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#ファンタジー
芙月みひろ
94
設楽理沙
1,542
「…蒼眞は無事ですか?」
病院に着いてから、2時間半が経った。目覚めない蒼眞に幾つもの検査をしたが、抑えていた頭の脳にも、心臓にも異常はなく、血液やその他の検査もする予定だが、何か大きな病気をして倒れてしまった訳ではないとお医者さんは説明してくれた。
どうして、こうなってしまったんだろう。
貰ったばかりの鏡には、少しだけヒビが入っていた。
「…綾愛、もう帰ろう」
綾葉が、レオから事情を聴いて病院へ駆けつけてくれた。綾葉は、私の背中をさすりながら静かに隣にいてくれた。
「綾葉、私はどうすれば良かったの?」
目元に溜まった水は、今にでも出てしまいそうだ。
「少なくとも、綾愛のせいなんかじゃないよ。きっと、自分があの子に来てるトラックに気づいていればこうならなかったのかなとか、蒼眞くんの体調を気にかけてれば良かったかなとか思ってるんだよね?」
優しい声で、綾葉は私にそう言う。私は小さく頷き、綾葉の肩で沢山の涙を流した。
「今日、楽しかった?」
「…うん」
「そっか、よかった。じゃあ、帰ろうか」
私よりも一回り大きい、綺麗な手を差し出してくれる。小さい頃も、同じように手を何度も繋いだ。時が経っても、綾葉は私に沢山の愛を注いでくれる。変わらない愛がいつまでも続きますように、そう考えながら私は綾葉の手を強く握った。
「綾愛…!大変だったね」
家に帰ると、お母さんが私を強く抱きしめてくれる。
「蒼眞くん?だっけね、親御さんには私が説明するから綾愛は家でゆっくりしてなさいね」
お母さんは、急いで家を出て行った。病院にいる、蒼眞の両親に謝りに行くらしい。
「綾愛、別に悪くないからね。ただ、一緒にいたから、お母さんが事情をって聞かないの」
温かい紅茶が、目の前に置かれる。
「ごめんなさい、綾愛さん。僕のせいで、あの人は…」
「レオのせいなんかじゃないよ」
「え、この子レオって名前なの?」
「…私が勝手にあだ名つけただけだよ。紅茶、ありがとう」
そう言って、紅茶を持って私は部屋に向かった。少しボロボロになった本が、私の部屋に置かれている。これを読んで、思い出したんだろうな。
好きになった人は、私がレオに本を渡して思い出させたせいで、レオを助けて倒れてしまった。
レオの不注意が原因じゃない。元々は、私がレオにこの本を渡したこと、レオに曖昧な態度を取り続けたことが悪い。向き合ってこなかった、私が悪い。
「綾愛さん、入ってもいいですか」
だから、今こそ向き合うべきなんだと思う。
「うん、入って」
ゆっくりと開く私の部屋の扉は、ゆっくりと閉められた。
「全て思い出したんです。この本のおかげで」
「そっか、思い出せたんだね」
「…ずっと心の底にいる誰かと重ねていた。本を読んで、綾愛さんがフランの生まれ変わりだって気づいた頃には探しに外へ出てしまっていたんです」
少し小さめな、父の服はレオの大きな体の影響で伸びている。
「フランが死んだ日、僕は彼女のネックレスをアリスさんやフランの形見として身につけました。アイリスの花を1本摘んで、フランに持たせようとした時、物凄い勢いで風が吹いてきて、気づけばここにいました」
その目は、いつもよりも輝いている。まるで、私をお姫様と重ねて、お姫様を愛すような、そんな目だった。
「…私は、フラン姫の生まれ変わりなんかじゃないよ。それは、レオの勘違いだと思う。それに、本当にあるのかな、生まれ変わりなんて」
「僕、綾愛さんと約束した時に気づいたんです。その仕草も、瞳も、フランと同じだった」
「それだけでしょ、私は羽野綾愛だよ。フラン姫なんかじゃない。期待に応えられなくてごめんね」
