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#王子
すっこ
491
✙愛猫✙
83
朝。鳥たちがさえずる声が聞こえる。車の音、バイクの音。清々しい朝だ。
まだ少し寒さの残る中、ベッドから起き上がる。お布団に包まっていたいが今日は入学式。
遅れるわけにはいかない。気合いを入れて布団から出る。
やはりまだひんやりするので布団に視線を戻す。誘惑を振り払うように頭を振る。
入学式、すなわち初登校日、すなわちこれから高校生活を共にする仲間との初顔合わせ。
気合いを入れてメイクをして髪型を作るためにスマホのアラームを早くに設定し早起きした。
正直言ってめちゃくちゃ眠い。メガネをかける。ベッドに倒れたらまだ少し寝れる。
しかしそんな甘美な誘惑から逃れるために後ろ髪を引かれに引かれながら部屋から出る。
洗面所へ行く。寝ぼけ眼で歯を磨いて、寝ぼけ眼を起こすためにメガネを取って顔を洗う。
春だがまだ少し寒い。しかし脳、目を起こすために水で顔を洗った。
冷たくて手先が震える。しかしお陰で目が覚めた。
「よしっ」
頬をパチンと軽く叩く。そして自室に戻り準備を進める。
真新しい制服に袖を通す。まだ1年生だからあまり大きく気崩しはしない。先輩に目つけられたら怖いから…。
でも第一ボタンは留めないで、リボンの位置も少し下げる。
スカートは膝上丈。でも。鏡の前でクルッっと回る。
うん。下着は見えない程度の長さ。釣りエロラブコメは先が見てらんないからね。
いくらその先純愛ラブコメだとしても、序盤の釣りエロが足引っ張る。
私がヒロインのラブコメでそんなことは許されない。
昨日美容院で染めてもらったばっかりの毛先が水色のミルクティー色の髪を少しカールさせる。
メイクはナチュラルメイク。ほんの少し唇にセクシーさを入れるため、リップはほんの少しだけ濃いピンク。
唇を合わせ、パッっとする。完璧。
今日は入学式だから控えめな、だけど印象に残りやすいチャームのイヤリングをつける。よし。
そしてお母さんが用意してくれた朝食のフルーツとヨーグルトだけ食べて
「ごめん!遅れそうだから出る!いってきます!」
と言ってパンを咥えて家を出る。時間は余裕あるけど。
私の名前は米恵田(こめだ)愛恋(まこ)っ!今日から高校1年生!
今日が私がヒロインのラブコメの記念すべき1ページ目。
パンを咥えて「遅刻遅刻ぅ〜!」って言って角を曲がって、黒髪の爽やかな男の子とぶつかって
「ごめんね!急いでるから!」って走り去る。男の子は「なんだあいつ」みたいな感じになって
クラス表を見てるときに偶然会って「同じ学校だったんだ?」みたいになって
クラスも同じで隣の席で、運命を感じて…。
そう。愛恋はベタなラブコメに憧れている。今でこそ、陽キャ感全開な彼女だが
小学生、中学生と、目立った生徒ではなかった。メガネをかけて静かに過ごしていたタイプ。
愛恋は小さい頃からラブコメが大好きで、ありとあらゆるラブコメを読んできた。
王道なラブコメから、少し変わったラブコメ、ハーレムもの
日常系と呼ばれる作品でも、ラブコメ要素があれば読んできた。
そして大好きなラブコメを、自分がヒロインとなってその身で感じてみたいと思うようになった。
高校生になるにあたって、地味な自分から派手になろうと思った。
地味なヒロインが主役のラブコメも山ほどあるが、内気な自分を変えるため、外見から変えようと思ったから。
勉強は得意なほうで、そこそこ頭のいい高校も狙えたが
校則が緩くて、青春生活を満喫できそうな、ラブコメ展開がありそうな公立高校を受験した。
公立高校を狙うとなると、愛恋の学力ではそこまで勉強しなくてもいい。
なのでその時間を使って、メイク、髪型、ファッションを勉強した。
コンタクトをつける練習も数えられないくらいした。朝スムーズにコンタクトをつけられるように。
そして今日。愛恋は烏森(うしん)高校の1年生となる。
