コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの日以降、会長の刺々しい言葉を、最近あまり聞かなくなった。
毎日1回以上は聞いている注意の言葉も、廊下を眺めても歩いても、何も聞こえない。
あの時の私の言葉が、会長を傷付けたんだろうか?けれど、今までだってそういった声は、会長の耳に届いていた筈だ。今更傷付くなんておかしな話だろう。
それと、最近会長に対しての愚痴を聞かなくなった。
学校内はもちろん、学校外で生徒と会えば会長のことを愚痴っていると言っても過言ではないはずなのに。
それくらい嫌われていたはずなのに。
最近は見なくなって興味も薄れてきたけれど、また誰かに注意して嫌われる会長が見れるかと思い、昼休みの廊下を見つめる。久しぶりに。
「………は?」
会長が通った。
確かに通った。久々に見た。
だけど、いつもとは違った。
泣きながらだった。
涙を必死に右手で拭いて、頬を擦って。
苦しそうな、辛そうな表情で涙を流して、左手でお腹を抑えて。
いつもなら自分自身が注意するようなことなのに、廊下を走って。
誰もそれを気にしない。いつも通り話しているだけだった。笑顔で、元気な声で、みんな話している。
どうして誰も気にしないの?気づいていないの?気づいているのに言わないの?
私は今きっと、驚きを隠せていない。きっと、顔に出ているだろう。
我に返った私は、誰かに見られていないかと思い、当たりを見渡す。元気な声で話しているが、席に座りながらだった。
1番見られている可能性がある思音の方へ向くと、心配そうな顔をした思音がこっちを見ていた。
私は安心させるために口パクで、大丈夫、とだけ言って笑顔を見せた。
思音はまだ心配そうな顔をしていたが、しばらくしてから前へ向き直った。
先生が教室へ入ってきてからすぐに授業開始のチャイムが鳴り、号令がかかった。
「お前、大丈夫なん?」
いつも通り私の机に来て、思音は眉間に皺を寄せ言った。
「まぁ…気になることは少しあったけどさ?」
「何?また会長のこと?」
「…ねぇ思音」
「?」
私が思音みたいに眉間に皺を寄せて考えていると、思音は淡々とした顔になり、聞いてきた。そんな思音に、気になることを聞いてみた。
「先輩…会長ってどうしたの?最近。注意とか全然見なくなったし、みんなだって会長のこと愚痴らないじゃん」
興味が薄れて久々に見た廊下であんな場面を見れば興味も引き戻されるだろう。あんなに泣かなかった会長が、あんなに校舎内を走ってはいけないと釘を刺していた会長が、泣きながら廊下を走っていたんだから。
「えー……お前あれだけ会長の事見てて知らないの?噂のこと」
「何、みんな知ってんの?」
「先生以外はほとんどが知ってるぜ」
「何?それ」
「え、マジで知らないんだけど…」
「勿体ぶってないで早く言えよ」
私が会長の噂とやらを知らないことに対して、思音は驚いた様子で勿体ぶってきた。それに少し腹が立って荒々しい口調になってしまった。
そして思音はなんともないような顔で言った。
「いやさ、会長が無理矢理犯されたって話」
「………は?」
きっと誰かがこれを聞いたら普通、犯罪だとか思うだろう。まぁ、私も思わなかった訳では無いが、レイプは犯罪だとか、そういうのよりも、あの会長が?と思ってしまった。
だって品行方正を心がける、アニメの中にしか居ないような生徒会室だから。そういった行為は子孫繁栄のためだけだとお叱りを受けそうだし、恋愛なんてもってのほかだ。必要ないと感じていそうな人物だ。
「…放課後って生徒会室に居るよね絶対」
「あの人くそ真面目だからな」
「……確かめてくる」
「は?」
思音は私の言葉を聞くと、さっきの私みたいな声を出した。
思音がこんな声を出すのも理解出来る。
だって、私は会長と全然面識がないのだから。
前みたいに少し注意を受けることはあるが、今の私と思音みたいに雑談や仕事のことを話すことはない。
なのにこんな急に確かめてくると言われても、驚くに決まっているだろう。
「だって気になるじゃん。会長があんなに弱ってる原因、本当にそれなのか」
「だからってなあ……まぁ、お前がいいならいいんじゃねぇの?」
呆れた顔をした思音だったけれど、そう言って微笑んだ。
「放課後すぐ行く?」
「…そうしよっかな」
そういって次の授業のチャイムが鳴り、教室の中の生徒が自分の席へ戻って行った。
「失礼しま……」
そう言って生徒会室の扉を開けようとした時、3人の男子生徒がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら走って出ていった。
生徒会室の中を見てみると、服を着ていないが、ワイシャツとスカートで秘部と胸元を隠している状態の、魂が抜けたように呆然としている会長があひる座りで座っていた。
「…追いかけないんですか」
座ってる会長は見ずに、男子生徒たちが走っていった方向を見る。曲がり角で曲がったのか、もう男子生徒たちは見えなかった。
我に返ったようにこちらを見て、すぐに服を着る会長。
「慌てなくていいですから、ドア閉めときますんで」
私は生徒会室を出て、扉を閉めてから横に移動してなんとなく歌を口ずさんだ。思音からおすすめされた曲で、最近流行り始めたらしい。私はSNSなどをあまり見ないので、全く聞いたことがなく、知ってる曲だからという理由だけで鼻歌を歌っている。
「…すみません、お待たせしました」
そう言って生徒会室の扉を開け、私の方を申し訳なさそうに見てくる会長。
襟や袖はしっかりとボタンで留めているはずなのに、隙間からキスマークや歯型などが見える。
そんな首や額には、たくさんの汗が流れ、床に滴っている。
「とりあえず座ってください…」
終始虚ろな目をしながらそう案内する会長の指示に私は珍しく従い、生徒会室にある椅子に座った。
会長は後ろで扉を閉めた。