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昨日の夜、私は何度も遥のジャージにアイロンをかけた。
薄手の生地を傷めないように、あて布をして慎重に。
アイロンの熱でふわりと立ち上がる柔軟剤の香りを嗅ぎながら、昨日の雨の中のやり取りを思い出して、一人で赤くなってしまったりして。
翌朝、校門の前。私は丁寧に畳んで紙袋に入れたジャージを抱え、遥を探した。
「あ、遥! おはよう」
「……ん。おはよ」
遥は眠そうに目をこすりながら歩いていたが、私の手にある紙袋を見ると、一瞬だけ視線を泳がせた。
「これ、昨日はありがとう。助かっちゃった」
「……おう。別に、ただの貸しだからな」
相変わらず素っ気ない。でも、袋を受け取るときに指先がほんの少しだけ触れて、私は慌てて手を引っ込めた。
「おはよ、二人とも。今日は早いね」
後ろから声をかけてきたのは、凌先輩だった。
先輩はいつもの爽やかな笑顔で私たちの間に並ぶと、遥が持っている紙袋に目を留めた。
「あ、それ……僕たちの部のジャージ? 遥、もう自分の届いたの?」
「……いや、これは」
遥が言葉に詰まる。
私が説明しようと口を開きかけたその時、凌先輩が少しだけ目を細めて、私の顔をじっと見つめた。
「紗南ちゃん、柔軟剤変えた? なんだか……遥から、紗南ちゃんと同じ匂いがするんだけど」
心臓がドキンと跳ねた。
凌先輩の視線は優しくて、でもどこか心の奥を見透かされているような、不思議な圧迫感があった。