本当は「祭り事」と呼ばれる行事に力を入れ、行事が盛んな達磨ノ目高校のほうが
ラブコメ展開が起こる確率が高そうなので、達磨ノ目高校を第一志望にしていたが
倍率が高すぎてあえなく落ちてしまった。
しかしよく考えれば、愛恋の家から達磨ノ目高校は電車で行かなければならない。
電車となると、ラブコメといえば、の「パンを咥えて走ってぶつかる」がしづらい。
むしろ落ちてよかったのかもしれない。そう言い聞かせていた。
SNSにて「烏森高校新1年生」というハッシュタグで、LIMEのグループができていたらしいが
仮に同じ中学の子がいたら嫌なので入らなかった。しかし愛恋にとっては一石二鳥。
同じ中学の子がいたら嫌だし、そもそも角でぶつかる(予定)の男子とは面識がないほうがいい。
そのほうがラブコメ感強いし、運命感も強くなる。
香ばしいパンを咥えて走っていると、現実的な問題に差し掛かった。
噛んでいた部分が唾液で柔らかくなりしなり始める。あわてて硬い部分に齧り直す。
ようやく自分と同じ制服を着た子が多くなってきた。
あの角で、待ちに待った、パンを咥えて「遅刻遅刻ぅ〜!」ドンッ。を実行しようと目を光らせる。
しかしここでもう1つ、現実的な問題に差し掛かった。まず「遅刻遅刻ぅ〜!」と言うのが恥ずかしすぎる。
さらにパンを咥えた状態では「遅刻遅刻ぅ〜!」と言いづらい、モゴモゴなる。
そしてもう1つ。いざ小さな声で
「…うぃこううわぁ〜…(訳:遅刻だぁ〜)」
と言いながら角を曲がるが
「…」
意外とタイミングが合わず、ただパンを咥えて角を曲がった人になる。なので愛恋は
「あ、わううぇうぉうぉ(訳:忘れ物」
とわざとらしく独り言を言って元の道を少し戻り、また
「…うぃおうぅ〜…(訳:遅刻ぅ〜)」
と小声で言いながら角を曲がり、またタイミングが合わず、また
「わううぇうぉうぉいあ(訳:忘れ物した)」
と独り言を言って元の道を戻り、また
「…うぃおうわぁ〜…(訳:遅刻だぁ〜)」
と小声で言いながら角を曲がる、というのを繰り返した。控えめに言って不審者である。
「こんなラブコメのヒロインは嫌だ」という大喜利に使われそうな答えである。
そしてしばらく繰り返し、「遅刻ぅ〜!」と言うことへの羞恥心も薄れてきて
「うぃおうわぁ〜!(訳:遅刻だぁ〜!)」
と言って角を曲がったら、ドンッ。ようやくぶつかった。
愛恋はわざとらしく、弱々しく、痛くないように転ける。
これで「いてて…」って言いながら、転けてる相手を見て、目が合って「トゥンクッ」
黒髪の爽やかイケメン…。あ、でも地味メンでもいいなぁ〜…。
陰キャが美少女に惚れちゃって、隣の席で、どんどん私の言動にトキめく。あぁ…アリ。
でも急いでるから「ごめんねぇ〜!」って言いながら走り去る。オッケー。シミュレーション完璧。
そう思って
「いふぇふぇ…(訳:いてて」
とシミュレーション通り…ではなかった。
パンを咥えていたせいで喋りづらいというのを想定していなかった。
…現実ラブコメ、ちょームズイ…
そう思ったが挫けない。高校1年生。初日。まだ校舎にすら足を踏み入れていない。
こんなラブコメで言ったら5ページ未満で諦めるわけがない。せめて読み切り分くらいは。
そう思って目を開けた。ぶつかった相手と目を合わせようとした。
しかし視界にあったのは手。おそらく男子の。
あぁ!なるほど。相手は転けてないパターンね。「大丈夫?」って手を差し伸べてくれるパターン。
これは陰キャパターンじゃない。
地味メンというか、クラスでは目立たないけど優しくていい子。みたいなパターンか
シンプルに爽やかイケメンパターンか。どっちか。どっちだ?
と思いながら、顔を上げた。するとそこには金髪の髪をハーフアップにして
棒付きキャンディーを食べている人がいた。
…。はい?
処理するのに時間がかかった。何回もリトライしてやっとぶつかった相手。
目をパチクリしてからもう一度見た。変わらない。
おい…黒髪爽やかイケメンの真逆来たんだが?
