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遥の声は、雨音に紛れてしまいそうなくらい小さかった。
私は、自分が何を言ったのかを改めて考えて、急に顔が熱くなるのを感じた。
「……変な意味じゃないよ! ただ、ほら、一生懸命なのはいいことだなって思っただけで……」
「わかってるよ。お前が何も考えてないことくらい」
雨脚が少しずつ弱まり、空の端がうっすらとオレンジ色に染まり始めた。
遥は立ち上がると、膝についた砂を払い、自分の着ていたジャージの上着を脱いだ。
「ほら。被ってろ」
「えっ、ちょ、ちょっと……!」
返事をする間もなく、頭からバサッとジャージが被せられる。
視界が真っ暗になって、鼻先には遥の、運動したあとの熱っぽい匂いと、少しだけ洗剤の混じった独特の香りが広がった。
「お前、さっきからクシャミしてんだろ。風邪ひいて、明日ノートの記録が適当になったら困るんだよ」
「……そんな理由?」
「それ以外に何があんだよ」
ジャージの裾から顔を出すと、遥はすでに歩き出していた。
夕日に照らされた彼の背中は、少しだけ濡れて光っていて、いつもより大きく見える。
私は彼の上着の袖をぎゅっと握りしめて、その後を追った。
凌先輩に優しくされた時とは違う、胸の奥がチリチリとするような、落ち着かない感覚。
「……遥、歩くの早い!」
「お前が遅いんだよ。……風ひくなよ、マジで」
ぶっきらぼうな背中に向かって、私は「ありがと」と、雨上がりの空に溶けるような小さな声で呟いた。