もしここに果穂ちゃんがいたら、慧君と話すだけで睨まれていたかも知れない。
ううん、絶対、睨まれてた。
果穂ちゃんの想い……真剣だし、真っ直ぐだし、本物だもん。
慧君のこと本気で大好きだから……
とにかく――
イベントの成功でさらに『杏』のみんなの絆は深まり、一緒にいられる楽しいこの時間は、私の心の癒しとなった。
解散してマンションに帰ったのは、夜中を少し回った頃だった。
「盛り上がり過ぎちゃった。ずいぶん遅くなったな……早く寝よ」
私は急いでシャワーを浴び、準備をさっさとしてベッドに入った。
だけど、イベントのことが次から次へといろいろよみがえってきて、何だか全然寝つけない。
寝返りを打つ。
右に、左に……
それでもやっぱり眠れなかった。
ふと、希良君の顔が浮かぶ。
体……大丈夫かな?
『百貨店には行けないかも知れないけど頑張って、応援してるから』って、1度だけメールがあったけど……
実はゴールデンウィーク中ずっと酷い風邪をひいてしまってたらしく、ご実家に戻ってたって。
『行きたくてもイベントには顔を出せなかったんだ、雫ちゃんに会いたかったのに残念だった。ごめんね』って、全てが終わってから改めてメールをくれた。
もしイベント中に風邪をひいてしまったって言ったら、私に余計な心配をかけてしまうと思ったんだろう。
希良君らしいよ、本当に。
いつだって、誰にでも優しい気遣いができる素敵な人だから。
今はすっかり元気になって、大学に行ってるみたいで本当に良かった。
それから、祐誠さん……
イベント中には会えなかったけど、ようやく明日、日本に帰ってくるって、前田さんが教えてくれた。
その後すぐに、忙しい合間をぬって『帰るから』って祐誠さんもメールをくれて。
契約が無事に済んでホッとしてるだろうな。
海外でのアパレル事業はかなり大きな仕事だと聞いたけど……
やっぱり、祐誠さんはすごいよ。
まるで想像もできない世界で生きてる。
日本での百貨店経営だって、北海道から九州まで大都市に6店舗もあって、それだけでも大変だと思うのに、他にもいろんな事業を展開して。
頭がパニックにならないのかな?
祐誠さんの思考回路は、きっと私みたいな凡人には理解できないくらい、とてつもなく複雑に動いているんだろう。
立派に手腕を発揮して、前田さん始め、みんなに信頼されてる。
もちろん、それゆえの苦悩も人一倍あるかも知れないけど、それでもあの人は……
ずっと、ひたすら会社のために頑張ってきた。
そして、今も走り続けてる。
誰よりも、全速力で。
ゴールデンウィーク中の出来事や、たくさんの人々との思い出を胸に……
いつしか私は……ベッドに沈むように深い深い眠りについてしまってた。
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