と思っていると
「…だいじょぶ?」
と声が聞こえた。なので
「あ、すいません。ありがとうございます」
と手を差し出した。もう想定の「あっ!ごっめぇ〜ん!」ではなく敬語になっていた。
金髪ハーフアップの人が手を握ってくれた。大きくて指先が少し冷たいが奥の温かさを感じる。
今日までろくに同世代の男子と話したことも、ましてや触れたこともなかった愛恋は
手を引かれながらドキッっとしていた。
…さすがにヤンキーラブコメは想定外。だってヤンキーは怖いから
なので、ラブコメ要素とかではない、シンプルに逃げるように
そしてドキッっとした気持ちからも逃げるように
「ごめんなさい!急いでるので!」
と一度パンを口から出し、そう言って走って行った。校門前についた愛恋。
今日からここが私がヒロインのラブコメの舞台…
そう思いながら校門前で校舎を見ながらパンを食べる愛恋。シュールである。
ラブコメでは、角でぶつかって「いったぁ〜い」から走り出して
学校につくまでの間にヒロインのパンは忽然と消えている。
ということは割愛されているが、ぶつかって学校につくまでに食べ終えているということだ。
恐るべし…ラブコメヒロイン…
そう思い、パンを食べ終え、高校の敷地内に足を踏み入れた。
そして入学式。体育館に新1年生が集まる。なんだがざわざわしている。
「え!?四つ子!?」
「同じ顔が4人」
「マジか。初めて見た」
「イケメンじゃない?」
などと聞こえる。どうやら新1年生に四つ子がいるらしい。
ほお。四つ子。おもしろいじゃん。でも男の子側が四つ子って聞いたことないな。
女の子側が五つ子は聞いたことあるけど。あ、でもあれハーレムか。ないな。
ハーレムラブコメは、相手の事考えてない男の子か優柔不断なヒロインだらけだから好きじゃない。
私はならない。ハーレムラブコメのヒロインには…。でもそうか。四つ子。
たとえばその四つ子のうちの1人と同じクラスになって
おそらく血縁者は同じクラスに割り振られないだろうから、あとの3人は別のクラスで
同じクラスの子と恋に落ちて、でもその子は過去に顔だけで好きになられてて、四つ子なら誰でもいいみたいな。
だから私の愛が本物かどうか見極めるために、四つ子の中からその子を当てる。
そして私が見事に当てて、その子の心の壁を取っ払う。おぉ。なかなかにいいストーリーのラブコメじゃない?
と入学式の間も自身のラブコメのストーリーを妄想していた。
入学式のときにそのクラスの担任の先生が名前を呼ぶ。
なので名前を呼ばれた時点でクラスもわかるということ。想定のクラス分けのボードみたいな
合格発表のボードみたいな、あのボードを見ているときに、今朝角でぶつかった相手と偶然合って
「同じ学校だったんだ?」みたいなやつはできないと悟った。そして入学式自体終わり
クラス分けは想定と違ったな…。ま、角でぶつかってってやつもほぼ失敗に終わってるし…
と少し落胆して体育館を出て教室に向かうとき、目が合った。
「あ」
「あ」
今朝ぶつかった金髪と再会した。
「お、同じ高校だったんですね」
奇しくも憧れのベタなラブコメセリフが自然と口から出た。敬語だったが。
「だな。派手パン」
と金髪が言った。
…派手…パン…
しばらく考えて、自分の下半身を見る。そしてバッっとスカートを抑える。
嘘嘘嘘。下着は見えない長さのスカート丈のはず。…ハッ
思い出す。転けたとき。ぶつかった反動で後ろに転ける設定。
相手が転けたとしても転けなかったとしても、向かい合っている相手にスカートの中が見える可能性がある。
そのことを想定していなかった。一気に顔が熱くなる。
最悪最悪最悪。…。あ、でもこの「最悪」って思う感じ。なんかラブコメっぽい
こんな状況でもラブコメに変換する。もはや病気である。
…ん?
