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〈ニグ視点〉
数日後、俺達はうたいさんの病室に来ていた。
俺達のことは”なんとなく会ったことがある気がする”程度しか覚えてなくて、取り敢えず自己紹介から始まった。
けど、凸さんのことは…
………凸さんは今日、うたいさんの病室に来ていない。
俺は両手を握りしめた。
あの日、うたいさんを一人にしてしまったことを…後悔している。
「あ、あの…僕って、皆さんとどんな関係だったんですか?」
うたいさんが不安そうに俺達の顔を見る。
…そうだよな
知らない人達がいて、不安にならないわけがない。
ましてや、記憶を失っているなんて知って…ショックが大きいはずだ。
「…おどろくたちはうたいさんの仲間なのだ。」
「そうなんですか…?」
「うん…信じられないかもしれないけど…」
「い、いえ…皆さんが僕のこと大切に思ってくれてるって、なんとなく感じます…」
…俺たちとの会話に距離感がある。
当然だって分かってる、でも…
悔しい…
俺はべるさんから鍵を借りて、先に病院を出た。
凸さんは部屋に籠もってるって聞いた。
着いた俺は鍵を開けて中に入る。
「…凸さん、居るんだろ」
扉を叩く。
返事は無かった。
俺は大きく音を立てて扉を開ける。
凸さんは驚いたのか体をビクリと震わせて俺を見る。その目には泣き跡があった。
俺は近づいて凸さんの胸ぐらを掴む。
「なんで行かなかったんだ!!!!!」
凸さんは目を逸らし、諦めたような顔をする。
「たってさ…俺のせいでうたちゃんが死のうとして…記憶喪失になって、俺なんかがうたちゃんに会うべきじゃなくて…」
「”会うべきじゃない”ってなんだ!じゃあ俺のことも責めろよ!」
「…は?」
俺は凸さんの胸ぐらを離し、力なく呟く。
「…俺は、止められなかった。」
「………………」
「一度、川に落ちて死のうとしたうたいさんを、俺はたまたま助けることができた…」
あのなにもかも絶望したうたいさんの顔を、俺は忘れられない。
「だから、うたいさんを一人にすることが何より危険か、俺は気付くべきだったんだ!少し落ち着いてきてるなんて思わなきゃ良かった!凸さんと話してくるって、ちゃんと話しておくべきだった!」
気付いたら涙が流れていた。
「………どうだ…?怒れよ…一発俺のこと殴ってみろよ!」
凸さんは涙でぐちゃくちゃになった顔のまま、俺の頬を殴った。
「じゃあ!じゃあ………どうするべきだったんだよ…?俺は!うたちゃんに会って何を話せば良かったんだよ!?会ってもきまずいままだ!俺は、うたちゃんから全く知らない他人として見られたくなかったんだよ!わかるだろ!?」
「っ…」
それは…
うたいさんの不安な顔、知らない人が側にいる怯えた目。
「勇気がなかった…うたちゃんが、実は貴方が記憶喪失になったのは俺のせいですなんて…知ったらどんな顔すると思う?」
…………
今度は俺が目を逸らす番だった。
「…ニグさんも、分かってるだろ…どうせ行っても辛い思いするだけなんだ…わかったらもう来ないでくれ…」
疲れ切った顔をした凸さんに、俺は何も言えず帰った。