悲しそうにするレオは、そうですかと呟いて私の部屋の隅へ移動してしまった。
「何してるの…?」
暗い私の部屋で、何をしているの。スマホのライトを彼にそっと当てた途端、胸元のネックレスが青く光出した。青く、綺麗な宝石。サファイアのネックレスの光が、私を襲う。
知っている、この光を。
___
『ねぇ、アリス!サファイアの宝石、どうして私に譲ってくれたの?』
『私の身に何かあったとしても私を思い出して欲しいなって思ったんです。フラン様の胸に、私はいつでもいますよと伝えたくて』
『…アリス、いなくなっちゃうの?』
『そんなことないです、仮の話ですよ。今から、綺麗な景色を見せましょう。これを見たら、眠ってください。お肌が荒れちゃいますよ』
白い服を来た女性は、月の光を遮断するためにカーテンを閉めて、部屋を暗くする。不思議な赤い光を、私の胸元にある青いネックレスに当てると、青い光が私の目を輝かせた。
『すごい、サファイアが光った!』
『不思議な光を当てると、光るんですよ。フラン様、私はあなたといられて幸せです。本当のあなたの笑顔で、今度はあなた自身を幸せにしてくださいね』
___
「…どういうこと?」
「何がですか」
拗ねた口調で、レオは私にそう返す。
「私には無い経験が、私の記憶の隅にあるみたいで…」
怖くなって、私は本を本棚に入れようとした。全てはこれから始まったから、これを私の視界から消せばいい。持った途端、アイリスの花の匂いがする。
突然、目の前が真っ白になり、言葉も発せない。
「綾愛さん…?!大丈夫ですか?」
___
『離して…!!!!!!』
『馬鹿ね、あんたも。男に溺れて、その男が目の前で殺されるなんて』
自分の目線なのに、私の思考とは関係なく自然と発せられる言葉。まるで私が夢に支配されているような感じがした。
化粧の濃い、30代くらいの女性は鬼の形相で私を見ている。
『馬鹿なんかじゃない。どうしていい人ほど死んでいくの?』
『いい人?あのメイドがいい人なわけないでしょ?人様の娘を、使いのくせに連れ出して』
徐々に近づいてくる高貴な女性は、私の頭を思い切り掴む。夢なのに、痛い、痛みを感じる。けど、本当に痛いのは頭じゃないような気がする。
『…私の父だっていい人だったわ。それに昔のお母様も。昔のお母様に戻ってよ、どこに行っちゃったの?』
奥には、傷だらけで血に染まったレオがいた。苦しそうな顔で、眠っている。
『レオを解放して…!!』
『そんな望み、叶えられるわけないじゃない。あの男は、大事な私の娘を奪ったのよ。さぁ、早く殺しなさい』
高貴な女性は、近くにいる傭兵にそう伝え、多くの武器がレオに構えられる。
『…私が殺す』
『はぁ?あなたが?無理でしょ』
『他人に愛する人を殺されるくらいなら、私が殺したいの。ねぇ、いいでしょ?』
私は、偽物の笑みを作っているような感覚がした。心の底から、笑っていない感覚。高貴な女性は、ニヤリと笑って私に大きな剣を持たせた。
『やると言うなら、やりなさい。お前の手で』
その剣を持つ、小さくて白い手が震えている。剣に反射したその顔は歪んでいたけれど、あの肖像画よりもずっと美しかった。レオの目の前に来た私は、こう言った。
『あの約束、それはレオと来世でも結ばれることだよ』
以前見たあの夢は、レオとの記憶だった。
もし、この夢が私の記憶の1部なら私は本当に生まれ変わりなのかもしれない。前世の記憶など、持ち合わせること自体がおかしい。けれど、これは何か私に暗示しているのかも。フラン姫の思いが、私を動かしているのかもしれない。
目を開いたレオは、小さく微笑んでいる。
『貴方に出逢えて、よかった』
私はこの物語の結末を知っている。
