【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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青視点
……あっぶな。
思わず口元を手で覆い小さく吐息を漏らす。
あと一瞬自分の反応が遅れていたら、危うく手を出すところだった。
唇を重ねかけた刹那、瞬間的にデコピンに切り替えた自分を本気で褒めてやりたい。
目の前のピンク髪の高校生は不満そうに唇を尖らせて額をさすっていたけれど、そんなことはこちらの知ったことじゃない。
「…はぁ…」
朝起きてから今の今まで、息をつく間もなかった。
2つの世界が交錯し、目の前に自分たちが創り出したそっくりな人間が現れた。
元に戻るには相手を入れ替えてキスすること…?
そんな話をおいそれと信じて試みようとする思考が本当に信じられない。
他の方法を模索しよう、と言ったのは、自分にも他の3人にもクールダウンさせる時間を与えたかったからだ。
他に方法があるのかなんて知らない。
そんな時間に本当に意味があるのかも知らない。
ただ冷静になりたい、それだけだった。
それなのに、ないこはもちろん、乾無人にも腰を据えて思考にふけるという習慣はないらしい。
「考えるだけなら何かしながらでもできるじゃん」なんて声を揃えて言う2人に、俺と猫宮威風は断る間もなく外に連れ出された。
本当に、じっとしているということができないらしい。
どこまでもこの2人は効率の悪いことが好きじゃないようだ。
どうせなら休日を楽しみながら考えればいいじゃん、なんて言ったないこが選んだ場所は、都内の割と有名な水族館だった。
そう言えば前に配信で言ってたっけ。
動物園は匂いもあるし屋外だからあんまり好きじゃない、水族館の方が好き、なんて。
歌い手活動をしているとデートのど定番みたいなこんな場所に2人で来ることもなかったから、今日のこの選択は高校生2人のためのものなのかもな、なんて漠然と思う。
前の世界で着ていたのか、制服姿のままだった2人を、ないこの好みでないこの服に着せ替える。
かっちりしすぎない…割とラフで高校生らしさも失わせないような服に身を包み、無人は楽しそうに…猫宮は相変わらず無表情でその状況を受け流していた。
「……」
暗い館内で空いた椅子に座り、目の前の水槽を見るとはなしに視界に入れる。
組んだ足の上に頬杖をついた前傾姿勢で吐息を漏らすと、そんな俺の隣に苦笑いを浮かべながらないこが座った。
「水族館とか久々に来た。結構楽しいよな」
そう呟きを漏らし館内パンフレットのようなものを手に、目玉のショーが次は何時か、なんてチェックしている。
「一応念のため」と身バレ防止にキャップを目深に被ってはいるけれど、その目が楽しそうな色を浮かべているのは暗くても分かる。
「そういやまろ、あの時危なかったね」
揶揄するように声を弾ませ、ないこは急に話題を変えた。
周りの人の迷惑にならない程度の音量でそう言うと、パンフレットを一度ぱたんと閉じながらにこりと笑んで隣の俺を見る。
あの時…?
首を捻り、眉間に皺を寄せてその目を見つめ返した。
「無人にキスせがまれたとき。もうちょっとで本当にしちゃいそうだったじゃん」
お前俺の顔好きだもんなーよく直前で抗えたよなーなんて、ないこはおかしそうに笑って続けた。
…人の気も知らないで。
…いや、知っているからこそこんなことを言うのか、こいつなら。
分かってる、危なかった自覚はある。
多分思考があと一瞬遅れていたら…あの時、俺の腕を掴んだ無人の手が小さく震えていなかったら、避けるという判断は鈍っていたかもしれない。
ないこは多分、それを全部分かっている。
小慣れた体(てい)で何でもないことのようにキスという手段に出ようとした無人の心情も、それを俺がどんな気持ちで防いだのかも。
「たかがキスじゃん。お前ら考えすぎだよ」
ふふ、といつもみたいに眉を下げてないこは笑った。
ずっと前からないこの顔は好きだし、この表情も好き。
だけど、今だけはさすがに苛立ちが先立った。
ないこと同じ「おもしろけりゃ何でもいい」な姿勢のあの高校生は、それでもきっとさほど「そういう」経験なんてないだろう。
目の前に提示された「手段」を、一つずつ何でもないことのように試すしか選択肢がなかっただけだ。
いくらないこの「分身」のような存在だとしても、それを軽んじるような言葉は頭に血が上る。
そう自覚した瞬間には、思わず目を剥いて隣を振り返っていた。
「『たかが』とか、言うな…!」
少なくとも無人にとっては「たかが」じゃなかったはずだ。
もちろん、俺にとっても。
自分の好きな相手じゃない人間とのキスを、そんなに簡単に割り切れるわけがない。
しかもその好きな相手に見られながらしなくてはいけないなら、尚更だ。
思わず声を荒げた俺に、ないこは今度は驚いて目を瞠った。
思ってもみなかったこちらのリアクションを食らい、ピンク色の瞳が少しだけ揺らぐ。
「まろ…」
面食らった表情で、それでも珍しい俺の剣幕に戸惑ったのか「…ごめ…ん」と小さく言葉を継いだ。
「…先出る」
俺の腕を掴もうとしたないこの手をすり抜けて、そのまま長椅子から立ち上がる。
真っ暗なフロアを抜け、すぐ近くの扉を押し開いた。
屋外のゾーンに出て、大きく息を胸に吸い込む。
明るい太陽の光がこちらを照らし、さっきまでの暗闇との差に思わず目がくらんだ。
ないこと同じように身バレ防止のためのキャップを深くかぶり直しながら、壁に背を預け大きくため息をつく。
…さすがに、怒鳴るつもりはなかった。
だけどこれは不可抗力だ。
「たかがキス」…?
