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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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乾視点
猫宮みたいだけど猫宮じゃない…目が覚めるとそんなおにーさんの隣で寝ていた。
当たり前だけど驚いたのは俺だけじゃない。
向こうの方が死にそうなくらいにびっくりした顔をしていた。
猫宮そっくりだけどあいつより大人びた顔が動揺する様がおもしろくて、意外と俺の脳は早いうちにクリアになった。
小脇に担がれ、どこかに連れて行かれる。
…なに、読モやってる俺のファン?このまま拉致られる?なんて一瞬思ったけど、この人の様子からじゃそんなわけないよな。
連れて行かれた別のマンションの一室のリビングには、俺と同じくらい派手なピンク色の髪の男がいた。
そしてそのすぐ近くのソファには、座っているもう一つの影。
「猫宮!」
「無人…っ!?」
お兄さんが俺から手を離した隙に、そちらに駆け寄った。
ソファの隣に飛び込みながら、そのまま猫宮に抱きつこうとする。
だけどあいつは、その手前でぐいと俺を押しのけるようにしてハグを防いだ。
…ちっ、今ならどさくさに紛れていけるかと思ったのに。
「なぁ、これ何? どういうこと? 猫宮はどうやってここに来たの?」
突拍子もない事態には変わりないけれど、こいつもここにいるなら心強い。
だけどそう尋ねた俺に答えたのは、目の前の猫宮じゃなかった。
「…あー…ちょっといい?」
さっき存在を無視して横をすり抜けてしまった、ピンク色の髪の男。
振り返って見上げたその顔は困ったように眉を下げていて、面立ちが自分にそっくりだと思った。
「ってわけで…君らは俺たちが創り出した存在なんだと思うんだよね。で、何らかの力で現実と虚構の世界が交わってしまった…そんな感じ?」
ないこ、と名乗った男は俺より10歳ほど年上の美形だった。
身長も体型もそれほど変わらないのに、雰囲気と佇まいは俺よりも大人っぽい。
そんな彼はそう説明をまとめたかと思うと、すぐに「…いや…」と訂正するように自分で言葉を継いだ。
「『虚構』は失礼か。君らにとったらそっちの世界の方が本物で現実なんだもんな」
そう言い直してにこりと微笑む。
……恐ろしく頭の柔らかい人だと思った。
こんな時に主観ではなく、相手の立場に寄り添うような客観的見方ができるのか。
…大人になるってそういうことなんだろうか。
あと10も年をとれば自分が同じことをできるのかと想像してみるけれど……答えはよく分からなかった。
「そうだけど、でも実際のところここが俺らのいるはずの世界じゃないのは事実なんだよね。じゃあどうしたら戻れるんだろう? ここどこ? 東京?」
ソファに座って相手を見上げたまま、俺はそう問う。
「そうだね」とピンク色の髪を揺らして彼が頷いて返した。
…ふぅん、地名に差はないらしい。
そして壁にかかっているカレンダーにも、俺らがいた世界とは1日もずれがない。
「戻り方ねぇ…何が原因か分かんないからなんとも言えないよなぁ…」
ないこさんがそう呟き返したとき、俺のオーバーサイズパーカーのポケットに入れていたスマホがぶるりと震えた。
…こっちの世界でもこの小さな機械は有効なのか。
「すみません」と断って取り出すと、隣で猫宮も同じようにスマホを手にした。
どうやらあっちにも何か通知が届いたらしい。
ロックを解除して開いたスマホの画面には、一件のメッセージ。
首を捻りながら開いた瞬間、俺は思わず「ひっ」と声を上げてしまった。
送信者の欄には、意味なんてないだろう気味が悪い長い文字列。
恐らく送信元を偽造しているのだろう。
俺の隣で猫宮も同じように眉を寄せる。
隣から覗くと、どうも同じ相手から同じメッセージが届いたようだった。
「……なんだこれ…」
「……」
思わず息を飲んだ俺と、無言のままため息をついた猫宮。
そんな俺らの様子を眺めていたないこさんは、「ちょっといい?」と横に回ってきて画面を覗き込んだ。
そして声を出して音読する。
