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#怪異
阿炎快空
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阿炎快空
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みぅです🤍🥀 第三部、完結おめでとうございます…! オーマが天使みたいな姿で戻ってきたシーン、本当にじんわりきました。埋めたのに帰ってくるって、修さんの想いが届いたんだなって思えて、胸が熱くなりました。 蒼梧の「腰抜け野郎」も由宇との距離感も、日常が戻ってきたからこその空気感がすごく良くて、最後の「今日も、空が青い」という一文が、全てを優しく包み込んでくれたようでした。 阿炎先生、本当にお疲れ様でした…!
無事に、最後の門が閉じ。 任務の終了を確認すると、『囲』の面々は車に乗り込み撤収を始めた。
僕らはそのうちの一台に乗せてもらい、自宅まで送ってもらった。
もう一台バンが後ろからついてきたが、そっちには僕と蒼梧の自転車やら、その他の置いていった荷物やらが積んである、とのことだった。
自転車のことなど、すっかり忘れていた。
家を抜け出し、廃ビルへと向かったのが随分と昔のことに思えた。
僕は相変わらず庭に置きっぱなしなシャベルを使い、蒼梧、由宇、幸村さんが見守る中、オーマを庭に埋葬した。
本来、異界から持ち込んだ物は全て回収する決まりらしいが、幸村さんが特別に許可してくれたのだ。
(磯田さんにもらったホルスターは没収された)
オーマは車で移動している時から徐々に無口になっていき、土を被せる時には、もう何も喋らなくなっていた。
オーマを埋葬し終えた僕に、幸村さんが名刺のような紙を渡した。
「何かあったら、ここに連絡を」
それは、電話番号とメールアドレスのみの書かれた、シンプルなカードだった。
「ベッドに横になったら、余計なことは何も考えずに目を閉じてください。まあ、大雑把にではありますが——起きた時には大体の帳尻があっているはずなので、ご心配なく」
意味はよくわからなかったが、聞き返す余力はなくなっていた。
この後は、蒼梧と由宇の家を順に回るらしい。
車が見えなくなるまで見送ってから、僕はこっそり家の中へ忍び込んだ。
僕は親を起こさないように注意しつつ自分の部屋へ行くと、着替えもせずにベッドに倒れこむ。
とにかく疲れていた。
外からは、朝を告げる鳥たちの囀りが聴こえている。
限界だ——今日は学校を休もう——仮病でも、何でも使って——
——ピピピピピピピピピピピピ!
大音量で、枕元の目覚まし時計——僕は朝が弱く、スマホのアラームでは起きられない——が鳴り響き、僕はパチリと目を開けた。
疲れは微塵もなく、頭もスッキリしている。
それだけではない。
いつの間にか、僕は寝巻きに着替えて、布団の中に入っていた。
体中にあった傷や痣や汚れも、綺麗に消えていた。
まるで、全てが夢だったかのようだ。
しかし夢ではないことは、机の上に投げ出された、幸村さんから貰ったカードが証明してくれていた。
蒼梧と由宇も、結局は僕と同じく、休まず普通に登校してきた。
由宇が教室に現れても、誰一人として騒がなかった。
由宇の行方不明自体が、すっかりなかったことになっていたのだ。
休み時間に詳しく話を聞いたところ、由宇の両親も、何食わぬ顔で彼女に「おはよう」と挨拶をしてきたらしい。
——こうして僕らは、日常へと戻って行った。
蒼梧は人間の姿に戻ったものの、臍がないのは相変わらずだった。
それに——人間離れした身体能力も。
どうやら定期的に『囲』専属の医師達による検診を受け、体の急激な変化や、人間を襲う衝動が生じていないかをチェックしているらしい。
何とも不便な話だが、蒼梧曰く、
「聞いた話じゃ、そんな風にして人間社会に溶け込んでる存在は、案外多いみたいだな」
とのことだった。
由宇はバスケ部を早期引退した。
表向きの理由は「受験勉強に専念したいから」というものだったが、実際は違った。
自分の念動力や予知能力が、無意識にでもプレイに影響を与えてしまうとしたら、選手としてフェアではない——そう考えたらしい。
「まあ、前々から、そろそろ勉強に本腰入れようとは思ってたから」