そう言って私は、自分の腹部に思い切り剣を刺した。小さなその手で、弱い力で、精一杯剣を押し込んだ。味わったことの無い痛みが走る。力は抜け、硬いコンクリートの上に倒れる。意識が朦朧として、レオの顔などほとんど見えない。
けど彼の温かい手と、落ちてくる沢山の雫だけは感じられた。
気づけば外に出ていて、そこは沢山のアイリスの花が咲いている場所だと思う。だって、香りがするから。
『ごめん、守れなくて、ごめん。どうして、どうしてフランが死ぬんだよ』
途切れ途切れの意識の中、頑張って口を開く。
『貴方のいない世界が嫌なの。貴方には、生きて欲しい』
『置いていかないでよ、そんなの…勝手じゃないか』
『レオに助けられなきゃ、私はもうとっくに死んでいたのよ。こういう、運命だったの』
もう、痛みは感じない。レオの顔もはっきり見えた。くしゃくしゃに歪んだ、涙を流しているそんな顔が。私の、フラン姫の声は掠れている。けど、ひたすら彼女は伝えたいことを絞り出しているようだ。
『ねぇ、約束叶えてね。今度こそは、私をお姫様にしてよね』
『…もちろんだよ。絶対、フランをお姫様にするさ』
『待っているからね』
瞼が、自然と下がってくる。もう、フラン姫に残された時間は少ないのだろう。
ほとんど動かない手を、頑張って動かす。小指を差し出し、最後にこう言った。
『私の、美しい運命の人』
___
目を覚ますと、涙を流していた。ベッドの上に置かれた私の手を握るレオの手は、温かい。
「…本当に、私はフラン姫の生まれ変わりなの?」
私を見つめるその瞳は、夢そのものだった。
「フランを愛している僕が言うんですから、綾愛さんはフランの生まれ変わりですよ」
私は、どうするべきなんだろう。そう考えていると、レオの握る手が強くなった。
「向こうに帰っても、フランはいない。帰り方すら分からない。フランのいない世界にいるなら、生まれ変わりの綾愛さんと生涯過ごしたいと思っているんです」
真っ暗な部屋で、ただ彼の青い瞳だけが輝いている。眩しくて、苦しい。
「だから、この世で僕と一緒に過ごしてくれませんか。勝手なことは…分かっているんです」
握られた手を、私は解く。
「…私、好きな人がいるの。
それに、私はフラン姫の代わりになんてなれないよ。フラン姫は、1人だけだから」
「そうです、よね」
「だから、会いに行ってあげて。戻って、彼女の好きな花を咲かすの、沢山。それが、今のレオにできること」
どこの国だったのか、何故言語が通じるのか、私には分からない。謎ばかりだけど、私はここにいるよりかは戻って、彼女を思い続けて欲しかった。
「その代わり、生まれ変わりの私と沢山思い出を作りませんか?…例えば、この間約束した炎とか。夕日のこと、だよね?」
レオは、嬉しそうに笑う。太陽のような笑顔を私に向けるの。見覚えがあって、懐かしい。まだあまり信じられないけど、あの夢こそが証明だった。
「フランとしたかったこと、付き合ってください」
「もちろんだよ」
小指を絡めて、私たちは約束した。部屋に残ったレオの匂い、アイリスの匂いが私を悲しくさせる。
私が本当にフラン姫の生まれ変わりだとしたら、どうして前世愛したレオを愛すことができないんだろう。
会いたい。話したい。早く目覚めてよ。
少し開いた窓から吹く風が、私の胸を締め付けた。
コメント
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うわあああ第8話もエモすぎて涙腺崩壊した😭💕💕 綾愛が「フラン姫の代わりになれない」って言いながらも、レオと小指絡めて約束するシーン、美しすぎて胸がギュッてなったよ…! でもやっぱり綾愛の心には蒼眞がいるんだよね…「早く目覚めてよ」のとこ、切なすぎて何度も読み返した📖💙 レオの「生涯過ごしたい」も重くて苦しいくらい伝わってきた…!続きが気になって夜しか眠れないよ〜!!