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#魔法
しろのね
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U
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ちょん
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「まさか……本当に売れてしまうなんて」アンに勧められて自費出版という形で出してみた小さな詩集は、学園の近くにある下町の小さな本屋で、思いのほか大きな評判を集めていた。
名を伏せ、匿名で販売していたのは、公爵令嬢という貴族の肩書があると「色眼鏡で見られてしまうかもしれない」というアンの賢明な助言があったからだ。
読者から本屋経由で届いた手紙やメッセージを受け取るたび、リリーの胸の奥はじんわりと温かな光で満たされていく。
『読んだ瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられました』
『とても美しく、切ない旋律のような詩ですね』
信じられない思いだった。魔法も使えず、己の無力さに苛まれていた自分のような存在が書き綴った言葉が、誰かの心に確かに届いているなんて――
「……リリー様っ!」
「あっ……」
肩を優しく揺さぶられ、リリーはハッと正気に戻った。隣を歩いていたアンが、心配そうな眼差しでこちらを覗き込んでいる。
「ごめんなさい、アン。少し考え事をしてしまっていて……」
「ふふ、また例の詩集のことですわね? いいのですよ。さあ、庭園でお茶にいたしましょう」
放課後の授業が終わり、今日はアンと二人で庭園の東屋へ向かい、お茶会をすることになっていた。
ちなみに、もう一人の親友であるミーシャはというと――
「私も行きたいですぅ〜!! リリー様ぁ~!!」
と叫びながら子供のように駄々をこねていたところを、容赦なく担当教官の元へ連行されていった直後だった。
理由は至極単純。彼女は先の学期末テストで赤点を取り、厳しい補習を受けなければならなくなったのだ。
薬草学や調合の知識に関しては学年トップレベルの才能を発揮するミーシャだが、座学の歴史や法学といった苦手分野となると、とことん点数を落としてしまうのが彼女の極端なところであった。
「それにしても、リリー様は本当にすごいですわ! セシル様に続いて学年二位だなんて、並大抵のことではございません!」
「そんなことありませんわ。アンだって成績上位者として表示されていたでしょう? 十分すぎるほどすごいわ」
リリーが言葉を返して褒めたたえると、アンは嬉しそうに頬を緩ませて体をくねらせた。
実技授業で魔法が扱えない分、座学で圧倒的な点数を取らなければ進級すら危うくなると教官から助言を受けて以来、リリーは死に物狂いで勉強に打ち込んできたのだ。その努力が実を結んだことは、素直に誇らしかった。
二人で談笑しながら陽の差し込む廊下を歩いていると、アンがふと足を止め、めったに使われていない旧舎の音楽室を指さした。
「あら……まあ! ピアノが置いてありますわ!」
アンが声を弾ませる。
「私、実は最近ピアノを習い始めましたの。少しだけ、弾いてみてもいいかしら?」
「もちろんよ。ぜひアンの音色を聴かせて頂戴」
「ふふ、期待していてくださいね!」
アンは楽しそうに鍵盤の前へと歩み寄り、椅子に腰かけた。
•¨•.¸¸♬
滑らかな指先が、黒と白の鍵盤の上を軽やかに舞う。
まだ習い始めて日が浅いとは思えないほど、美しく整った可愛らしい旋律が部屋の中に響き渡った。
何よりも、心から楽しそうに音楽と戯れるアンの横顔がとても眩しくて……リリーの胸の奥から、思わずある言葉が溢れ出そうになった。
『私も……』
演奏が終わると同時に、リリーは自然と温かな拍手を送っていた。
「とても綺麗な音色だったわ、アン」
「ありがとうございますわ、リリー様」
アンはどこか誇らしげに微笑み、鍵盤から手を離すと直前までリリーをじっと見つめてきた。
「リリー様も、弾いてみられませんか?」
「え? 私が、ですか?」
「ええ。ずっと、とても弾きたそうなお顔をしていらっしゃいましたもの。ふふ、隠しきれていませんでしたわよ?」
……完全に見透かされていた。
「……気づかれてしまっていたのね、恥ずかしいわ。でも……私には弾けないと思うの。幼い頃、ほんの少しだけ習った記憶はあるけれど、それ以来ずっと触れていないもの。もう指の動かし方なんて、すっかり忘れてしまって……」
幼少期、公爵家の嗜みとしてピアノに触れたことはあったが、ほんとお遊び程度だ。
「案外、身体というものは覚えているものですわよ? ほら、まずは座ってみてくださいな」
アンはそう言うと、戸惑うリリーの手を引いて半ば強引に演奏席へと座らせた。
目の前に広がる整然とした鍵盤。リリーは緊張に指を強張らせながら、ゆっくりと視線を落とした。
♪ ♪♪ 🎶
一つ、また一つ。戸惑いながらも指先で鍵盤を押し込んでいく。
――その瞬間、全身を突き抜けるような奇妙な感覚が走った。
指が。意志とは関係なく、勝手に、滑らかに動き出したのだ。
いつの間にか拙い音は一つに繋がり、流麗で美しく、切ない一曲の旋律となって部屋中に溢れ出していた。
まるで何かに導かれるように、音が指先から溢れ出て止まらない。
頭の中に、見たこともないはずの、けれど鮮明な楽譜が次々と浮かび上がってくる。
懐かしい。
今まで触れていなかったはずなのに。
何百回、何千回、何万回と、この指で奏で続けてきたかのような、身体に刻まれた音。
まるで自分のものではない――けれど、決して他人事ではない「誰かの記憶」に直接触れているような、途方もなく不思議な感覚だった。
旋律は、旧舎の窓を抜けて、静かな放課後の空へとどこまでも高く溶け込んでいく。
――そして、この切なくも美しい旋律が、やがて二人の黒髪の少女の元へと届くことになるのは、そう遠くない未来のことだった。
コメント
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うわぁ〜〜第6話、めっちゃ良かったです😭💕 リリーが詩集で誰かの心に届いてるシーン、もう胸がじんわり温かくなったよ…! そしてピアノ! 指が勝手に動いて美しい旋律を奏でるなんて、まるで前世の記憶とか魂に刻まれた何かがあるみたいでドキドキした! アンの優しさも素敵だったし、最後の黒髪の少女二人への伏線、続きが気になりすぎる〜!!🌸✨