そう言って笑う由宇に、僕はさりげなく志望校を尋ねてみた。
返ってきた答えに、僕は自分も勉強を頑張らねばと大いに焦ることになるのだが——それはまた別の話だ。
そうそう。
忘れてはならない存在がもう一人——いや、もう一匹居る。
あの夜の冒険から一週間ほどが過ぎた、とある休日。
お昼近くに起きた僕が、上体を起こし、うーんと伸びをしている時だった。
「——おはようございます、修さん!と言っても、もうそんなに早い時間ではないですけどね。太陽もすっかり真上にあがっちゃってますよ?」
「別にいいだろ……今日は休みだし——え?」
欠伸混じりに返事を返してから、僕はようやく状況の異常さに気づいた。
ベッドの上——目の前に、オーマが浮かんでいた。
その背中には天使のような白い翼が生えており、パタパタと羽ばたいている。
「な——ど——どうして——?」
「いやあ、こっちが訊きたいくらいですよ。気が付いたら、埋められた場所の上で、こんな姿になってまして——」
「オーマ!」
僕は思わず大声で叫びながら、オーマを抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「アハハハハ、苦しいですよ、修さん」
そう言うとオーマは半透明の姿となり、僕の腕をすうっとすり抜けた。
「わっ!?」
「どうです、凄いでしょう?こうすると、霊感のない人には見えなくなるみたいですね。翼も体内に収納できるんですよ!」
ひとしきり再会を喜びあった後——僕は幸村さんに電話をかけた。
スピーカー機能をオンにして、現状を説明する。
『なるほど——オーマさん、そこに居ますか?』
「はーい、居ます居ます。その節はどうもー」
『ふむ——確かに幽霊というよりは、どことなく天界の使いにも似た気配を感じますね』
「でも一体、どうしてこんなことに?」
僕の問いかけに幸村さんは、
『さあ、全然わかりません』
と、素直に認めた。
『まあ、いいんじゃないですか?特に邪悪な気配も感じませんし』
「は、はあ……」
そんなにアバウトな感じでいいのか?
思わず脱力する僕に、オーマが言う。
「ホラ!きっと、アレですよ!修さんが、心を込めて弔ってくれたおかげです!神様がボーナスタイムをくれたんです!」
「またそんなこと言って……」
思わず苦笑する僕だったが、
『いえ、案外そうかもしれませんよ?』
幸村さんが、電話の向こうでそう言った。
微かに笑っているのが、口調でわかる。
『あなた達は、あれだけの試練を乗り越えたのです。それくらいのご褒美があっても、バチはあたらないでしょう』
幸村さんのその言葉を受け、僕はオーマに再度問いかけた。
「ねえ、オーマ。前にも一回訊いたけど——よかったら、うちに来るかい?」
「はい!喜んで!」
オーマが嬉しそうに僕の周りを飛び回る中、
「そうそう、話は変わりますが——」
そう言って、幸村さんは僕に尋ねた。
『——たしか、修さんは中学二年生でしたね。将来については、何か考えていますか?』
「将来、ですか?——ぼちぼち、受験勉強はしなきゃと思ってますけど——夢みたいなものは、特に」
そうですか、と呟き、幸村さんが続ける。
『修さんに、蒼梧さんに、由宇さん——あなた達三人には、特別な力がある。それを活かしてみる、というのも一つの道ですよ』
「それは——例えば『囲』に入るとか、ですか?」
『その他にも、怪異から人々を守る者達は、公的機関や民間——私のような拝み屋の一族や、個人で活動している霊媒師も含めて多数存在します。無理強いはしませんが——あなた達のような仲間が一人でも増えてくれると、私も心強い』
何だか、漫画のようで現実味のない話だ。
蒼梧や由宇ならともかく、僕なんかじゃとても務まりそうにない。
そう伝えると、幸村さんは、
『おや、随分と自己評価が低いんですね』
と意外そうに言った。
『ここだけの話——私個人は、三人の中ではあなたを最も高く買っています』
「え?ぼ、僕ですか?」
『ええ。あなたは、とてもいい目をしている』
ああ、と頷き、僕は自分の右目を、掌でそっと覆った。
「まあ確かに、蒼梧や由宇よりは、感知できる怪異の種類は多いですけど——」
『そっちの目ではありませんよ』
「え?」
『まあ、自分ではわからないでしょうね——おそらく、彼女ならば私に同意してくれると思いますが』
彼女?
