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「If we were not met」
⚠ 冬×彰 司×類 のCP要素あり
(冬彰or彰冬 司類or類司 好きな方で解釈できるように書きました)
⚠ 騎士パロ
(もしもの世界線の話なので本編とは一切関係ありません)
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「アキト」
ああ、トウヤ様の声が聞こえる。トウヤ様の低くて、穏やかで、とても安心する声。
・・・
「アキト、おかえり」
俺が戦地から帰って来た時、トウヤ様はいつも俺に「おかえり」と言ってくれる。その度に嬉しくなって、トウヤ様のことがもっと愛おしくなって、まだトウヤ様のお側に居たいと、生きていたいと思えるんだ。
「ただいま帰りました、トウヤ様」
「アキト、怪我は大した事ないのだろうか⋯」
俺が戦地から帰ってくる度、『怪我は大した事ないのか』と、心配してくださる。その度に、俺はトウヤ様に愛されているのだと感じる。トウヤ様の元へ仕えて、一緒に過ごしている時間に比例して、生きてて良かった、と思えるようになった。
・・・
「そこに誰かいるのか」
トウヤ様は、小さい頃から自分で国の4割の経済や活動を回していた。時には自分の城を部下に任せ、遠出をしてここ一帯の村全てを見回りしてくださっていた時もあったようだ。その時に、すごく小さな村の中にあった、もう崩れそうな小屋の中にいる、俺と姉のエナのことを見つけてくださったのだ。俺たちはトウヤ様の一族がとても嫌いだった。何せ、俺たちの住んでいた大好きだった村を壊してしまったのだから。
「二人とも、名前を教えてくれないか」
「⋯⋯アキトです」
「⋯エナ」
でもそれはトウヤ様の一族の先代の行い。トウヤ様は、民のことを誰よりも考えてくださっていたんだ。トウヤ様は優しい目でこちらを見て、手を差し伸べて俺たちにこう言ってくださった。
「俺と一緒に来てくれ、アキト、エナ」
もしもこの時、俺たちがトウヤ様と巡り会えていなかったら、俺たちはその小屋で二人寂しく、息を引き取っていただろう。トウヤ様の綺麗な白色の瞳に濁りはなく、綺麗な眼差しで俺たちを見てくれていた。まるで、心の中のモヤが晴れていくような心地さえした。もう、俺たちの中の迷いなど無くなってトウヤ様の暖かくて柔らかい手をとっていた。
・・・
「アキト⋯!」
不意に目が覚める。ああ、そうだ、ここは戦場だったことをすっかり忘れていた。俺は敵の攻撃をモロに食らってしまい、少しばかり気を失ってしまっていたようだ。団長のくせに、情けないと思う。俺に声をかけてくれていたのは、『テンマ軍』のリーダーである、ツカサ団長だった。敵の気がこちらに引かれないようにツカサ団長が、俺に静かにハッキリとこう言う。
「お前だけは何としても守らねばいかん」
ツカサ団長が俺にこう言うものだから、俺はおかしくなった。なぜ騎士がこんなにいるのに、俺のことを、俺一人のことを守り抜こうとするのか 、死ぬ覚悟はできているというのに。
「⋯なぜですか」
「⋯⋯トウヤ様が、お前の話をする時、とても楽しそうにされるんだ」
ツカサ団長は、いつも自分は二の次で一番に考えるのは他人のことだ。ツカサ団長はいつでも曇りの無い瞳で真っ直ぐに前を見ている。だから、カッコイイと思うし、 いつでも迷いのないツカサ団長はヒーローのようだ。 それが、すごくトウヤ様に似ている。だからこの人にはついて行きたいと思える。本当にすごい人だと思う。ありがとうございます、ツカサ団長。
「俺、まだ戦えます⋯!」
「必ず、生きて帰るぞ、アキト!」
ツカサ団長のおかげだ、俺に生きる気力が湧いてきた。また、三軍のみんなが揃って、トウヤ様の所に帰るために。俺の手はもう震えていない。心の中にかかっていた霧が一気に晴れていく。しっかりと剣を握りしめて、二つの脚でしっかりと立つ。俺の中にもう、迷いなどはない。
「はい、ツカサ団長!」
生きて帰ろう。大好きなトウヤ様の元へ。そしてもう一度、トウヤ様の「おかえり」を聞こう。必ず、トウヤ様の元へ生きて帰ると、強く心に刻んだ。
・・・
「はぁ」
今、「テンマ軍」「シノノメ軍」「アキヤマ軍」の三軍は戦場にいる。今回はかなり手強い敵軍だ。俺とツカサさんで考えた布陣なら、大丈夫だと思いたい。アキトが戦地へ行ってしまう度に、アキトのことを心配してしまう。アキトたちを待っている間は、とても胸が苦しい。
「トウヤ様、どうしたのですか」
ルイさんが俺の方を見てそう言った。ルイさんは諸侯であり、「テンマ軍」をまとめて下さっている。俺の士気は「テンマ軍」にあると言っても過言では無いので国王のくせして頭が上がらない。ルイさんには、本当に日頃から感謝をしている。
「アキトのことが、心配で堪らないんです」
俺とアキトは恋人同士である。この事実はルイさんだけが知っている。世間に、国王と騎士がお付き合いしていると知れたらどう思うだろう。きっと失望される。階級がこんなにも離れているのだから、きっと俺もナメられてしまうだろう。そうやって、民度が下がってしまうのは許せない。
「またですか」
「アキトが戦地へ行く度に、心配になってしまって」
我ながら情けないと思っていた。アキトだって死ぬ覚悟で俺の側へ居るし、戦場へ行っている。それを俺の身勝手で引き止めることは出来ない。アキトがそうしたいと言ったことだから。それでも本当は行って欲しくない、そう考えてしまう自分をいつも嫌ってしまう。また溜息をつくと、ルイさんが、こう言った。
「⋯でも僕も、分かりますよ」
「⋯えっ」
ルイさんが不意に驚きの事実を俺に話してくれた。ルイさんとツカサさんもお付き合いしているそうだ。ツカサさんはアキトと同じ団長であり、ルイさんより下の騎士にあたる立ち位置だ。俺と、一緒だった。
「でも、ツカサくんも、死ぬ覚悟はできていますから」
「帰って来るか、心配になってしまうんですよね」
でも、ルイさんも俺も、三軍が無事に帰ってくることを祈っている。もう一度、アキトに「おかえり」と言いたい。ルイさんもきっと同じことを思っている。すると、城の扉が開く音がした。直ぐにルイさんと共に階段を駆け下りた。アキトは、無事なんだろうか。三軍のみんながちゃんと生きて帰ってきてくれているだろうか。もう一人の諸侯である『アキヤマ軍』をまとめて下さっているエナさんは、もうすでに扉の前に立っていた。扉の方を見ると、あの見慣れたオレンジ色でフワフワした頭も、キラキラしていていつでも眩しい黄色の頭も、少しカーブがかかったピンク色の鮮やかな頭も、何もかもが目の中に入って来た。ああよかった。みんなちゃんと無事に生きている。
「おかえり、アキト」
「ただいま帰りました、トウヤ様」
END