ここでふと疑問が浮かんだ。
…「派手パン」?…言わないけど、今日の下着は派手じゃなかったはず…。
というかそもそも派手な下着持ってない…。
パッっと金髪を見て
「派手…パン?」
と呟くように聞く。
「あぁ。派手パン。世にも珍しい派手な髪のパン咥えた女子」
と言う金髪。
派手な髪のパン咥えた女子。“派手”な髪の“パン”咥えた女子。略して“派手パン”…なんだぁ〜…
心底安心する愛恋。
「あぁ!なるほどね!」
焦ったぁ〜…
と思うが表情には出さない。
「ごめんね、今朝は。大丈夫だった?」
歩きながら話す愛恋。
「おん。逆にそっちのほうが大丈夫だった?盛大に尻もちついてたけど」
と言う金髪に
お。見た目に反して意外と優しい?けど言い方。
私のラブコメの辞書に「盛大に尻もち」という言葉は存在しない
と思うが
「あぁ。うん!大丈夫大丈夫!」
笑顔で対応する愛恋。
「そ?ならいいけど」
「ありがと。気にかけてくれて」
「気にかけ…。ま、いいや」
「でも初日から金髪なんて、気合い入ってるねぇ」
「その髪で言う?」
笑う金髪。
「…たしかに」
階段を上る。1年生の教室にぞろぞろみんな入っていく。
「じゃ、私のクラスここだから!また機会があれば!」
と笑顔で言って愛恋が金髪に手を挙げて教室に入った。
みんな黒板前の席割を見て席に座っている。愛恋も黒板のほうに行って席割を見た。
ほおほお。廊下から2列こっち(窓側)の1番後ろの席ね。なかなかにいい席。
でー?隣の席はー…。1番廊下側の席はー、五仄島…。なんて読むんだ?名前は美咲(みさき)。
女の子か。仲良くなれるといいなぁ〜
そう思って自分の席に座った。
でもあれだな。ラブコメでよくあるのが、ヒロインよりヒロインの周りの友達が魅力的すぎて
ヒロインより友達のほうが人気出るっていう…。頼む。中の中。せめて上の下。
ま、私は下の中くらいだけど。でも今は中の下くらいにはなれたはず…。
ん?中の下?中の中の子が来ても、私負けてない?
と失礼なことを思っていると隣のイスが引かれる音がする。
きたっ。自己紹介。元気に可愛く。ラブコメなら3年間の親友になるかもしれない相手。
シャララァ〜ンって、華麗に。キャララァ〜ンって、煌びやかに。
シミュレーションは完璧。いざ隣を見て
「初めまして!私」
笑顔で自己紹介をしようとした。しかしそこにいたのは
「よ。派手パン」
例の金髪だった。
…。
フリーズした。体も顔も脳も。
…。え?美咲って書いてあったよね?間違えて…。あ、私の見間違え?てか…同じクラス…
「わ、私、こ、米恵田愛恋。よろしく…」
元気で可愛い自己紹介とは程遠かった。
「初めましてではないけど」
と笑う美咲。
「オレは五仄島美咲。よろしく」
美咲は微笑んだ。不覚にもドキッっとしてしまった。金髪にピアス。
不良っぽいのに美咲という名前。悪魔的な天使の微笑み。ギャップ。
…え。てか美咲?この人が?女の子じゃなかったぁ〜…
と思いながらも
「よ、よろしく」
と言った。すると教室の端々から
「ねえ、あの人って入学式遅刻してきたって聞いたよ」
「マジ?入学式遅刻はないよね」
「ヤンキー?」
「見た目的にそうじゃない?」
「怖いかも」
と聞こえてきた。声のほうを見ると、どうやら愛恋のほうを見て言っていた。
いやいや。私はバッチリ入学式出たから。たしかに初日でこの髪色は攻めたけどさ
と思って気づく。
もしや
と思い、体を少しズラした。するとその噂をしていた人たちの視線は愛恋が動いても変わらなかった。
つまり、愛恋の後ろにいた美咲を見て言っていたのだ。
「オレのことだよ」
と言う美咲。
「え」
「入学式遅刻。オレ」
「あぁ〜。入学式遅刻したの?」
「した。高校初日、大失敗。友達作れなそー」
と言いながらも笑う美咲。
軽っ。でも…ヤンキーではなさそうなんだけどなぁ〜…
と思う愛恋。
「ヤ、ヤンキーなの?」
と聞く愛恋に、ポカンとしてから笑い出す美咲。
「な、なに」
「ヤンキーなのって。聞く?本人に聞く?おもしろ。ヤンキーだったらキレられてるよ」
と笑いながら言う美咲。
「ってことはヤンキーじゃないってこと?」
「あーウケる。自分ではヤンキーではないと思うけどね。ま、決めるのは周りだから。
周りがヤンキーだと思ったらヤンキーなんじゃない?」
「…」
めっちゃちゃんとしてる。ヤンキーとは到底思えない
と思う愛恋。
「私は思わない」
「…」
「私はヤンキーとは思わない」
と愛恋が言うと、美咲は微笑んで
「へえ」
と言った。なぜか愛恋は美咲の微笑みを見るたびにドキッっとした。
え。なに?私の想定と全然違う。ぶつかった相手の想定も違う。
まぁ、偶然同じ学校で同じクラス、まさかの隣の席ぃ〜!?ってのは叶ったけど…。相手が…。
と思っていると担任となる先生が入ってきた。
ざわざわしていた教室内がピタッっと静かになる。これから1年間お世話になる先生。
先生によってはつまらない1年になるかもしれないし、賑やかな、楽しい1年になるかもしれない。
教室内は謎の緊張感に包まれていた。しかしどうやら担任の先生は20代と若く
ノリもいい感じの先生で、楽しい1年が確約されたも同然だった。
そしてこのまま主席番号順の席のままいくか、席を変えるかという話になった。
ほぼ満場一致で席替えをすることになった。
「離れちゃうね。残念」
と言う美咲。
残念?