ポカンとする僕だったが、一瞬の後、全てを悟って絶句した。
この人は魔法の鏡越しに、僕の記憶を読んでいる——つまり——
「み、見たんですか!?ぼ、僕が夢の世界の——屋上で、由宇に——」
『フフ——思わず、学生時代を思い出してしまいました』
「ちょっと修さん!何の話ですか!?屋上って何ですか!?」
オーマの声がやかましく響き渡る中、幸村さんは、
「まあ、冗談はともかく——」
と、クスクス笑いながら言った。
「——さっきの件は、まだ先の話です。今は精一杯、青春を謳歌してください。素晴らしい仲間達と一緒にね」
「——てか、まだ付き合ってねえのかよお前ら?一回ちゃんと告ってんだろ?」
前を行く蒼梧が、こちらを振り返りながら呆れた口調で言う。
僕はグッと言葉に詰まりつつ、半透明になって傍らを飛ぶ、秘密を守れないお喋りなサビ猫を睨みつけた。
オーマは気まずそうに明後日の方向を向いて、ぴゅーぴゅー、と口笛を吹く真似をしている。
——朝の通学路。
僕と蒼梧は、縦に並んで自転車を漕いでいた。
オーマが僕の家に来てから、一週間が経っていた。
両親の前では普通の猫のふりをしているが、時々こうして、一緒に学校までついてきたりする。
その首には、飼い猫であることを示す赤いリボンが結ばれていた。
学校目前の横断歩道が赤になり、僕らは自転車を止めた。
しょうがないだろ、と力なく呟き、僕はうだうだと言い訳を重ねる。
「返事を聞く前に、夢の世界は壊れちゃったし——その後は、急いで『森』から脱出しなきゃならなくて——なんやかんやで、うやむや状態というか――」
「……」
「何だよ——言いたいことがあるなら言えよ」
「言っていいのか?」
「……ごめん、やっぱりやめて」
「腰抜け野郎」
「やめてって言ったよね?」
蒼梧はわざとらしく溜息を吐くと、
「ったく、しょうがねえな——そんな奥手なお前らのために、この俺がとっておきの呪符をくれてやろう」
そう言って、ポケットから紙きれを二枚取り出した。
「何それ?」
「遊園地のペアチケット。この前、商店街の福引で当てた」
やはり、守護霊の加護で運気が上がっているらしい。
「あ、ありがとう……でも、いいの?」
おずおずと尋ねる僕に、蒼梧は、おう、と頷きつつも、
「でも気をつけろよ。マジの呪符と違って、誘い文句は勝手に口をついてでちゃくれねえぞ?」
そう言って、ニヤリと笑った。
僕がチケットを鞄にしまっていると、信号が青に変わった。
「あ、由宇さんですよ!おーい!」
オーマの言葉の通り、正門の前で、由宇がこちらに手を振っているのが見えた。
僕は何と言って由宇にチケットを渡そうかを考えつつ、ペダルに置いた足に力を込めた。
横断歩道を渡りながら、夏の日差しに目を細める。
今日も、空が青い。
【第三部・宵闇血戦宵闇血戦 完】