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## 第43話:『漆黒の機体、再戦』
メトロポリスの中央議事堂前、静寂に包まれていた廃都市の空気が、一瞬にして爆発的な熱量によって引き裂かれた。
赤く不気味なモノアイを発光させた「漆黒のガンダム」が、背部から禍々しい形状のビーム・ランサーを抜き放ち、地表を削りながらヴィヴァーチェへと突進してくる。その速度、そして迷いのない直線的な足捌きは、かつてこの街でゼロが遭遇したあの不気味な暴走の残像を、まざまざと想起させるものだった。
「来るわよ、ゼロ!」
「あぁ、分かってる! こいつ、前に俺がここで戦った時の残骸とは――乗ってる奴のツラが違う!」
ゴツゴツとした計器類がひしめく、やけに暗く窮屈なヴィヴァーチェのコクピット。セレスのすぐ後ろに密着したゼロの視界に、敵機の突き出す鋭利なビームの光が迫る。
一人乗りの狭い空間。しかし今、二人の感覚は、互いの肌に触れる体温と呼吸を通じて、驚異的な深度でシンクロし始めていた。
「セレス、レバーを右に叩け! あいつ、ランサーを突き出した後に、左のシールド・クローでこっちの姿勢を崩しにくる!」
「――了解!」
ゼロの叫びと同時に、セレスが寸分の迷いもなくメインレバーを操作する。
マゼンタの機体が、まるで最初から敵の攻撃を予期していたかのように、最小限のロール機動で突きを紙一重で回避。直後、敵機が左腕のクローを力任せに振り抜いたが、その爪はヴィヴァーチェの残像を虚しく切り裂くだけに終わった。
「当たらない……!? この私の予測機動を、完全に先読みしているというのか」
通信回線に混じる、氷のように冷徹な男の声。ノアの持っていた狂気とはまた異なる、機械のように冷え切ったルカス軍のベテランパイロットの気配だった。
『前のパイロットは、ゼロ・システムに呑まれたただの操縦人形だったようだが……。フン、今回は違うな。だが、ガンダムの出来損ないが二機集まったところで、この私の機体を越えられると思うな!』
漆黒の機体は即座にスラスターを逆噴射し、凄まじい制動能力で反転。今度はヴィヴァーチェの死角である上方から、ビーム・ランサーを容赦なく叩きつけてくる。重力に逆らうようなその挙動は、中々に手強い。ルカス軍がこのメトロポリスの遺産を確実に回収するために送り込んできた、真のエースの技量だった。
「クソッ、速ぇ……! セレス、次は上だ! ハサミで受け止めるな、衝撃でコクピットが潰される!」
「分かってる……! でも、逃げ場が――」
絶体絶命の風圧がマゼンタの装甲を揺らした瞬間、漆黒の機体の足元から、突如として赤黒い閃光が噴き出した。
ドガァァァン!!
『おいおい、俺の存在を忘れてもらっちゃ困るって、さっきも言ったはずだぜ!』
虚空から姿を現したのは、ジュードのシャドウエッジだった。光学迷彩を解除しながら、実体剣『エッジブレイカー』を敵の背部スラスターへと突き立てる。しかし、敵のパイロットも超一流だった。寸前で殺気を察知し、身を翻してジュードの刃を盾の装甲で受け止める。
キィィィィン!!
金属と金属が激しくぶつかり合い、火花が暗いメトロポリスの街並みを照らす。
『チッ……小癄な真似を!』
漆黒の機体は、盾に突き刺さったエッジブレイカーを強引に掴むと、そのままシャドウエッジの機体をビル壁へと投げ飛ばした。さらに、間髪入れずにランサーからの高出力ビームをジュードへと放つ。
「ジュード!!」
セレスが叫ぶ。シャドウエッジは辛うじて直撃を免れたものの、左肩の装甲と光学迷彩の発生器が激しく焼き切れ、大きな損傷を負って火花を吹き上げた。
『ぐっ……! 悪いセレス、新入り……! カムフラージュの回路が逝っちまった! だが、隙は作ったぜ!』
「――ゼロ!!」
「おう! あいつの次の硬直は1.2秒! セレス、最大出力でぶち抜くぞ!!」
狭いコクピットの中で、二人の意識が完全に一つに重なる。
セレスがレバーを押し込み、ゼロがコンソールの補助トリガーを同時に引いた。
ヴィヴァーチェの両腕を構成する巨大なビーム・サイズが、大出力を得てマゼンタの光の刃へと膨れ上がる。完璧なシンクロによって生み出された神速の一撃が、漆黒のガンダムの胸元を正確に捉えた。
ザシュゥゥゥッ!!