もちろん引っかかった愛恋。
「唯一友達になれそうだったのに」
「あぁ」
そういうことか
と思う愛恋。
「ま、席離れても話せるじゃん。移動教室とかのときとか」
「話してくれるの?」
と言う美咲にキョトンとする愛恋。
「うん。なんで?」
「米恵田さん、女友達増えそうじゃん。人気になりそうだし」
「そんなことはないと思うけど…」
「ザ陽キャじゃん。見た目」
見た目はね。努力しましたので
「友達いたら迷惑でしょ。オレが話しかけたら」
「いや?全然大丈夫だよ」
「だってもうオレヤンキーだって広まってるよ?
オレが話しかけたら友達から変な目で見られるでしょ。申し訳ないって」
…。え。優しっ
と思う愛恋。
「いや、大丈夫大丈夫!ヤンキーじゃない、全然優しいよ?って説明するから」
と言うと、美咲は微笑んで
「優しいね、米恵田さんって」
と言った。またドキッっとする愛恋。
…。あぁ。男慣れしてない弊害か…。
そう。小学校、中学校とラブコメ内では男を山ほど見てきたが、小学校、中学校と静かで
男の子とほぼ話したことがないまま、高校デビューを果たしたため
ガッツリ話す男子というのが美咲が初だった。
ま、ドキドキして当然か
そう思っていると先生が黒板に席の表を書いた。
そして席に「1」とか「2」とかシンプルに数字を書いていった。
そして先生のスマホのルーレットで席を決めることになった。
窓側の1番先頭と廊下側の1番先頭がじゃんけんをして、窓側からということになった。
順々に前に行ってルーレットを回していって、黒板を確認しながら席に座る。
いざ愛恋の番。前に行ってルーレットを回す。出た数字を見て黒板を見て席を確認する。
やったね!窓側から2列目の1番後ろ。…どうせなら窓側がよかったけど…
と思いながら席に座った。すると前の席の子が振り向いて
「私、玉後(たまご)知呼(ちこ)!よろしくね!」
と言ってきた。
茶髪のミディアムヘアー。ピアス…だよな?私イヤリングだからピアスとの区別がいまいちつかないけど…。
テンションは高め。この匂い…。根っからの陽キャだ。ラブコメで言うところのスポーツ系タイプ。
いつメンになったらムードメーカー兼マスコット的な立ち位置になるタイプだ、きっと。
と思いながらも
「私、米恵田愛恋!よろしくね!」
と自己紹介をし返した。
「愛恋ちゃんって呼んでい?」
グイグイタイプ。読み通り。私みたいなハリボテ陽キャからしてみたら
向こうからグイグイ来てくれるのはありがたい
「うん!私はぁ〜…」
「あぁ、なんでも?知呼ちゃんでも呼び捨てでも」
「じゃあ、知呼ちゃんで」
「おうよ!」
そして知呼が知呼の右横の黒髪の女の子の肩に腕を回し、ぐいっっと寄せる。
「で、この子が地図(しるべ)ちゃん。入学式隣で、いろいろ教えてくれたんだぁ〜。ねぇ〜?」
「近いわ」
「地図ちゃん。こちら愛恋ちゃん」
愛恋の顔を見る地図。
「今福嶺(いまふね)地図です。よろしく」
「米恵田愛恋です。よろしく」
黒髪ウルフヘアー。ピアスは…見えないけど、してなさそう?
この子はー…ラブコメでいったらツッコミ係かな。
見たところあまりテンション高い系じゃない。ダウナー…って感じでもないけど
おそらく頭がいいタイプなはず。
顔は整ってる。…ノーメイク?ノーメイクでこのクオリティー?
