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「うちの両親ね、二人で一緒に自分たちの作る料理で皆に笑顔になってもらいたいって、洋食店開くのがずっと夢で。私や悠翔が産まれて、なかなかその夢も実現出来なかったんだけど、ようやくその夢叶えられたのが私が15で悠翔が5歳くらいだったかな」
「ご両親料理人だったんだ」
「そう。だから私もまだ小さい悠翔の面倒見ながらお店手伝ったり」
「それで透子料理上手かったんだ?」
「まぁ。そんな二人の近くでいろいろ見てたら自然に覚えていったし、私もその血引いて料理好きだったんだろうね」
「そっか。だからか」
「あのハンバーグもね。実はうちのお店のレシピなんだ。あのソースもうちの特別なソース」
「そりゃウマいはずだ。あれは手料理の域超えてたもん。ホントプロみたいな味だった」
「ハハッ。ありがとう樹。それでお店開いてもうすぐ10周年迎えようってなった時に、父が買い出しの途中で不慮の事故に遭っちゃって・・・」
「・・・え・・・?」
「そのまま父はこの世を去ってしまった。ホントなんかあっけなくて信じられなくて。私もちょうど今の会社就職し始めたところで自分自身まだその場所でも慣れてないし、ハルくんはまだ中学生だったし、正直その頃はホント大変だった」
「そう、なんだ・・・」
「母はショックでしばらく何も手につかなくて、しばらく何年かお店も休業してた。私ももう母がツラいならそのままお店閉めちゃってもいいかなって思ってたし、どうしてあげたらいいかわからなかった」
「そりゃそうだよね・・」
「うん。で、その辺りにちょうど前の彼と出会ってお付き合いしてて、後々に結婚っていう未来勝手に描いてた。私もそんな母を見て安心させてあげたかったのもあるし、私自身も結婚して落ち着きたかったっていうのもあったんだよね。でも結局それはただ結婚に逃げてただけなのかも。目の前の何かにすがって現実から抜け出したかっただけだったんだろうなって今は思う」
「そっか・・・」
「だけど、実際は北見さんとは上手くいかなくなって。それで私も今のままじゃダメだなって気付いて、少しずつ立ち直って、一人で生きて行けるようになった」
「ちょうどまだ透子ちゃんがその人と付き合ってた時、オレは高校卒業して。それからオレ料理人目指すことにしたんです」
「そうなんだ?じゃ今料理人なの?」
今度はハルくんが現状を樹に説明し始めてくれる。
「はい。父が亡くなるまで小さいながらもオレもそんな二人の姿見てきたんで、気付いたらオレも同じ道歩みたいって思うようになってました。だけど父が亡くなった時はオレはまだ中学生で何も出来なくて。とりあえず高校からはレストランのバイトに行って下積みして」
「もうその頃からバイトで経験積んでたんだ?」
「はい。父の昔からの知り合いのシェフがいるレストランで。父の事情も知ってくれてて、オレが料理人目指してるって言ったらまずはバイトから経験してみろって声かけてもらえたんです」
「そっか」
「それで高校卒業したら本格的にそこで料理人として修業させてもらいながら雇ってもらえることになって。今はそこでずっと働いてます」
「へ~。じゃあ今もうかなり腕上がってるんだろうね」
「はい。最近ようやく料理を任せてもらえることになりました」
「へ~!すごいじゃん!」
「まぁまだ一品だけとかそんなもんですけど」
「店どこで働いてるの?」
「フランス料理の店なんですけど。réaliserっていう店です」
「結構有名なお店で高くていいお店だから、私もなかなか行けないんだけど(笑)」
「うん。そんなお店で働かせてもらえて感謝してる」
「réaliser・・・。あの店なんだ・・」
すると、そのお店の名前を聞いて呟く樹。
「知ってる樹?」
「あぁ。まぁ。で、ご両親の店は今は?」
「父が亡くなったのも随分前だし、今はもう母も立ち直って、母が一人で頑張ってる。やっぱり一人でいるよりお店のお客さんと会ったりしてる方がいいみたい。やっぱり元々料理好きなのもあって、父と叶えた夢だったお店をそのまま守り続けたいって」
