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「……3つ目の請求を条件付きで承認しました。
対象が存在する付近の座標に、アイナ・バートランド・クリスティア及び仲間2名を転送します……」
「なっ、な……っ! それは……っ!!」
女神様の言葉に、王様は恐ろしい形相を浮かべた。
例えるなら、それは絶望――
「……すべての請求が為されました。
これを以って、『白金の儀式』を終了します……」
女神様がそう告げると、彼女の姿は徐々に薄れていった。
それと同時に、私たち三人の足元が突然光り始める――
「え!? これは!?」
「転送するって言ってましたよね……!?」
「アイナ様! はぐれるとまずいので、とりあえず手を繋いでおきましょう!」
「うん、了解!」
私たちがそんなやり取りをしている中、女神様を縋るように見ていた、王様の視線がこちらを向いた。
「アイナよ! 頼む、それだけは勘弁してくれっ!!
今までの非礼は詫びる! だから――」
王様の悲痛な叫びは、突然訪れた暗闇と共に途中で消えてしまった。
この暗闇は……おそらく女神様の転送が発動したのだろう。
ふわっとした浮遊感があってから、触覚以外の感覚が無くなっていく。
唯一残った触覚は、ルークとエミリアさんに繋がっている感覚だ。
ひとまずこの感覚があれば、私は十分に安心することができた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――……わ、っと!?」
体感としては数秒後、ズシャッ……という音と共に、私は地面に転げ落ちた。
歩いていて転んだ程度の衝撃だから、そこまで痛いというものでもない。
周りを見てみれば、ルークとエミリアさんも同じように倒れていて、ちょうど起き上がろうとしているところだった。
「……ここ、どこでしょう?」
エミリアさんが不安そうに声を出す。
そこは何とも不思議な場所。
周囲は闇で覆われているのに、私たちだけがぼんやりと光っている。
単純な闇の中ではない。かと言って、どこかから光が射しているということもない。
「うーん、分かりませんね……。
すぐ近くの地面と、エミリアさんとルークしか見えませんし……。
でも、何だかとっても新鮮というか……?」
「そうですねぇ……。空も真っ暗ですし……。いや、空なんでしょうか?
洞窟? いや、うーん……?」
「アイナ様、鑑定で場所が分かったりしませんか?」
「あ、そうだね。それじゃ早速――」
かんてーっ。
──────────────────
【現在の場所】
暗闇の神殿 周辺地域
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もいっちょ、かんてーっ。
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【暗闇の神殿】
暗闇に覆われた神殿
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「……だってさ」
「むむ、これは……よく分かりませんね」
ルークがウィンドウを眺めながら呟いていると、エミリアさんがハッとしたように言った。
「もしかして、ここは絶対神アドラルーンの神殿ですか!?
アイナさんが、女神様によって導かれた……とか!!?」
「いや、神様と会ったのは闇の中ではなくて……何も無いところでしたからね。
ここは違うんじゃないかなぁ……」
「っていうか! その話!! 聞かせてくださいっ!!!」
エミリアさんはいつになく、食い気味で話してきた。
アドラルーンはルーンセラフィス教の一番偉い神様だから、それも仕方が無いか。
「そうはいっても、あんまりお話することは無いんですよ。
以前1回死んじゃったんですけど、そのときに会っただけなので」
「え……?」
「アイナ様、死んだんですか……?」
――あ。
「……ああ、うん、いやいや。
死んだあとにね、神様に会ってね。生き返らせてもらった、っていうか?」
「さ、さすがアイナさん……。
確かに聖人には、一度死んでから蘇えるというのはよくある話ですし……」
「なるほど、アイナ様は聖人だったのですね……。
何とも素晴らしいことです……」
「それまではただの人だったんだけどね……。
そのときに、神様から錬金術のスキルを色々ともらったの」
「そうすると、アイナさんの錬金術はまさに神の御業――
ああ、まさか。こんなにも神の力が近くに感じられるなんて……!」
エミリアさんは私の右手を取って、しきりに感動している。
錬金術を使うとき、右手にアイテムを作っているせいかな……?