あ、これあれだ。ヒロインより人気出るタイプだ
と思った。
「地図ちゃん愛恋ちゃんね。呼び方」
と言う知呼。
「呼び方まで知呼ちゃんが決めるの」
と言う地図。
「えぇ?いや、ちゃん呼びふつーでね?」
「…ま」
「でー」
と言う知呼に
まだあるのか。さすが陽キャ。仲良くなるスピードが異常
と思う愛恋。知呼が左にズレる。知呼の前の席の子の後ろ姿が見える。
綺麗な白髪のロングヘア。見惚れるほどだった。知呼がその子の肩をトントンと叩く。
白髪の子が振り返る。まるでスローモーション。髪も綺麗だったが顔も人形のように整っていた。
「このまるでモデルみたいな子が、真留出(まるで)萌手流(もでる)ちゃん」
嘘でしょ?そんなキャラの属性をそのまま名前にしてるタイプのラブコメみたいな名前、本当にいるの?感動
と思っていると
「違うでしょ。古辺道(こべど)知鶴(ちづる)さんね」
と地図が訂正する。
なんだ…。真留出萌手流じゃないのか…
という残念感と
やっぱ地図ちゃんツッコミタイプだ!読み通り
という感情が同時にきた。
「どうも。古辺道知鶴です。よろしく」
と自己紹介する知鶴。
「あ、米恵田愛恋です!よろしく」
知鶴さんは…。綺麗な白いロングヘアーに、耳には…すごっ。何個開いてんの?ってくらいのピアス。
人形のように整った顔、キリッっとした目。たぶん目は大きいんだと思うけど、半開きくらいの感じ。
見たまんまのクールタイプ。ラブコメでいったら、クラスのマドンナ。高嶺の花。
クラスのマドンナで、親衛隊を侍らせて、男子を顎で使うタイプもいるけど
知鶴さんは恋愛には興味ないタイプと見た。
クラスの男子が遠目から憧れを抱いて、クラスの陽キャ男子が話しかけるけどあしらわれる。
告白しても「…。ごめん。興味ない…」ってクールに振るタイプ。
でもイケメン陽キャじゃなくて意外と地味で、知鶴さんと同じ、恋愛にあまり興味ないタイプの男子と一緒にいて
居心地が良くなっていって、居心地の良さが恋心に変わる感じだね。
いざ知鶴さんが気持ちを打ち明けるシーンでは、今までクールだった知鶴さんが涙を流しながら告白する。
「この気持ちを打ち明けたら、もう元には戻れないって思って。フラれて君を失うのが怖いの…」
って。そしたら男の子がギュッっと抱きしめて
「大丈夫。失わない。オレも好きだから」
って言う。号泣必死のシーンだね
と妄想して、しばらくして
いやいやいやいや。これじゃあ知鶴さんがヒロインじゃん、私がヒロインじゃないじゃん。
「鶴の一恋」とかいうタイトルに変わるじゃん。ダメダメ
…「鶴の一恋」…タイトルからしてめっちゃ良作っぽい。私がヒロインのより人気出そう。…いや、ダメ!