『何ぃ……!? この私が、押し負けるだと……!?』
胸部装甲を深く切り裂かれ、内部のジェネレーターから激しい放電を起こした漆黒の機体が、たまらず後方へと大きく吹き飛んだ。機体のバランスを失い、警告アラートを響かせる敵機。
『……これ以上の戦闘は、機体の喪失に繋がるか。レフトの残党どもめ、今日のところは引いてやる。だが、世界調律の灯火は消えん……!』
冷徹な声を残し、漆黒のガンダムは猛烈な黒煙を上げながら、メトロポリスの霧の向こうへと撤退していった。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「やった、のか……?」
敵の熱源が完全に消失したのを確認し、ゼロとセレスは同時に深い溜め息を漏らした。互いの心臓の鼓動が、密着した背中を通じて伝わってくる。手強い相手だった。シャドウエッジの援護と、二人の完璧なシンクロがなければ、どちらが倒れていてもおかしくない戦いだった。
『痛たた……。悪い、二人とも。シャドウエッジの左腕と隠蔽システム、かなり深くやられちまった。これ以上の戦闘は無理だぜ』
ジュードの苦しげな通信が入る。機体には痛々しい損傷が残っていた。
「ジュード、無理をさせてごめんなさい。……でも、おかげで助かったわ。あなたはそこで機体の警戒を。私とゼロで、地下シェルターへ入る」
「あぁ。ジジイの言ってた『超高密度マルチリンク・コンデンサ』、意地でも見つけて帰るぜ」
ヴィヴァーチェは損傷したシャドウエッジを議事堂の影に待機させ、崩落した地下への大穴へとゆっくりと機体を進めた。
街の地下に広がる隔離シェルターは、大戦時の暗闇がそのまま凍りついたような場所だった。冷たい空気の中を、ヴィヴァーチェのサーチライトの光だけが静かに進んでいく。
ゼロは、狭いコクピットの中で前方の暗闇を見つめながら、自分の両手を見た。
かつてここで暴走し、恐怖しか生み出さなかったゼロ・システム。だが今、自分はセレスの隣で、仲間を守るためにゼロシステムで得た力のようなものを使い、こうして生き残っている。
「……セレス、ありがとよ」
「急に何よ、気持ち悪いわね」
「へっ、素直に感謝してやってんのに。……さあ、サッサとお宝を見つけて、ガドルフのじいさんの所に帰ろうじゃねえか。俺たちの、新しい翼を作るためにな」
暗い地下シェルターの奥深く、ライトの光が、旧大戦時の厳重な隔壁を照らし出そうとしていた。
**次回予告**
メトロポリスの地下最深部で、ゼロとセレスを待っていたのは、旧大戦の亡霊たち。
眠りから目覚めた自動防衛システムが、容赦なく二人に牙を剥く!
「くそっ、こんな狭い地下じゃ、ヴィヴァーチェの機動力が活かせねえ!」
ボロボロの体で二人を信じて待つジュード。そして、工房で祈るミラとノア。
全ての想いを背負い、ゼロが暗闇の中で掴み取る『ディバイダー』の核心パーツとは!?
次回、『新たなるコア』
**「じいさん、パーツは持ってきたぜ! 俺たちの新しい翼を、今すぐ形にしてくれ!!」**
桜春遥朔🌸
52
来華
457
ポンデリング
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コメント
1件
いやあ、熱かったですね! 第43話、もう冒頭から息を呑みました。漆黒のガンダムとの再戦、前回の暴走した残骸とは明らかに格が違うパイロットの冷徹さが怖い。そんな強敵を相手に、セレスとゼロのシンクロがここまで完成度を高めているのに胸が熱くなりました。狭いコクピットで体温と呼吸を伝い合う二人の描写が、すごく良いんですよね。ゼロの「ありがとよ」も、素直になれない感じがらしくて微笑ましかった。 ジュードには本当に助けられたし、彼の機体が被弾したのは痛いけど、仲間を信じて託す姿がかっこよかった。次回は地下シェルターの本番、自動防衛システムとの戦い。楽しみです!