「なになに…『元の世界への戻り方。相手を交換してキスすること』……はぁ?」
首を捻り呆れた顔をしながら、ないこさんは自分の後ろを振り返った。
俺をここまで担いできて以降、ずっと立ち尽くしている猫宮そっくりなお兄さんを一瞥する。
それから思い出したかのように、「あ、あいつ『まろ』ね」と俺と猫宮に向けて紹介してくれた。
「『いふ』な」
ないこさんの言葉を訂正するように、低い声がそう告げる。
少し機嫌が悪そうにも聞こえたのは、恐らく俺たちをどうこう思っているわけではなく、ただこの受け入れがたい状況を理解しようと頭をフル回転させているせいだろう。
さっきから猫宮が黙りこくっているのと同じように。
「なんかよくわかんないけど、『いふ』だと猫宮の下の名前とごっちゃになるから『まろ』って呼ぶね」
そう言った俺に、「何でないこはさん付けで俺は呼び捨てなん!?」と、まろは解せないと言ったように声を荒げた。
だけどすぐに「……まぁえぇけどさぁ」と諦めたように首を竦めてみせる。
いつもこちらを論破してこようとする猫宮とは大違いな引きの良さだ。
恐らく、理不尽で効率だけを求められるような展開には慣れっこなんだろう。
俺の生みの親だと言うならないこさんがきっとそういうタイプだろう、いつも振り回されているに違いない。
俺もどちらかと言うとそのタイプだからよく分かる。
きっと状況把握とその後をポジティブに捉える判断力、それを実行する瞬発力なら猫宮にも負けない。
あいつは論理的で考えすぎるところがあるから、今も眉間に皺を寄せて俺らのやり取りをただ凝視している。
「ま、考えたってしょうがないしさ。とりあえずやってみる? 相手交換って多分俺とまろ、ないこさんと猫宮ってことだよね」
言葉に合わせて順に指差すと、一瞬にして猫宮とまろの顔が曇ったのが分かった。
ないこさんだけが「あはは」と手を叩いて大きく口を開けて笑っている。
そう、こういうのは考えるだけ無駄だ。
だってやってみないことには正解かどうかなんて知りようがない。
それなら一つでも多く、打てる手は打つべきじゃない?
よっと、とソファから立ち上がり、立ち尽くしたままのまろの方へ向かう。
その俺の腕を掴もうとしたのか、猫宮が一瞬だけ手を伸ばしかけたのが分かった。
だけど何かを思い直したのか、その手はすぐに引っ込められた。
それに気づかないふりをして、俺はまっすぐ前に向かって歩いていく。
ないこさんはおもしろいものを見つけたみたいな顔で、俺が座っていたソファの背に頬杖をつく態勢でにやにやと行く末を見守っていた。
まろの前まで行き、俺より数センチ高い顔を見上げた。
猫宮と変わらないはずなのに、なんだろう。
圧というか、存在感のようなものがずしりとのしかかってくる感じ。
割とたくましいその腕に手を伸ばして、きゅっと掴んだ。下から上目遣いで見上げる。
たかがキスだろ。
しかも相手は、猫宮じゃないにしても俺の好きな顔。
そう自分の胸の内で繰り返しながら、踵を上げる。
ぐ、と近づいた唇の距離。
今にも触れ合いそうな位置で、互いの息遣いすら感じられそうだ。
重なりそうなそれに、目を閉じようとした…そんな瞬間だった。
「……いたっ…!」
額に軽い痛みが走り、思わず目を見開いた。
何が起こったのか分からないなりにも額を押さえていると、目の前のまろが俺の前に指をかざしたまま不敵に笑っていた。
…こいつまじか、俺にデコピンしたな?
「まぁまぁ、他にも方法があるかもしれんし、ちょっとくらい模索しよ。思い立ったら突っ走るとこはほんまにないこそっくりやな」
俺の肩を優しくぐいと押し戻しながら、まろは互いの距離を通常のそれに戻す。
「な」と念を押すように同意を求められたけれど、うまく答えることはできなかった。
唇を歪め、額をさする。
そんな俺の後ろからは、猫宮のもう何度目か分からないため息と、心底楽しそうに笑うないこさんの声が耳に届いた。
コメント
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更新ありがとうございます! 毎日リアルに忙しくてコメント遅れます、、、 今回の話もなんていいんだろう、、 私もこんなに上手にかけたらなぁw 尊敬します!w