と頭を振った。
「ま、席近い女子はこの4人だから仲良くしませう」
と言う知呼。
「うん。よろしくね」
「よろしく」
「よろしく」
「てか愛恋ちゃん髪色きれぇ〜」
と言う知呼に
食いついてきた
と思った。この髪色は、もちろん高校デビューするにあたり、自分のイメージをガラリと変えるためでもあった。
ただもう1つ。話すキッカケでもあった。元々人とあまり話してこなかった愛恋は
どういうきっかけで話せばいいかわからなかったので
髪色で個性を出せば相手から話しかけてきてくれると踏んだのだ。作戦は大成功だった。
「あ、ありがとう」
「なんで水色なの?」
「あ、私クラゲが好きで」
「おぉ〜。ピアスもクラゲだもんね」
「そうなの」
ま、イヤリングだけど
と思う愛恋。
「かわい」
シンプルな言葉。知呼からしたらシンプルな感想。しかし愛恋の頭の中では
「わーいわーい!陽キャから可愛いって言われたぞぉ〜」
「お祭りじゃーい!」
「わっしょいわっしょい」
小さな愛恋がお祭り騒ぎを繰り広げていた。
「ありがと」
「私もクラゲ好き」
と言う地図。
「ほ、ほんと!?」
「うん。癒される」
「わかる。癒されるよね」
「ま、私も好きだけどね」
と言う知呼。
「知鶴ちゃんは?」
「ま。好き」
「おぉ〜。じゃ、水族館行く?4人で」
「おぉ!いいね!」
と話していると席決めが終わったようで、先生が話し始めた。
「連絡先は後でね」
と言いながら前を向く知呼。
「うん」
そして思った。
席近い女子は4人って言ってたけど、隣の席がまだ
と隣をチラッっと見た。すると目が合った。美咲だった。
「よかった。また米恵田さんの隣になれた」
と微笑む美咲。ドキッっとした。明確に。
「お、お」
言葉に詰まった。
「おひさしぶりです」
詰まって詰まって、結果似つかわしくない言葉が出た。
「お」
思わず笑う美咲。クラスの視線が注がれる。先生に注意される。
「米恵田さんっておもしろいね」
小声で言う美咲。
「私のせいで怒られて、ごめんね?」
「ううん。いいよ。ま、今のでヤンキー説加速しそうだけど」
と小さく笑う美咲。
「ごめん…」
「いいよ謝んないで。その代わり、責任取ってずっと友達でいてね?」
と言う美咲にまたドキッっとする愛恋。
「あ、じゃあ。よろしくお願いします」
「よろしくね」
脅迫とも取れるけど、ま、私にも責任あるし…
と思う愛恋。その後先生が学校の方針だったり、授業の仕方などを話し
係決めを行い、クラス全員で写真を取ってその日の学校は終わった。
「終わったぁ〜!」
と伸びをする知呼。
「よっし。4人で出会い記念パーティーしよ」
と言う知呼。
「パーティー?」
「そ。パーティー」
グラスを掲げて
「かんぱーい!」
と言う知呼。
「かんぱーい!」
と言う愛恋。
「乾杯」
と言う地図に
「乾杯」
と平坦なトーンで言う知鶴。
「…パーティー。ね」
と呟きながら周囲を見る地図。そこはファミレスだった。
「立派なパーティーじゃん」
「どこが」
「そういえば愛恋ちゃんの隣の席、あのやんちーくんだったね」
と愛恋に言う知呼に
「聞けよ」
と言う地図。
「ヤンキーじゃないと思うよ」
「嘘ぉ〜。入学式遅刻よ?私でもしなかったよ?」
「ま…それは…」
たしかに弁明の余地がない…
と思っていると
「…あの人、優しい人だと思う」
知鶴が口を開いた。
「喋った…」
と言う知呼。
「喋るでしょ。人形じゃないんだから」
と言う地図。
「え。知鶴ちゃんあのやんちーくんと知り合い?もしや同中(おなちゅー(同じ中学の略))とか」
「…いや。知らないけど」
「ほ?」
なんだ「ほ」って
と心の中でツッコむ地図。
「朝。海外の人と学校と反対行ってるの見た。
スマホに「案内めんどくさいんで一緒に行きますよ」って話して、画面見せて笑い合ってた」
と淡々と説明する知鶴。
「おぉ!道案内してたと。ギャップですなぁ〜」
たしかに
と思う愛恋。
「雨の日に捨てられてる猫に傘さしてあげるヤンキーみたいなギャップ」
と言う知呼に、ピクッっと反応する愛恋。
「雨の日に捨てられてる猫に傘さしてあげるヤンキー」
ラブコメのベタ中のベタじゃないですか!
ヒロインだけがその姿見てて、学校ではヤンキーだと思われてる男の子の意外な一面を見て惹かれる。
で、好意を抱いてると告白すると学校で壁ドンとかされて「いいの?オレヤンキーだよ?」とか言われて
…あ。壁ドン、手でもいいけど、足でされるのもいい。ヤンキー感増すよねうん。
でヒロインの子は「私、優しいの知ってるから」とか言って男の子の心を溶かしていく。
え。ベタ中のベタ、王道中の王道じゃん。最高かよ
と思ったが
…ん?待って?それ見たのが…
視線を知鶴に向ける。
知鶴さん…。おい!また知鶴さんがヒロインになってるって!
また「鶴の一恋」だって!しかも絵になるって!人気出ちゃうでしょ!