それにしても、この二人は信じ難い話を素直に受け止めてくれる。
私の秘密なんて、あとは異世界から転生してきたことくらいなのでは無いだろうか。
……何だかそれだけ隠していても仕方が無いし、いずれは話しても良いかもしれない。
まぁ、話す機会ができたら話すことにしよう。
「――それで、エミリアさんはそろそろ……。
人の手をぷにぷにするのをやめてください」
「え? ……あ、失礼しました!!」
「いえいえ。さて……こうしていても仕方が無いし、どうしましょう。
どこもかしこも先が暗くてよく見えませんし……。『暗闇の神殿』という割に、神殿っぽい建物も見えませんし」
「アイナ様、向こうの方から強い気配がします。あちらに進んでみましょう」
「え? ルークは何か感じるの?」
私には何も感じられない。
いや、少しだけ風が吹いている……それくらいのものだ。
「はい。あちらから強い気配が流れて来ています。
もっと近くに行けば、もっと強く感じるでしょう」
「ふむ……」
重ね重ね言うが、私には何も感じられない。
エミリアさんも同様のようで、ルークがいなかったらここで詰んでいたことだろう。
「それじゃ、進んでみますか?
……いえ、でも疲れちゃいましたよね。休んでいきませんか?」
よくよく考えてみれば、王様との謁見から『白金の儀式』まで、ずいぶんと緊張の連続だったのだ。
ここには誰も来る気配は無いし、少しくらい休憩していっても良いだろう。
「そうですね、休んでいきましょう。
謁見の間に来たとき、エミリアさんもルークも手枷を付けられていましたし――
大変なこと、いろいろあったんでしょう?」
「そうなんですよー。
……あれ? そういえば、手枷はいつの間に?」
「謁見の間でアイナ様の側に飛ばされたときに、一緒に外れていましたよ」
ルークは笑いながら、エミリアさんに言った。
「むぅ。感動のあまり、まったく気が付いていませんでした……」
確かにあのとき、手枷が付いたままだったら抱擁とかも出来なかったもんね。
女神様も、粋な計らいをしてくれたものだ。
「それで、二人はどうだったんですか?
私は錬金術の研究室や資料室を案内されたんですけど」
「わたしはアイナさんのことばかり聞かれましたね。
かなり怪しかったので、詳しいことはお話しませんでした」
「私も同じです。途中で何やら薬を盛られたりしましたが……」
「え? ルークも!?」
「……というと、アイナ様も? 大丈夫でしたか?」
「うん、私は鑑定で気が付いたから。……ルークは?」
「我慢しました」
「えぇ……?」
とんでもないことを、しれっとやってのける。それがルーク・クオリティ。
どれどれ、かんてーっ。
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【状態異常】
幻覚(小)
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「……って、ずっと幻覚状態だったの……!?
はい、薬あげる……」
私はアイテムボックスから『幻覚治癒ドロップ』を出して、ルークに渡した。
「ありがとうございます。薬といっても、ポーションではないのですね」
そう言いながら、ルークはそのままその薬を飲み込んだ。
しばらくしてから……かんてーっ。
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【状態異常】
なし
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うん、しっかり効いてるね!
「……私も幻覚の薬を盛られたんだけど、幻覚ってどんな感じなの?
やっぱり判断力とか、鈍っちゃう?」
「そうですね。最初はふらふらしましたが、ある程度したら慣れてしまいました。
私の場合、たまに視界の隅を何かが走り抜けていったくらいです」
「人によって違うのかな……。でも、ルークは精神力で抑えてそうだからね……。
ちなみにエミリアさんは、薬は盛られませんでしたか?」
「わたしは食事に誘われても、断っていたので大丈夫でした!」
「えぇ!? エミリアさんが!?」
「ちょっ!? な、何ですか、それ!?
わたしだって慎重になるときくらいありますよ!?」
「えぇー……?」
思いのほか、三人の中で一番慎重だったエミリアさん。
これは実に予想外だ……。
エミリアさんにポカポカと叩かれながら、私は呑気に、そんなことを考えてしまっていた。