目的の部屋を探しながら、造りをマッピングしていく。
どこになにがあるか、あやしいものはないか。
それを探すのに夢中になりすぎていた。
「…おい」
「きゃあ!!」
突然、後ろから腕を掴まれた。
らんが振り向こうとすると、動けないように押さえつけられ、強く口を塞がれる。
「お前、こんなところに何しに来た?」
耳元で低く囁かれ、らんは自分が引き返せないことを悟った。
普段なら自分の身は自分で守れる程度の防衛はできるのに、まったく身動きが取れない。助けも呼べない。
らんは初めて、自分の身に焦りを感じていた。
ずるずると奥に引き込まれながら、どうにかできないかと必死に抵抗していたとき。
「…なんの音だ」
ドタドタと何かが走り回っているような音が近づいてくる。
ーーーーそのとき。
突然、扉が勢いよく開いた。
と、同時に眩しい光が差し込み、一瞬、目の前が白く染まる。
思わず目を瞑ると、その瞬間、掴まれていた腕がふいに緩んで誰かにぐっと腕を引き寄せられた。
「警察だ。お前の素性は掴んでる。署まで来い。」
「……いるま…!?」
らんを胸元に引き寄せ、犯人を追い詰めるのは、紛れもなくいるまだった。
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帰りの警察車両の中で、らんといるまはしばらく沈黙していた。
聞きたいことは山ほどある。
なんでいるまが来たのか、とか。
なんで自分がいることが分かったのか、とか。
言いたいことは山ほどある。
勝手にひとりで動くな、とか。
せめてひとこと言ってけ、とか。
でも、口を開けるような雰囲気じゃなかった。
いるまはちらっとらんを見る。
ぼーっと窓の外を眺めるらん。
その表情はこちらからは分からない。
そのうえ、いつもはうるさいほど元気なくせに、一言も喋らない。
そんならんに、いるまはため息をついていつものように呆れたように声をかけようとした。
ーーーーが、気づいてしまった。
らんの手が小さく震えている。
ぎゅっと握りしめて必死に隠しているけど、よく見れば分からないこともない。
それに。
窓に映ったらんの目が、濡れている気がした。
気づいた瞬間、いるまはぱっと目を逸らした。
らんがそんな顔するなんて、思ってもいなかったから。
いつも自信満々で強気だからこそ、らんはなにがあっても大丈夫だと思っていた。
(そんなことないのかもしれない)
もう一度らんの方を向く。
相変わらず表情は見えないけど、気づいてしまった今では、自分よりも小さな背中が「怖かった」と叫んでいるようにしか見えない。
胸の奥がきゅっと苦しくなるような感覚に陥った。
(なんだ、これ…)
そっと胸に手を当てる。
ーー別に、ただらんが勝手に動いて突っ走って自ら危険に飛び込んだだけだ。
そう思うのに、これ以上危ない目に遭ってほしくないと、しょげたままでいてほしくないと思ってしまう。
守りたいと、思ってしまった。
迷った末に、結局、いるまは自分の鞄からお菓子を取り出した。
「…らん。これ、今日もらったやつ。やる。」
少しだけらんが振り向いた。
「だいじょぶ」
いるまはそれを無視して包み紙をはがし、そっと口元に差し出す。
「甘いの、すきだろ」
らんは驚いたように振り向くと、いるまとお菓子を交互に見つめ、迷った素振りを見せながらもぱくっと口をつけた。
「…おいしい」
「いや自分で食べろよ」
「もういらない」
「はぁ?」
らんが再び窓のその外に視線を向けると、いるまは「まったく、」と呆れながららんが残した残りを食べ始める。
そんないるまを窓越しに見つめながら、らんも心が揺れていた。
ーーいるまがやさしい。
もっと怒られると思っていた。
いつもみたいに、「だから勘で動くやつは」とかなんとか、喧嘩になると思っていた。
違った。
むしろ、どう接したらいいか分からないというようにお菓子をくれた。
らんが甘いのを好きだというのも覚えていた。
無理に責めてこなかった。
きっと、自分が落ち込んでいること、恐怖を拭えないことには気づかれているのだろう。
それなのに、あの完壁主義ないるまが何も言わない。
(なんでだろ)
いつものいるまとは全然違うのに、心地いい。
さりげない優しさが、なんとなく素直に心に染みる。
(いるまも、やさしいとこ、あるんだ)
喧嘩してるときには気づかなかったこと。
ふいにそれに触れて、ふわっと心があったかくなったことに、らんはまだ戸惑っていた。
その日からだった。
ふたりが、少しずつ変わったのはーーー。
つづく。
コメント
1件
読了しました…!最初はあんなに衝突してた二人が、事件を通じてお互いの意外な一面を知っていく流れ、すごく好きです。いるまがらんの震える手を見て“守りたい”って自覚するところ、胸がきゅってなりました…😢 たかがお菓子ひとつなのに、無言の優しさが伝わってきて、続きが気になる終わり方でした!