と思った。
「あ、そうだ。LIMELIME。LIME交換しよ」
ということでLIMEを交換することになった。
「次の土日のどっちかさ。遊び行かない?みんな暇?空いてる?」
「怒涛の質問やめて」
「私は空いてる。どっちも」
手を挙げる愛恋。
「私も暇」
と手は挙げないが言う知鶴。
「…。ま、私も空いてるけど」
と言う地図。
「じゃ決定!土日どっちにする?どこ行く?水族館?なに見る?なに食べる?」
「だから怒涛の質問やめて」
なんて話してその日は解散した。家に帰った愛恋。
スクールバッグを置き、テーブルミラーの前でコンタクトを外す。
洗浄液で洗浄して、保存液を入れたコンタクトケースに入れる。
「あぁ〜…」
裸眼になり、解放された気分になる。目薬を差す。目に染み渡る。
「あぁ〜…」
メガネをかける。制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
「疲れたぁ〜!」
ベッドに横たわる。スマホを掲げる。画面には
知呼「なんかもう寂しい。地図ちゃん、家来て」
地図「明日会えるんだから我慢して」
「なんだこのやり取り。カップルか」
知呼「彼氏になってくれるの?」
猫がうるうるした目をしているスタンプ
地図「私は女だ」
知呼「知鶴ちゃん!彼氏が冷たい!」
地図「彼氏じゃないって言ってんだろ」
知鶴「優しくしてあげて」
地図「知鶴さんまで…。私は正真正銘女です」
という今日作ったグループLIMEでやり取りが繰り広げられていて、めちゃくちゃ嬉しくなった。
あの、中学時代友達少なかった私が。ラノベ読んでた私が。暗くて静かだった私が。
高校初日でめっちゃ可愛い女子3人と仲良くなって、グループLIMEでやり取りしてる。通知来てる。マジか
何度も画面を見た。夢じゃない。嬉しくて悶えた。そして本棚に目をやる。愛恋の部屋の壁側。
一面本棚で、床から天井まで、ありとあらゆるラブコメで埋まっていた。コミック、ライトノベル。
本棚には入り切っておらず、押し入れにも入っている。
ベッドから立ち上がり、読みかけの「猫に異常にモテる椏旅くん!!」を手に取った。
これは一見して、猫に異常にモテる椏旅くんの日常コメディだと思われがちだけど
実際はヒロインの猫村さんが苗字に「猫」って入ってるのに猫に嫌われて、猫好きなのに触れない。
だから猫に異常にモテる椏旅くんを観察して、どうやったら猫に好かれるのかというのを知ろうというのが目的だったけど
次第に椏旅くんの猫に好かれる体質に猫村さん自身も惹かれていってしまうという
なかなか練られた純愛ラブコメディなんだよね。うん。私の好きな純愛。最高
と思いながらふと思い出した。
「スマホに「案内めんどくさいんで一緒に行きますよ」って話して、画面見せて笑い合ってた」
という知鶴の言葉。道案内して入学式に遅れて、1年生
いや、もしかしたら入学式に遅れた1年がいるという噂が2年生、3年生にも広がり
学校全体で「美咲はヤンキーだ」という認識になっているかもしれない。
でも実は道案内をしていた。その優しさ。そのギャップ。
…。私が弁明する?
想像した。明日学校に行って、黒板の前にいって、教卓をバンッ!っと叩いて
「聞いて!五仄島くんはヤンキーじゃないの!入学式に遅れたのだって海外の人に道案内をしてたからなの!
勘違いしないであげてほしい!実は優しい人なの!」
と言う姿を。
無理無理無理無理。まずみんなの前で大声出すの自体無理。
元陰キャよ?ハリボテだから。陽キャなの見た目だけだから。
と思ってコミックを片手にベッドに寝転がる。
あとなんで私が五仄島くんの弁明をする義務があるの?…。
ま、私のせいでヤンキーを助長させた感はあるけどさ…
そう思いながらもコミックを読み始めた愛恋。
これはベタなラブコメをしたい米恵田さんの物語である。
コメント
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あおいです、読了しました🌷 もうもうもう、愛恋ちゃんのラブコメ脳が可愛すぎて何度も笑いました! パンを咥えて角を曲がる練習を何度も繰り返す姿とか、現実の壁にぶち当たりながらも「これもラブコメの一ページ」って変換しちゃうのが最高です。 そしてまさかのぶつかった相手が金髪の美咲くんで、しかも隣の席になるとは…王道のベタ展開のはずなのに「想定外」の連続でドキドキしました。 知呼ちゃんたちとの出会いも自然で、すでにこの4人の空気感が好きです。 続き、すごく気になります!