テラーノベル
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あの人が、…ゆあんくんが、私のことだけ見てくれればいいのに。
私以外に興味を示さないでほしい、私だけに笑いかけてほしい。
――なんて、烏滸がましくて、口にすら出せないや。
#001 「遠くから。」
ガラガラ、と音を立てて教室に入ると、数人が振り返って挨拶をしてくれる。「おはよー」「駅前に新しくできたカフェ知ってますか?」なんて、何気ないことで話しかけてくれる大切な友達。
「おはよ、カフェできたの?」
「そうですよ!今度一緒に行きませんか?」
そう言って笑いかけてくれる、 大切な友達――のあさんにさえ、言えていない秘密がある。それは、この学校の“人気者“に叶わない恋をしていること。
隠しているつもりはない。けど、いざ…「えとさん、好きな人いますか?」――そう聞かれると、心臓が跳ねて、咄嗟に「好きな人?いないよ、そんな柄じゃないし!」と笑って誤魔化してしまう。
打ち明けたら、きっと手を握って、「応援します」と言ってくれるだろう。
ただ、恥ずかしい…そんな、柄にも合わない乙女らしい理由で、秘めている恋心を隠してしまう。
「ゆあんくん、パスパス!」
「たっつん!」
昼休み、グラウンドで想い人のゆあんくんと、たつや先輩がサッカーをしていた。それはもう、かっこよくて。
「えとさん?」
走るたびに揺れる髪とか、笑いながらボールを追う姿とか、 なんでもない仕草なのに、全部目で追ってしまい、 のあさんとご飯を食べている途中なのに、ふと窓から覗いてしまう。
「えとさん!」
勢いよく名前を呼ばれて、はっと意識が目の前にいるのあさんに向く。
「のあさん、どうしたの?」
「どうしたの、ってこっちのセリフですよ!急に窓みて固まったから、何事かと思いましたよ」
のあさんにそう言われて、
(そんなにみてたかな?)
反射的にそう思った。…自覚がない時点で、重症かもしれない。
「もしかして、サッカーしてる人たちのこと見てました?」
核心を突かれて、肩がびくっと揺れた。
「な、なんのこと?サッカーしてる人なんている?」
「あはは、ちがうよ〜」と、軽くかわせばよかったものを、大袈裟にリアクションしてしまった。のあさんは、普段のほほんとしているのに、こういうところでは鋭く、備わっている勘の良さがフル活用されるのだ。
案の定、私のオーバーリアクションを見て、ははーんとにやけていた。
「当たりですか、誰のこと見てたんですか?」
目を輝かせて、机に身を乗り出して聞いてきた。
(ぜっったいバレてる…)
ここで、「ほんとに見てないから!」と言ったとしよう、いつもなら少し心残りのありそうな顔をしつつも、「まあ、深くは聞きませんけど」と引いてくれるだろう。しかし、今言ってもモードに入ったのあさんは引いてくれる気がしない。
ここは正直に…
「…見てたのは認めるけど!誰かは言わないからね!」
そう言った。
気を抜いて喋れる友人に、恋愛系の話をするのは少し恥ずかしくて、口早になってしまった。…のあさんはそれすらも見逃してくれないだろう。
「認めるんですね、ついにえとさんにも春ですか」
…のあさんに好きな人を言っていない理由はもう一つあった。それは、このように結構揶揄ってくるからだ。大前提、本人の前でわかりやすく冷やかすなんてことはしないし、相談にも親身に乗ってくれるいい人ではある。でも、2人で話すときにすごく揶揄ってくる。
「もー、揶揄わないでよ」
「ふふっ、ごめんなさい。」
あー、もう1年生が終わるのかぁ…。
帰り道、1人で歩いているときに、ふと考えてしまう。
今年は、のあさんと同じクラスになれて担任の先生も優しくて、当たり外れで表現するのはあまりよくないと思いつつも、当たりの年だったな、と思う。
だからこそ、来年度のクラス替えが楽しみでいて怖いのだ。
しみじみしたことを考えていると、後ろから歩く音が聞こえた。
――コツ、コツ。
今は帰宅時間だし、同じ家の方向の学生だろう。
ただ、気になってチラッと後ろを覗いてみた。すると、そこには…
ゆあんくんがいた。
えっ、え…?思わず動揺してしまった。まずい、手汗が…
気を取り直して…家、一緒の方向だったんだ。
知らなかった、また一方的に知っている情報が増えちゃうな。
先ほどまでは焦りで内心バクバクだったが、今は少しにやけている。
側から見たら、だいぶ情緒がおかしい人だろう。
……だからって、にやけを 抑えようとしても、全然無理で――
「ねー、ママ。あの人すごい鼻の下伸ばしてにやけてるよ?」
「こらみっくん、見ちゃメッ!」
ほらみろ、子供に変な人扱いされた。
…ゆあんくんに見られてない、ーよね…?
――バッ
勢いよく、後ろを振り向いたが、不幸中の幸い、さっきの曲がり角で曲がっていたみたいだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
変な人扱いされているところを見られたら、メンタルが死ぬところだった…
「…ほんと、危なかったぁ」
今はまだ――遠くから、見ることしかできない。
#愛され
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