今はこうやって樹に笑顔で報告出来るくらいになったことが嬉しい。
「そっか、よかった」
「だからオレ今の店でもっと経験積んで、一人前になって自信ついたら母親の店をオレが継いでもっと大きくしたいなって思ってます。今のオレの夢です」
「素敵な夢だね」
ハルくんがキラキラしながら語ってくれる想い。
それに樹も優しく声をかけてくれる。
「それで、料理をいつか任されることになったら一緒にお祝いしようって、姉と約束してて。それで今日このワインを」
「あっ!そうなんだ!オレそうとは知らず勘違いしちゃって・・」
「最初の頃はずっとハルくんとも会ったりしてたんだけど、ハルくんも忙しくなってきて最近はなかなか会ってなくて。今日ホント久々に会えたの」
「そっか・・。透子、ごめん」
「全然大丈夫。いつかちゃんとハルくんも紹介したかったし、うちのことも話しておきたかったから、ちょうどよかった」
「うん。ちゃんと聞けてよかった」
「すいません。なんか勘違いさせちゃったみたいで。お詫びと言っちゃなんですが、樹さんもこのワイン付き合ってもらっていいですか?」
「えっ、オレ邪魔じゃない?せっかく久々に会えたんだったらオレ帰るけど・・」
「樹なんで帰るの?ハルくんとも別にいつでも会おうと思ったら会えるし。せっかく樹早く帰って来てくれて会いに来てくれたのに。3人で一緒に飲も?」
「二人がそれで良ければ・・」
「樹さんもぜひ。一緒にお祝いしてもらえたら嬉しいです」
「じゃあ二人がそう言ってくれるなら」
「じゃあ今ワイングラス用意するね」
そしてワイングラスにワインを注ぐ。
「よし。じゃあ乾杯しよっか」
「あっ、透子。オレたちも一緒にお祝いしてもらわない?」
乾杯しようとした私に樹がそっと声をかけてくる。
「あっ・・。そだね」
「ん?透子ちゃんどしたの?」
「あのね。ハルくん」
「うん」
「あっ、透子。オレから言わせて」
「あっ、うん」
「この前透子さんにプロポーズさせてもらって。結婚したいって思ってます」
樹がハルくんの方にちゃんと向いて、きちんと伝えてくれる。
「うわっ!そうなんですね!透子ちゃんおめでとう!」
「ありがとう。ハルくん」
「そっか~よかったね~透子ちゃん。うん。でもなんか二人見た瞬間からそんな雰囲気出てたし」
「え?出てた!?」
「うん。多分あれが幸せオーラってやつかな。お互い想い合ってるんだな~っていうのが伝わって来てたよ」
「そうなんだ・・」
「よかった。透子ちゃん幸せそうで」
「うん。ハルくんにもちゃんと報告出来てよかった」
「そっか。じゃあ、その結婚のお祝いも一緒にだね!」
「なんかすごいね。たまたまなのに重なるって」
「じゃあ乾杯しよっか」
樹のその言葉で改めてグラスを持つ。
「よし。じゃあこれからのハルの活躍と、オレと透子のこれからの幸せと未来に」
「「「乾杯!!!」」」
それから3人で結局1本開けて、今日は3人でいるのが嬉しくて、それ以外のお酒もどんどん進んだ。
側に大切な二人がいてくれることを実感したくて、その時間を楽しみたくて。
今日は3人で飲むお酒が一段といつもより美味しくて、そしてその時間がとても楽しかった。
「透子ちゃん・・」
「透子。起きて」
そんな声がうっすら聞こえて、軽く身体も揺すられている。
「んっ・・・」
「透子。ようやく起きた」
えっ、私また寝ちゃってたの!?
「えっ、ごめん。また私酔い潰れた!?」
焦って目の前の二人に確認する。
「いや。今日は酔い潰れてたっていうか、途中で気持ち良さそうに寝始めたから、そのままそっとしておいた」
樹が優しく笑って状況を教えてくれる。
「ごめん・・」
「いや。大丈夫。ハルといろいろ話すことも出来たし」
「あっ、そうなんだ?」
「うん。透子ちゃん、オレも明日お店の仕込みあるから今日はもう帰るね」
「ハルくんもごめんね。せっかく来てくれたのに」
「うーうん。一緒に飲めて楽しかった」
「落ち着いたらまた来て」
「うん。また来るね」
「樹さん。姉のことどうぞよろしくお願いします」
「大切にします」
「ハルくん。気を付けてね」
「また」
そしてハルくんは明日があるからと帰って行った。