俺にとってないこ以外の人間とのその行為が「たかが」?
分かってる、ないこは冗談まじりに言っただけで本当はそんなこと深く考えて口にしたわけではない。
だからこれは俺の八つ当たりでしかない。
「まろっ」
追いかけてきたのか、慌てたようにこちらを呼ぶ声がした。
ゆるりと顔を上げると、そこにいたのはないこではなかった。
似た声のピンク色の髪の高校生。
フロアを出た俺に気づいて追いかけてきたのかもしれない。
「どした? 水族館やっぱりつまんない? まろは動物園の方が好きって言ってたもんね」
派手髪で顔の整った少年に、周囲の人間がちらちらと振り返っているのが分かる。
向こうでは読モをやっている無人も、この世界では身バレを気にせずに振る舞うことができるようだ。
だからこそ変装の必要もなく、誰よりも全力で水族館内を楽しみ、自分の見たいところを次々にくるくると回っていたはずだ。
なのにこちらの様子に気づいたのか、わざわざ戻ってきたらしい。
「…いや、そんなことないよ。楽しい」
笑ってそう返すと、「ほんとに?」と疑ったような目が俺を上目遣いに覗きこんでくる。
……まじで顔がいいな。
あとそうやって本当は誰よりも人の様子に鋭くて、きちんと気遣えるところはないこそっくりだ。
「…かわいいなぁ」
思わずぼそりと本音が零れ落ちた。
出会ったことのない高校生の頃のないこはこんな感じだったんだろうか。
思わず手を伸ばして、その頭をぽんぽんと撫でた。
「か…!?」
向こうにとったら脈絡なんてないだろう俺の言動に、一瞬で無人の顔が赤く染まっていくのが分かる。
「ちっちゃいないこたん、かわいい」
「いやちっちゃくねーし!」
顔を赤らめたまま、無人は眉を寄せて唇を尖らせた。
そうやって俺に抗議の言葉を継いだ瞬間、その無人の体がぐいと後ろに引かれる。
急な力が自分の身に加わり、バランスを崩した無人は「おわっ」とひときわ大きな声を上げた。
そんな様子には構うことなく、後ろからその肩を引いた猫宮が、俺と無人の間に割って入るようにその身を盾にする。
「『ないこ』じゃない、『無人』。失礼じゃないですか?」
まっすぐに青い瞳がこちらを見据えてそう言った。
「…ごめん」
その圧に思わず反射的に謝ってしまった。
それ以上の言葉を継ぐ前に、無人の方が先に「おい猫宮ーそんなことでいちいち突っかかんなよ」なんてなだめるように口にしている。
だけどその表情は、言葉とは裏腹にとても嬉しそうで。
きっと俺と無人の距離感に嫉妬しただろう猫宮の、その突っかかってくるような言動が嬉しかったんだろうな。
「お前ほんとに俺のこと好きだよなー」
「はぁ? どこをどう聞いたらそうなるわけ? もうちょっと考えてから発言しろ」
目の前で広げられるやり取りに、少しでも羨ましい気持ちになってしまったのは罪だろうか。
「……ないこ呼んで、イルカショーの場所取りに行こうか」
気を取り直すようにそう言い、俺は壁から背を離す。
2人を連れ、さっきまでいたフロアに引き返した。
コメント
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こう、なんて言ったらいいの、、? 言葉に言い表せない、、😭 とにかく言えるのは、よくこんなに文章書けますね、、?私なんかすぐ終わっちゃうのに、、もう、崇拝しますw